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本編1 始まりが公園ダンジョンの誕生

第三話 始まりの迷宮で邂逅(3)

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【生命ト身体ノ保持ガ無効】――はっきりと機械音声が伝えた。

 生命の危険も……ダンジョンの日常だ。一層気をひきしめる。
モンスター討伐の恩恵はゲームだよね。あんまり意識もしない。

 だがしかし危機の察知は可能。お気楽姪っ子に理解させたい。

「ちゃんと聴いて。ここからはダンジョン。ガチなモンスターも
出現するよ。人間は弱い生き物だからさ。すぐ死んじゃうんだ」


 戒めの言葉を聴いてきょとんと首を傾げた。納得しないよね。
「ケーちゃん。あーし強いからさ。モンスターも指先でダウン」

 右拳を握って下に親指を伸ばす全力宣言。確かにケンシロウが
理想だったよね。苦笑いしながら戒めるためにはっきり伝える。

「エーちゃんが強いのはしってる。だけどリアルなダンジョンは
誰もしらない場所。ゆっくり進みながら検証するのが正解だよ」


「でも敵なんかたぶんザコじゃね。そんなビビんなくってもさ」
「とにかくね。落ちついて欲しいんだ。守ってくれるんだろ?」
 お願いを聴きながらうなずいた。両拳をやけに強く握ったよ。

「まだなんにもわからないね」つぶやきながら進んだ細い夜道。
抜けると靭公園だ。なにわ筋とあみだ筋の間が西園と呼ばれる。


 日頃とはちがい照明もない。あわく照らした薄もやが異様だ。

 そのまま南東口を直進。西園に入場すると巨大なテニス場だ。
 なにわ筋の傍で大会も開催された。石段観客のテニスコート。

 コートの脇に立つ白と黒。シンプルな建屋に並んで近づく――
【建物内部ガ迷宮ノ入口ダ】――ふたたび脳内。音声が響いた。

 関西テニス協会本部。事務所と聴いたことある建物だけどね。
白と黒が基調でシンプル。おちついた雰囲気の木造平屋建てだ。


 音をさせずに近づく。扉の前で一旦静止。取っ手を握ると――
【初ノ正規デ入場ヲ確認ダ】――そんな内容だ。理解して驚く。

「ケーちゃんおかしくね? なんかインチキ野郎いるじゃんか」
「相手が野郎かもわかんない。ダンジョンかもしれないけどね」
 また脳内で響いた音声は同時らしい。聴いた印象を伝えあう。

 入室した部屋に誰もいない。最近は日曜の営業しないのかな。

 建物の外見におかしな変化も感じなかった。だがしかし現実を
巻きこんで内部改変された。家具からしきりまでなんにもない。


 正面が不思議な文様の扉だった。他になにも存在しない空間。
通過すると迷宮に繋がる階段だろう。たぶん間違いないはずだ。

「ねぇねぇ不法侵入だっけ。器物損壊? ヤクザの一件と同じ。
しつこく爺ちゃんから怒られっかな。また大目玉くらっちゃう」

 マジメに悩んでるらしい。かんたんな知識で説明してやるか。

「んんー。ダイジョブじゃないのかな。たとえばになるけどね。
窓から見た雰囲気が異様だから調査にきた。言い訳できるし?」

 これから起こるかもしれない面倒。想像してみるが問題ない。
「へぇ。いまここ警察とか自衛隊? 警備員さんいないもんね」


「そだね。余所もダンジョンできたかな。忙しんじゃないの?」
 何気ない日常。これからは変化するなとなんとなく意識する。

「まぁね。うちに帰ってからネットだ。詳しくしらべよっかな」
「ん。とりあえずなにもない。あっちのおおきな扉に近よろう」
 未来はわからない。考えるだけ無駄だよね。黙って進むだけ。

「りょ。たぶん地下に降りる階段だよね。がんばりマッスル!」
 お笑いネタだ。いつも場を和ませようとして朗らかに笑った。

「部屋に階段かな」つぶやきながら取っ手に触れると同時だ――


 ほとんど同時だろう――ふたたびの脳内。機械音声が響く――
【地下ニ新規入場ガ可能ダ】プラス【試練ノ時ヲ開始スルノカ】

「おぉなんてこった。ここからなんだって。なんかの試練だよ」
 わけがわからないから嘆くしかできない。ため息しかでない。

「それよかさ。試練ってなに?」悩める少女のつぶやきだった。
「さぁ。相手に試されるんだから。シミュレーションで闘う?」


「なんだろね。チュートリアルみたいな特典だったり。サービス
サービスゥー!」不可解な言葉だ。期待できるのがおバカさん。

 だがしかし現実はかくも厳しい。意味がなく期待しても無駄。
 想像もできないリアルなダンジョン。人生そんなに甘くない。
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