3 / 13
思いがけない方法1
しおりを挟む「ミルコ、お前は私たちの子供が欲しい気持ちは、変わってないか?」
「はい」
珍しくわかりやすく機嫌良さそうに帰ってきたバレリオ様は、僕がお願いをする前に、そんなことを切り出してきた。
これはもしかして、釘を刺そうとしているんだろうか。
せっかくお願いをしようと思っていたのにと、慌ててかぶりつきで頷くと、なぜかバレリオ様はほっとした様子で、いつも通りの言葉を続ける。
「私は正直なところ、お前が側にいてくれるのならそれだけで満足だ。だがお前は私との子供が欲しいという。お前はどうしても欲しいと願うか? それがどんな手段であったとしても?」
「……はい。命をかけてでも、バレリオ様の子供が、欲しいです」
だから僕はいつも通りに返事をしたんだけれど、そうするとバレリオ様は、いつものように悲しい顔をした。
「以前も言ったが、お前に命をかけさせるぐらいなら、決して私は子供を作る気はない」
「ですが!!」
「……私が「命をかけて守る」とお前に言った時、自分が何と言ったか覚えているか」
「……っ」
低いその声が僕を責めていた。
あの時ぼくは「やめて下さい」と泣きながらお願いしたんだ。どうか命なんて賭けないで下さいって。あの頃は本当に、バレリオ様が命を賭ける必要があったかもしれないからこそ、そんな約束に頷くことは出来なかった。
「お前が命を賭して臨むことを私が喜ぶなどと、思わないでくれ」
あのとき僕が苦しかったように、バレリオ様も苦しいのだと訴えてくれていた。
そのバレリオ様の気持ちがとてもうれしいのに、僕は行き場のない苦しさも襲ってくるのを感じていた。
だって、それでも僕はバレリオ様との子供が欲しかった。小さい子供を見ると、うらやましかった。二人を繋ぐ証が欲しかった。バレリオ様とぼくの間に生まれた子供を、力いっぱい愛したかった。
「……だって」
「私に命を賭けるなと言ったお前が、それを私に言うのか?」
「……っ、だ、だって……っ、僕、バレリオ様との、子供がっ……僕っ、ちゃんと、バレリオ様の妻だって、自信もちた……」
言葉にしてしまうと、あまりにも身勝手な理由に気づき、自分で情けなくなって口を閉じる。
僕は、バレリオ様との子供を、自分の幸せのために利用しようとしていたんだ……。
そんな自分の気持ちに気がついて、涙がじわりと滲んできて、うつむくしかできなかった。
こんな親、子供だって嫌にきまってる……。
「大丈夫だ。ミルコと私との子供がどうしても欲しいと思ってくれることは、私も嬉しく思っている。ただ、お前の考えているその方法がどうしても受け入れられないんだ。あまりにも危険すぎる」
「それでも、僕は……」
言い募ろうとした僕の言葉を、珍しくバレリオ様が遮った。
「よく考えてくれ。お前は私を受け入れれば後は子供を産むだけと思っているかもしれないが、その子供が、私に似ていたらどうなると思う」
バレリオ様によく似た……今まで何度も想像したことだ。絶対可愛いに決まってる。けど、それがどうしたんだろう…? バレリオ様を仰ぐと、バレリオ様は悲しそうに顔を歪ませていた。
「産めないんだよ……。私が生まれた時、他の子の倍近い大きさがあったと聞いている。お前より大きい私の母ですら、二人とも死ぬか、母が死ぬか、という状況になったと聞いている。……お前の身体の大きさで私に似た子を孕めば、子供が大きすぎてお前の腹から出ることは叶わないだろう。つまり、ミルコの小さい体では、命をかけても産めない可能性が高いんだ。医者も、同じ考えだといっていた。小さく産まれることに期待して子作りをするのは、あまりにも分が悪すぎる賭けだ」
「……そんな……」
それは、思いがけない言葉だった。
僕は情けなくも、言葉を失った。
