旦那様に、抱かれたい!~愛してるから抱けないと言われた僕と旦那様の攻防~

水瀬かずか

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旦那様の事情

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 その時、私は、苦悩していた。

 将軍位につくまで様々な苦労を乗り越えてきた自負が、私にはある。しかし、これは人生で未だかつてないほどの悩みだったと言えよう。
 自分のことなら最善を選んで決断すればいい。だが、愛するミルコとの事だとそうはいかないのが問題だった。早々に出せる答えではなかったのだ。最善を選べばミルコが悲しむのだ。なにより、私の立場故、ひどく苦しませることにもなる。

 ミルコを失いたくない。これは絶対だ。だから、ミルコが子供を産むなんていうのは最初から問題外だ。
 ミルコの体に見合った子を孕むとは限らないのだ。私に似た体格の子を孕めば、生むことは不可能だ。腹を割れば子を助けることが可能でも、確実にミルコは死ぬ。
 けれどミルコは子供が欲しいという。私のことが好きだといった口で、だからこそ私の子供が欲しいという。
 私はミルコを愛している、だからそれに応と返せない。
 かといって産めない現実を突きつけるのはあまりにもかわいそうで、未だ出来ずにいる。せいぜい私の一物の大きさを理由に、のらりくらりとごまかすのが関の山だ。
 ミルコを亡くせば、私の心も共に死ぬだろう。しかし命をかけても良いから産みたいというミルコには、私の心は通じない。
 互いに平行線を辿って現在に至る。

 出会った頃は幼いばかりだったあの子が、愛らしく花開き、清純さと色気を纏い私を誘惑する。
 それに応えたいと思うのは当然だ。あの子を抱きしめ、愛でることができればどれほど幸せだろう。
 子供だと思っていたはずなのに、時折ふと見せる色気に、どうしようもなく惹かれた。もう子供ではないのだと気付いた途端、それまで感じていた庇護欲が、意味を変えた。守るだけではなく自分だけの特別にしたいと。この子を自分の腕の中に囲っておきたいと、自分だけをその目に映して欲しいと。
 私は、心からミルコを愛していた。

 とはいえ、ミルコの気持ちもわかるのだ。
 あの子の立場はとても不安定だ。血統を重んじる者も多い貴族社会で、異能を理由にこの世界へと引きずり込まれた。もし自ら異能を操ることができれば、あの子を見下す者はもう少し少なかっただろう。
 だがあの子は生まれ持った魔力を使いこなせず、ただ魔力を明け渡すことしかできない。もっとも魔力操作ができたところで、それがいいというわけでもない。もしあの力を自身で扱えたのなら、あらゆる諍いの場へとかり出されることになるからだ。
 それを思えば、あの子に魔力操作能力がなかったことを、私は幸運とすら思っている。

 そうはいっても、本人は割り切れないだろう。
 役立たずなどと、無知な者が心ない言葉であの子を傷つけるから、あの子はそれが真実と思い込んでいる。そして、そんな無能な者から守るためという名目で、あの子を伴侶にと私の欲を押し通したが為に、今度は「子供一人産めない」と私の血族から非難を浴びている。
 家は私の兄が相続している。だから私は子供を作る必要はない。役立たずではない、子供はいらないと散々伝えているのだが、裏でコソコソとあの子を責める者は絶えない。

 そんなミルコの立場を思えば、あの子が私への愛情と相まって「子供さえ産むことができれば」と思ってしまう気持ちを、一概に責めることなどできるわけがなかった。
 あの子への愛しさ余って婚姻で関係を繋いだ負い目も、私にはあった。
 当時は自覚こそなかったが、他の誰にもやりたくない想いが、確かにあったのだ。
 だから私には、あの子の気持ちを蔑(ないがし)ろにはできない。だが、仮にあの子が無事子供を産めたとしても、不安は尽きない。あの子と、あの子が産んだ子を、心ない者達がどうやってあげつらって嗤うかなど、容易に想像がつくからだ。

 本当にミルコの幸せを思うのなら、離縁をしてやった方が良いのかもしれない。だが、それは私が耐えられない。
 ミルコを苦しませているというのに、それでも手放してやれない愚かな自分が恨めしかった。




 いつものように陛下の元で、ミルコがいかにかわいいか、それなのに期待に応えられない自分のふがいなさ、ミルコの苦境、けれど健気に耐えて笑顔を浮かべて私を迎えてくれ、あまつさえ愛情を全身で示してくれるその愛おしさを交えつつ、答えの出ない苦悩を漏らしていた。

「私は、どうしたらいい……」
「……お前が産めば良いだろ」
「……は?」

 さっきまで聞いているのかいないのかわからない態度で茶を飲んでいた陛下が放った言葉に、私は戦慄した。
 そして、陛下は眉間に皺を入れて、嫌悪もあらわに言い放った。

「なんでお前が生まないの? 全て問題解決じゃん。お前なら、出産で子供がでかすぎて問題になる危険性ほぼないし、お前とボウズの子ってところもクリアだし、ボウズの子だからって、お前が産んだ子だから、絶対に蔑ろにされることないし」

 あーもー、やってらんねぇ、などとぼやく陛下の言葉など、その時の私には聞こえてなかった。

「……お前は天才か」

 私はすぐさま立ち上がり、その解決策を実行せんが為、退出の言葉を伝えた。

「は? え? ちょっと待て?!」

 陛下が何かをわめいていたが、もう、どうでも良かった。



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