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本編2 始まりの先で待つしらない相手

第五話 始まりの迷宮で邂逅(5)

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「ケーちゃん。あーしらは売りだしの前。誰にもしられていない
芸人ちゃうよ。モンスター倒して強くなるために急ぐっしょー」

 両掌モミモミしながらの妙な関西弁。永依が愛らしく見える。
だがしかし姉に振りまわされた経験則。耐性が備わってるんだ。

「いやいやエーちゃん。最初からツカミとネタまでちがうから。
揺れが収まって公園まで調査にきたんだ。そこはいいのかな?」


 妙に気取る仕草になったのかな。目前の姪っ子も逆らわない。

「うぅ。そりゃそーだけど。全然ちげぇっしょ。インチキ野郎が
先いっちまったよね。あーしらさぁ。追いかけるしかねぇしょ」
 ……お粗末な永依。あまりにも残念すぎる思考に呆然とした。


「なにもわかんないから試練の時。スルーでいい。メリットより
デメリットだからね。判断ミスの失敗考えるだけでおそろしい」

 ゆっくりおバカに理解しやすく言葉を切る。「………………」
理解したのかな。落ちこんだらしい。うつむいたままで無言だ。


「エーちゃんの考えもわかるんだよね。ゲームならさ……すぐに
死んじゃったり大ケガもしないよ。初っ端は一撃のザコばっか。
だんだんと敵も強くなるんだけどね。ゲームじゃ暗黙のルール」

 強めで戒めの言葉がけだ。調子に乗せないためにも牽制した。

「ゲームとリアルは別だから。苦労もせず倒せる敵ならいいね」
 先走る気もちを抑える楔だ。いま打ちこめば安心できるから。


 おそらくは扉の先なんだ。ダンジョンに繋がる階段も見える。
扉の開閉キーだろうきらめくカード。苦労もせずに入手できた。

 未知の領域まで繋がるダンジョン。確かに興味は尽きないよ。
間違いないだろう。これでも虫の良すぎる状況とは呼べるんだ。

 かなり強いから頼れる少女。芸人じゃないけど相方だからね。
「ダンジョン」初めて小説とかゲームで登場した作品はなんだ?

 現実逃避する意味じゃない。ダンジョンを考察する一環だよ。

 幼少期からマンガ。アニメーションが好きで重度のオタクだ。
小説なんかも好き。ミステリとハードボイルドは相当数読んだ。


 活字中毒と呼べるほどじゃない。だがしかし読解力はできた。

 生きがいだった走ること。失ったあとから得たものもあるよ。

 ゲームを嫌う理由もない。モニタ画面の全集中で目が疲れる。

 近頃は長時間。画面集中が難しいだけだ。老化したんだろう。


 実写やアニメーションは美しい映像。迫力ある音声が好みだ。
かなり昔のゲームかな。その記憶をたどると親が話題にした――

 現代とちがいスマホさえ存在しない時代。かなり大昔だよ――
シンボルになるリンゴマーク。世界一有名なコンピュータ会社。

 合衆国のシリコンバレイ。二人の天才が起業した会社だった。

 家庭用と呼べない据置きコンピュータ。共同開発で販売する。


 ほとんど消滅した記録媒体。カセット型磁気テープ。初期言語
プログラムを開発。モニタ画面で遊ぶために創られたゲームだ。

 実際にゲームで遊んだわけじゃない。詳細もまったく不明だ。
前の敵を倒しながら地下迷路を進むんだ。そんなゲームだよね。

 地下迷宮を探索する冒険もの。アクション映画も製作された。 

 幻想ヨーロッパ舞台のファンタジー。定番なら指輪物語だね。
原題が「ロード・オブ・ザ・リング」実写。映画も公開された。

 そのすべてがルーツ。また別次元の理で誕生したダンジョン。


 おそらく正解も存在しない。でたとこ勝負なんだろうからね。

 知識とか思考をめぐらせる。かなりの時間が経過したらしい。
短気で定評ある一族。傍にいるギャルも暴れ始める直前だよね。

 しばらく意識をとらわれた脳内。ふたたび機械音が響いた――
【単独デ階層ノ攻略ヲ確認】プラス【新人類ノ進化誕生ヲ認識】


「おぉなんてこった。ついに先行者が階層主まで倒したらしい。
オレたちダンジョン階段まだなんだけど。攻略はやすぎない?」
 まさかの短時間。一層だけでも攻略できるのは想定外だよね。

「あぁっ。マジに残念っしょ。あーしら負けちゃったんだよね」
 嘆く姪っ子を見つめた。素早く脳内だけで思考をめぐらせる。

「勝ち負けじゃないよ。ダンジョンは一番乗りが優位でもない。
まだ誰もしらない場所だからね。可能性の固まりかもしれない」


「わけがわからないよ」永依がつぶやく。同時の思案顔だった。
 調子に乗せず慎重な行動を促す作戦だけど。失敗したのかな。

 ここからのダンジョン。なにが待ってるのかな。理解できない
状況には困惑しかない。可能な限りの安全確保は必然だからさ。

――明日を想像する。未来が分かる存在なんてどこにもいない。
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