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本編3 始まりのダンジョン入場します

第十三話 始まりの迷宮で邂逅(13)

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「えっ? こんな長い時間かかったんだ。もうすぐ八時半だよ」
 左手首のアナログ針をチラ見しながら驚く。無意識に叫んだ。

「えぇっ。ケーちゃんさぁ。あーしら水分だけで夕飯まだしょ」
 前の両眼が飛びだすような表情。美少女の変顔もおもしろい。

「そだね。夕方の地震だよ。準備おえてからすぐに公園きたし。
ダンジョンで三時間も過ごしたんだ。そんな感じないんだけど」


「んーっと興奮してるの? お腹減んないね。時間の感覚ない」
 腹時計の鳴らない永依。時間間隔の認識に齟齬があるらしい。

「時計正しいからね。ダンジョンは時間早く流れるとかないよ」
「そだよねー。なんか急にお腹減っちゃったー。お家帰ろうよ」
 お家が恋しいと永依がつぶやく。本心だと感じられる真剣さ。

 帰り道は焦る必要もない。ゆっくりした速度で出口に向かう。
時間に差があるはずもない。すぐ階段前広場に戻れたらしいよ。

「そういえばココ。最初っから地下だよ。カードもってないけど
出口で必要だよね」なんとなくこぼしても即座に反応されない。


「うーん。出口取っ手に触れると光るボール。でるんじゃね?」
 どこか不可解な表情しながら思案する永依。答えも絶妙だね。

 改めて入口。扉を握った際の現象を回想する。確かに光る玉が
空中に現れた。割れたらきらめくカードだ。地面に落ちたよね。

 カードをパネルに触れさせた。入室したら階段だけの部屋だ。
「帰りは登りか。百段ツラいよね」義足の人間だ。厳しい試練。

「んー。あーしとココちゃん二人。ケーちゃん抱えよっかー?」
 姪っ子の気配り発言だ。障がい者である自分も照れくさいね。

「いやいやいや遠慮しとく。エレベータないのが残念だけどね」


【任意ノ階層デ転移可能ダ】プラス【全員攻略ノ階層デ移動ダ】
――脳内に響いた機械音。なぜか神様からの福音にも聴こえた。

「うおっ? 一瞬で目の前エレベータ。できちゃったんだけど。
なんて親切丁寧なダンジョン。管理人さんに感謝しかないよね」

 実際はエレベータじゃない。特定階層に転移する装置らしい。

「これならケーちゃんもラクショー」永依は満面の笑みだった。
 エレベータに乗りこんだ。扉が閉まるとそのまま転移らしい。

「えっ。ついたの? なんも感じない」永依の驚愕した叫び声。
音もなかったよ。まったく振動感じないままに扉があけられる。


『高度に発達した文明は魔法と変わらない』そんな言葉もある。

 超越した魔法の社会。その結果で形作られたダンジョン空間。
もしくは進んだ文明の科学的手法で具現化されたダンジョンだ。

 現実にあるダンジョン。どっちにせよ人間に理解できないね。

 階段昇降口の正面。繋がる位置がそのまま迷宮の出口になる。
正面は扉だけ。なんにもないテニス協会建屋に繋がる階段室だ。


 エレベータの扉がひらくと同時。正面は妙な文様の扉だった。
つまり下を見ると正面。地下に向かう幅5mの階段口なんだよ。

 入室同様なんにもない空間だ。照明なくても視界はひろいし。

 異なるのが往路は勢いで侵入の二人組。メンバー増えたよね。
オマケとして永依の奴隷ウサ耳美少女。ココも同伴してるから。

 その結果として三人に増えた。エレベータから並んで降りる。


「正規の許可証だっけ? 表面の名前と十一桁の数字だったね。
入退の際に必要なカードもらえんだ。ココちゃんも必要じゃん」

 永依の何気ない言葉。律儀な反応が返る。ココの目前で光球。
現れてすぐに破裂する。きらめくカードが出現と同時に落ちた。


 興味ないらしいココ。無言のまま目前のカードを拾いあげた。
「ふーん。早速だけど宇佐美ココって名前だよね。あとは数字と
裏面の文字列だよ。『心臓喰らい』なんかの名前。なんだろね」

「はぃい? かっけー名前じゃん。ココちゃんだけにズルくね。
あーしも欲しい」かなりふてくされた表情。永依のつぶやきだ。

 ポケットを探る。カードを見ながら驚きの表情。硬直したよ。


「ケーちゃんびっくりー。あーしのカード『神の拳』だってさ。
カッコイーじゃん」いま泣いたカラス。もう笑うの体現だよね。

 姪っ子の外見はギャルだ。それでも比較しようのない美少女。
「英語ならゴッドハンド? なんかかっけー複数形のハンズだ」
はしゃいで大喜びの表現だ。文字列を眺めてつぶやきをこぼす。

「はぁ? さっき裏面なんもなかったよ……えー『分析師』って
一体なんなんだ。数学者みたいで変態チック。おかしいよねー」

「リアル・チェッカー。盗聴犯じゃん……」情けなくて撃沈だ。


 互いのカード。見比べて同時に不思議な文様の扉に近づいた。
「もうすぐ21時……腹へったよ。早く家帰ろ。ご飯とお風呂」

「うん。ケーちゃん手作りの焼きそば。ココちゃんとお風呂だ」
 つぶやきに明るく応じた永依。ココの顔をみながら微笑んだ。

 まずココに人間の常識……日本の生活。習慣も理解させよう。
生活面で困らない最低限の教育。見た目だけなら同い年だよね。

 お互い仲良く同居生活。それを楽しんでもらえるなら嬉しい。


「家に帰るまで遠足も終わらない」ここからは残念なお知らせ。
地下迷宮の出口が日常だ。寒さを感じられる外。まだ先は長い。
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