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電車で苦くて甘いヒミツの関係

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 連れて行かれたのは綺麗なホテルだった。

 てっきり行き先がラブホあたりだろうと思っていた私は、立派なエントランスのいかにも高そうな建物を前に呆然とする。
 チェックインしたあと課長に手を引かれ、そのまま客室へと向かう時もまだ、いろいろな驚きが立て続けに起こりすぎて、惚けたまま従っていた。

 エレベーターに乗り込むと二人だけの空間に、ほっとしたような気もしたし、逆に息が詰まるような緊張感を覚えたりした。
 そんな私を彼は抱き寄せ、髪を撫でたり、こめかみにキスをしたりと、まるで恋人にするように優しく大切そうに触れてくる。
 その間も頭の中は混乱したままで、何を考えたらいいのかさえわからない。考えなければいけないことがあることは分かるのに、頭は働くことなく、課長になされるままになっている。
 でもそれは決して嫌な感じではない。緊張はあっても、嬉しいような恥ずかしいようなくすぐったさの方が強い。
 肩を包むように触れている課長の手の大きさと温かさが、安心感を与えてくれて気持ちいい。
 こめかみに触れる唇の感触も、耳に届く吐息も、緊張するもののくすぐったくて気持ちいい。
 好きって思う気持ちが溢れてくるようだった。

「カメラがなかったら、もっといろいろするんだけど」

 クスッと笑って耳元に囁かれて、彼が性的な意味で触れなかったわけにようやく気付く。
 でも、見られていたとしたら十分すぎるほどに恥ずかしいスキンシップだった。
 真っ赤になったのが自分でも分かる。エレベーターの扉が開いたとたん逃げるように降りると、その後をゆったりとした様子で、課長がクスクスと笑いながら後に続く。

「そんなに早く部屋に行きたい?」

 耳元で囁かれて更に顔が熱くなって、思わず首を横に振ると課長が私の顔をのぞき込んだ。

「うそつき」

 嘘じゃないけど、嘘かもしれない。
 部屋に行きたくて急いだわけじゃないけれど、部屋に行きたくないわけじゃない。
「彼」が、課長だった。ずっと好きだった人が、私を抱くと言っている。
 私はこれから何が起こるのか、怖くて、そして期待している。
 本当に課長が私を抱く気なのかどうかは分からない。自信がない。でも、課長が私を可愛いと言ってくれて、こんな所まで連れてこられ……課長の気持ちを、好意を期待してしまうのは止められなかった。


 部屋に着き、課長がドアを開けて先に入る。それについて何となく入ったものの、そこで立ち止まった課長を前に、どうしたらいいのか、何を言えばいいのか、これからどうすればいいのか分からずに、私もまた入り口で立ち尽くしてしまった。
 うつむいて足元を見ている私に、課長が突然顔を強引に上向かせる。
 何ですか……と、声にする前に、突然唇がふさがれた。

「んんっ、ぁ……っ」

 声を上げる間もないほど、執拗に唇を合わせられ、舌を絡め取られる。
 目の前にかすんで見える課長の顔。

 課長と、キスしてる……。

 私は目を瞑って、しがみつくように、課長のスーツを握りしめた。
 口内をまさぐり、歯列を舐め舌を絡め、溢れる唾液を吸い取られ、その行為に没頭する。
 課長だけれど、「彼」なんだと、キスにおぼれそうになりながら頭の片隅で考える。電車の中での行為のように、私は「彼」に求められていた。
 「彼」との初めてのキスは信じられないほど気持ちよくて、手も足も力が抜けて、必死に課長にしがみついたまま、絡まる舌に答えようと頑張る。

「んふっ……」

 鼻で息をするのも苦しいほど息が上がって、ようやく課長の唇が離れた頃には、私の力はすっかり抜けていた。

「電車ではキスが出来ないからね」

 力の抜けた私を抱えるように抱きしめてクスッと笑うと、チュッと唇を重ねるだけのキスをする。

「やっと、香奈を抱ける」

 課長が少し弾んだ声で呟きながら、私のコートを脱がしにかかる。入り口脇に無造作に引っかけ、そのまま私のアンサンブルのカーディガンを脱がし……。

「課、ちょ……、こんな、ところで……」

 息も絶え絶えに私は抗議をした。だって私を脱がしながら課長の手は不埒に私の身体をまさぐっていて。なのにここは扉の真ん前の部屋の入り口で。
 ほんの数メートル先にベッドがあるのに、こんなところで脱がされようとしている。

