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本編3 始まりのダンジョン入場します

第七話 始まりの迷宮で邂逅(7)

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「うわああぁぁぁっ。なんだこれなんだこれ。なんだこれー!」
 その絶叫と同時だ。跳び退った瞬間につまずいて転がったよ。

 奇妙に歪んだ義足。傍で見つめる視線に気がつく余裕もない。
これでも初体験だ。あまりの情けなさにマジで泣きたくなった。


「一メートルはあるよね?」戦慄して叫んだ。涙も止まらない。
頭上からの襲撃だ。いきなり初モンスターが現れたから驚いた。

「いきなりじゃん。驚いたよね」なだめる声音で隣から慰めだ。

「マジにデカすぎる! 普通のオオムカデは十センチぐらい?」
「ダンジョンだから当然じゃねぇ?」即応した声色も妙に軽い。

 ニヤリとした笑みをうかべ安全靴の鉄底で頭部を踏む永依だ。
頭部は潰れているのに動きが止まらない。節足動物は気色悪い。

 正面から顔色も変えず踏みつづける少女だ。正しく害虫扱い。


 多脚で漢字なら百足になる。運動性も優れた肉食の生き物だ。
オオムカデは体内毒もある。触れるだけで大惨事になる害虫だ。

 格闘少女が何度も踏んだ。ようやくおとなしくなったムカデ。
「やっと死んだよねしぶとい。なんも落とさないし残念っしょ」


「うん。死骸のままで残るんだよね。内蔵とびちったりもない」
 おそらくは現実の虫や動物と別物。生命と身体が別の次元だ。

 オオムカデの死骸に触りながらつぶやく。かなり気持ち悪い。

 これもすべて検証作業なんだ。だがしかし間違いなくキモい。

 永依の言葉どおりドロップ? 金貨やポーションの形で見える
報酬は存在しない。経験値を得た可能性はあるが目で見えない。


 残念だけどステータス画面も存在しない。現実は厳しいのだ。
ゲームじゃないリアルのダンジョン。仕方がないと諦めるだけ。

 なんとなく通路の端を見る。這いずりながら進む細長い身体。

 女の子なら速攻で逃げるモンスター。うにょうにょと這いずり
前進する生き物。うす暗いピンク色がメチャクチャ気持ち悪い。

「ケーちゃんの番ね。頑張って」平然とした顔色は変化しない。


「キモいよ」一歩も動けない。足先で突かれて行動を促される。
「…………」2センチに近い極太のミミズだ。無言で見つめた。

 ウネウネと動く姿形はヘビに似ているがうす汚いピンク色だ。
30センチ近い生き物は白人種のナニを想像させるおぞましさ。

「デカすぎるしキモいよ。マジ言葉にできないけどアレみたい」
 一つ間違えるとセクハラ行為になるだろう。ほぼ犯罪だよね。


「アッハッハほんそれー。ケーちゃんサイズはしらないっしょ」

「ドン引きだからやめてね。まぁ中身とびちらないからマシか」

 地面を叩きながら大笑いされた。苦笑しながら金属棒を振る。
モンスターかオオミミズか分からない生き物の動きが止まった。

「なんかフニャフニャで気持ち悪い。本気でスルーしたくなる」
「それが冒険じゃね♪」嘆くだけの状況に即応した少女が笑う。


 かなり長い一本道。曲がりくねった通路を無言で進む二人だ。
うす暗い周囲を気にせず歩いた。足先はまったく見えないけど。

 ゆっくりと歩くだけなら問題ない。義足にも幸いした状況だ。

「西園ほとんどテニスコートよ。一キロないのにおかしくね?」
 傍らの少女も変わらないスピード。ゆっくり話しかけられた。


「そだね。んーとねどんな説明したら伝わるのかなぁ。もちろん
テニスコートの建屋が入口なんだよ。だけどダンジョンってのは
位相なんかが別で。二次元は面で三次元が立体。四次元の……」

「あぁ聴いてもわかんねぇ。詳しい説明なんかいらないっしょ」

「…………」頭を抱える永依に無言の応酬。おバカは治らない。


「とにかく地上とダンジョン。内部はまったく関係ないんだよ」

「それ。そんなの関係ねーそんなの関係ねー。ほんそれだねー」
 すべてをお笑いネタに結びつける少女だ。苦笑するしかない。


 ゆっくり一本道を進みながらの道中で発見した巨大なアリだ。
それも5センチにみたない程度のアリは雑魚モンスターだろう。

「きっとアレだよね。先行者が階層主倒したからザコばっかし」

「ふーんそんならさ階層主部屋? いっちゃん奥まで急ごうよ」
 即応した永依にうなずく。ゆっくりでも迷宮を進むしかない。


 現れる敵を倒しながら数十分も経過する。たどりつく最奥部。

 暗い通路を抜けた先。長いトンネルを抜けるとそこは雪国……
のはずがない地下だ。すこし明るくて岩肌の拡がる空間だった。

 ドン突きは壁だ。不思議な文様で奥にひらかれる扉が見える。
描かれる文様から入口と同じだろう。縦横の幅がちがうだけだ。

 扉を前にしながら異様さに驚く。否応なしに緊張させられた。


 このあと出逢う存在。敵か味方なのか。まだ誰もがしらない。
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