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本編1 始まりが公園ダンジョンの誕生

第二話 始まりの迷宮で邂逅(2)

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 北向き窓から望める夕暮れ公園。立木の先にはテニスコート。

 ダイニングから台所照明を点灯する。ため息まで同時だった。
下拵えでも限界なんだ。毎食メニュー選びが限りなく悩みの種。

 料理を学べる余裕もない。ほとんどひきこもりに似た暮らし。

 かなり酒好きなんだよ。アテにして食べるだけで満足できた。
前なら外食かスーパーのお総菜。好き嫌いしないから問題ない。


 そんなお気楽単身者生活も終わった。嘆きながら了承したよ。
辣腕だと噂される姉の直訴なんだ。抗う術もないから仕方ない。

 年齢差もある。高校時代罹患した骨肉腫の治療で助けられた。
家族で済ませられない借りだ。お返しに考えるなら逆らえない。

 お詫びに近親者から共同の贈り物だ。ホンダ新型CIVICは
黒いボディ。車いすの簡易移乗と運転可能に改造されるらしい。

 車両登録まで済ませて届けられる。走れば十分なんだけどね。
おそらく八桁に届く総額なんだろう。言葉を失くすプレゼント。


 年始早々に同居生活が始まった。徒歩圏私立に通う姪は笑顔。
おバカな姪っ子が内申点で進級できる。一貫教育のすばらしさ。

 部活動に特化した名門。実績から評価された姪っ子も大喜び。

 昔から妙に懐かれた。栄養面で問題あるから気配りは必須だ。

 野菜室のキャベツを探すと大量にざく切り。豚バラの細切れは
生ものルーム。人参玉ねぎを細かく刻むと麺三玉で具だくさん。

 オタフクヘルメス混合の地ソース。トッピングにカツオ節だ。
「きょうの晩メシはありあわせ。具材ぶっこんだヤキソバだよ」


 ダイニングキッチンは改装して真新しい。よかったと一安心。
古いオフィスビル。本来なら事務所が入居する最上階のすべて。

 外観は再塗装した鉄骨鉄筋コンクリート。各階およそ二十坪。
浴室は工事で緊急設置した。DKは別で部屋を三つに区分した。

 複数資格貸与が主な収入源。不労所得での生活も可能だろう。
いろいろと手や口では指図する。それなりの年収は稼げるんだ。


「はぁ? あったかメシが食えれば十分。文句なんかねーしょ」
 四脚テーブル下座。定位置に決めた姪っ子だ。永依が応じる。

 テレビはない。スマホに触れてワイアレスの耳栓だ。プラプラ
手足を動かす少女。音楽か無料の動画をお楽しみの最中らしい。

 肩まで流れるピンクブロンド髪。長いツケマが特徴のギャル。
赤いジャージは派手なブランド品だ。小柄な痩身だけど筋肉質。

 その美貌に誰もが驚く。女子空手全国チャンピオンの中学生。


 その強さを理解してもおそろしく見えない。美人は徳だな――
そう考えた瞬間だ。突如発生した強烈な縦揺れ。ビックリした。

 躊躇わずに即応する。ダイニングテーブルの下でうずくまる。
東日本大震災並みか当時より強烈な揺れ? 無言で見つめあう。

 轟音を周囲に響かせた苛烈な縦揺れだ。それでも安心できた。
気がつけば次第に収束する。出窓に近づきながら周囲を見渡す。


「テニスコートの周辺。薄もやとか雰囲気なんかもおかしいね」
 白煙漂うテニスコートが震源だ。不思議にも納得させられた。

「ケーちゃんどっか変じゃねぇ? いつもと雰囲気ちげぇしょ」
 出窓から呆然と見おろす永依だ。互いに困惑しながら応じた。

「間違いなくおかしいね。気になるなら近くまでいってみる?」

「りょ。ケーちゃん走れないっしょ。あーしが守るから安心!」
 一回り下の少女が力こぶ宣言だ。情けなさで泣きたいぐらい。

 革ジャンを羽織る姪っ子は拳のガード。革グラブを装着した。
こちらは魔改造した強い金属の義足だ。気休めだけど着装する。

 服は防御に全振り。片手で握る『バールのような物』金属棒。
「準備は完了だ」鉄底の安全靴を履く。立ちあがると施錠した。


 颯爽とした姪っ子がエレベータに乗りこむ。のんびり対照的に
背後から追った。チグハグなコンビでエレベータを並びおりた。

 一階の正面はテナントになる。日祝は休みだから暗闇で無人。
カフェ&バーの『Fish・on』左に折れるとガラスの扉だ。


 ガラス扉を抜けてから短い階段を並んでおりた。意識もせずに
路地を進んだ。うす暗いなか街路樹と植栽を抜けると先が公園。

 植栽のない小路を選んだ。周囲の違和感は無視しての直進だ。

 少女の背後から望む公園口。車両止めを避けながら侵入で――
【コノ先カラ始マリノ迷宮】プラス【生命ト身体ノ保持ガ無効】


 突如として脳内に響くのは機械音声。おそらくは同時だろう。

「はぁ? あーしの頭からおかしな声だけど。どこの誰だっし」
 驚きに跳ね上がる少女の身体。絶叫まで愛らしく感じられた。

 内心では驚きだ。素早くあらゆる可能性に思考をめぐらせる。

「きっとお約束だよね。地下ダンジョンじゃない。直下の地震が
発生して誕生したのか逆?」うなずきながら目前の永依が笑う。

「そっかー異世界ファンタジー。RPGゲームの定番だよねー」


【了承スレバ入場ガ可能ダ】――再び音声。同時にうなずいた。

 おもしろい展開だよ。いざ冒険の始まりだ! 不思議な状況に
無意識で微笑む。ニヤリと口端を歪めてから傍の姪を見つめた。

 同時に重傷を負ったり死ぬ危険性? もちろんゼロじゃない。
だがしかし人間いつか死ぬ。最期の瞬間まで楽しめればいいさ。
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