「電車の続きだからね。だったら立ったまま……声を上げると、廊下を通っている人に聞こえてしまう場所の方が、続きらしい(・・・)だろう……?」

 穏やかでにこやかな笑顔を浮かべて、ひどく意地の悪いことを言う課長に、私は震える。

 嘘。課長がこんな事言うなんて……。

 でも、「彼」なら言う。
 混乱している私に課長が追い打ちをかける。

「声を我慢して、必死に耐える香奈は、かわいいから。しっかり見ておきたいんだ。電車ではあんまりじっくり堪能できないからね?」

 にこっと笑う穏やかな課長の顔に、それでも本気を感じ取って、私はふるふると首を横に振る。

「でも、ベッドがいいです……」

「うん、それはここの後で。ね? 電車で香奈が想像した通りのことを全部やってあげるよ。香奈はここが電車の中って想像していてごらん? 電車の中で俺に触られているのを想像してごらん? 香奈はエッチだから、その方が興奮するでしょう?」

 課長にこんな事言われて、恥ずかしくて必死に首を横に振るけど、課長はクスクスと笑うだけで取り合ってくれない。

「香奈は嘘つきだからね」

 そう言って後ろから抱きしめるように服を脱がしながら、ほっぺに軽くキスされて。

「ほんとに……!」

「ダメ。これは電車の続きで、素直に本当の事を言わなかったお仕置きだからね。香奈のお願いは聞いてあげない。そのかわり、おかしくなるぐらい気持ちよくなろうね?」

 耳元で囁かれる声は「彼」の物で、それに興奮を促されてぶるりと身体が震える。
 後ろからカットソーをめくり上げられて、キャミソールがあらわになる。
 恥ずかしくて首を横に振る。

「かちょ、ぉ……恥ずかし、です……」

 いたたまれなさに声が震えた。

「じゃあ、恥ずかしくないぐらい、早く気持ちよくなろうか」

 課長の手は止まらない。キャミソールの下に忍び込んだ手が、ブラジャーの上部を引きずり下ろして。キャミソールをめくり上げたカットソーの下に押し込むと、胸がブラジャーと服に上下を挟まれて、突き出すように出る形になった。

「やぁ……!! 課長、お願い、やめて下さいっ、恥ずかしいです……っ」

 叫ぶと、耳元で「しぃっ」と、音がする。

「外に聞こえちゃうよ」

 そう言って、既に硬くとがっている私の胸の先端を両方ともつまみ上げた。

「ひぅっ」
「香奈、声、押さえて?」

 楽しげな声は、いつもの囁く声とは違って、地声の、低い課長の声。

「あっ、あっ……」

 くりくりと両方の先端を刺激されて、震えながら後ろから私をいじめ上げる課長に身体を預ける。
 すっかり慣らされている私は、抵抗することさえ思いつかなくて、ひたすら耐えるために、楽な形を取っていた。後ろの「彼」に身をまかせて耐えながら快感を貪る、いつもの体勢。
 いとも簡単に羞恥心より快感が勝って、私は課長から与えられる快感に落ちてしまう。

「香奈はほんとに快楽に弱くてかわいいね」

 クスクスと笑う声が耳をくすぐる。

「やぁぁ……」

 恥ずかしくて身をよじると、ざりざりと音がして、耳の中を舐められる。

「ひゃぅっ」
「しぃっ、電車の中と同じぐらい声を我慢して? ほら、人が通路を通ってる」

 耳を澄ませば、確かに廊下の絨毯の上を歩く足音が聞こえる。
 近づいてくるその音に怯え、息をつめて物音を立てないように身をこわばらせれば、対して課長は撫でるようにゆっくりと先端をいじりはじめる。

「やめ……っ」
「聞かれないように、ちゃんと我慢して?」

 すりすりと優しく両方の先端を撫でられ、喉元まで込み上げた快感の声が漏れないよう口元を手で覆った。

「んっふっ……ぅっ」

 息をつめながら、快感に身体がびくんと震える。扉の向こうでふかふかの絨毯を踏みしめる音がかすかに耳に届く。近づいてきている。

「……んっ、んっ」

 私の一番気持ち良くて、でももどかしくてたまらないさわり方。課長の指先が先端を優しく何度も何度もこすりあげる。ぷっくりと立ち上がっている先端は、こすられる度に指の動きに合わせて揺れている。
 気持ちいいけどじれったい快感に、自然と腰が揺れる。

「もう、ここを触って欲しくなったの?」

 課長の膝が足の間に差し込まれ、ぐりぐりと股間に押しつけられる。

「ふぁ……っ」

 ぶるぶるっと震えた私をからかうように、課長が耳元で囁く。

「もうそろそろ、この部屋の前を通るかな?」

 確かに足音が近い。
 声が聞こえたら恥ずかしい。こんな場所でいやらしいことをしているのだと言うことを改めて思い知らされて、頭が冴える。なのに、彼の指は私を快感に引き戻すように、ぐりっと押しつぶすように私の乳首を刺激した。

「ぅあんっ」

 手で必死に押さえていたのに、思わず声が漏れる。




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