だってもっと楽観的に考えていた。ちょっと大変かもしれない、もしかしたらそれで亡くなってしまうかもしれない……頭ではわかっていた。でも本当の本当は、死ぬことなんて全然考えてなかった。そして普通より断然危ないとわかっていても、ちょっと大変なだけと高をくくっていた。
でもバレリオ様の言ってたことは、そんな簡単なことじゃなかった。もっと現実的に、僕が死ぬ可能性を考えていたんだ。
そしてその結果、僕は子供も産めず、そのせいで子供を死なせて、自分も死んじゃうかもしれない。
現実を帯びた死を前に、初めて僕はぞくっと震えた。
そうしたらバレリオ様に残るのは何もなくって、それどころか闇属性の僕を死なせたという汚名まで着せられてしまうかもしれない。
そこまで考えて、僕は思った以上にひどいことをバレリオ様に言っていたんだと、気がついた。
そして、わかってしまった。
僕は、バレリオ様の子供を望んじゃいけないんだ……。
込み上げる涙を必死に飲み込んで、一生懸命我慢した。
夢が叶わない絶望と、どうしたら良いか分からなくなってしまって途方に暮れてしまうような気持ちと、バレリオ様の子供を抱けない悲しさと……。いろんな気持ちが込み上げる。
黙り込んだ僕に、「分かってくれれば良い」と言ったバレリオ様が、そっと僕の頭を撫でる。
「だが、それでも欲しいというのなら、安全な方法がひとつ見つかった。私はこれより最善の手はないと思っている。お前には難しいかもしれないが、試すと言ってくれれば嬉しい。私もミルコとの愛の証が欲しいと思う気持ちは、あるのだ」
苦笑するバレリオ様を前に、僕は顔を上げる。
安全な、方法?
涙が引っ込んで、戸惑いながらバレリオ様の顔を窺った。
「……方法が、あるんですか? 僕は、バレリオ様との子供を、抱くことが、できますか……?」
「ああ、その方法ならば大丈夫だろう。……試してみるか? 試してみて無理だと感じたのなら、その時に断ってくれればいい」
「いいえ……!! 無理だなんて、僕、絶対に言いません!!」
23
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
無縁坂
かかし
BL
夜中に唐突に目が覚めて唐突に思いついたので下書き無しでババっと書いた、とある大好きな曲ネタ
浮気美形α×平凡健気Ω
……の、息子視点
この設定ならオメガバースじゃなくてイイじゃんって思ったんですが、思いついたなら仕方ない
寝惚けてたってことで、一つ
※10/15 完全な蛇足追加
好きな人の婚約者を探しています
迷路を跳ぶ狐
BL
一族から捨てられた、常にネガティブな俺は、狼の王子に拾われた時から、王子に恋をしていた。絶対に叶うはずないし、手を出すつもりもない。完全に諦めていたのに……。口下手乱暴王子×超マイナス思考吸血鬼
*全12話+後日談1話
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
【完結】恋人ごっこから始まる俺たちの話
華抹茶
BL
アルテは自分と真逆の筋肉ムキムキな男が大好き。そんな男を組み敷くことを夢見ているが、周りからは組み敷かれることを望まれる。
本当の事を言っても、男からモテるアルテはそれを断り文句だと取られ誰も本気にしてくれない。
「いつかはあんな雄っぱい揉みしだきてぇ…」
そんなアルテに、超タイプの男が現れる。その男はとある求婚に頭を悩ませていた。その男の同僚から「アルテに恋人のふりしてもらったらいいじゃん」と言われ、恋人ごっこが始まった。
『華奢な体だけど筋肉ムキムキな男を抱きたい主人公』と『華奢で儚げな男に抱かれたいガチムチ男』の物語。
●R-18。エロの話に※印ついてます。
●1日1話更新。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる