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電車で苦くて甘いヒミツの関係

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 彼の声が、少しかすれて、興奮を伝えてくる。彼も、私を舐める想像をしたのだろうか。そして、彼も興奮した……?
 痴漢してくるぐらいだからこういう行為に興奮するのは当たり前なのかもしれない。でも私はいつも与えられるばかりの快感に、自分ばかりが感じているわけではなく、彼が自分に興奮していることが嬉しく感じてしまう。
 彼の手が胸元から抜き取られ、私の手を取った。疑問に思う間もなく、私の手は彼に促されるまま彼の股間に触れさせられる。
 彼の興奮を伝えるその大きさに息を飲んだ。

「これを、欲しいと思ったことは?」

 思わず、ゴクリとつばを飲み込んだ。

「これを、ここにねじり込んで、君の良いところをいっぱいこすり上げて、君の中をこれでいっぱいにして、何度も奥まで突き上げたい」

 彼の囁きに、ゾクゾクと背筋が震える。快感に似た、期待だった。欲しいと、思ってしまった。それはずっと求めている快感。ここでの快感ではどうしても足りない物。
 何度奥まで突き上げてと願っただろう。指よりもっと大きいので満たされたいと想像しただろう。
 後ろ手に、彼の猛った物を布越しに触りながら、それが私の中にずぶずぶと進入してくるのを想像する。私が指をこするように動かすと、それは反応してぴくりと震え、大きさを増す。
 私の中に入っている指がゆっくりとピストン運動を繰り返す。
 後ろから課長に抱だかれ、猛ったこれを何度も打ち付けてくる妄想にとりつかれる。立ったまま、下から何度も突き上げられて、満たされた突き抜ける快感を貪る自分を想像する。

 もっと奥。いっぱいにして、突き上げて……っ

 指を更に銜え込もうと思わず身をよじると、後ろの彼がクスッと欲情に濡れた笑い声をこぼした。

「指をこんなに締め付けて。君は今、何を想像しているんだろうね?」

 クスクスと笑う彼の声に、自分の想像の淫らさを知られているように思えて、いたたまれなさに身体に力が入る。

「君の下の口は、本当に正直に答えてくれる。……かわいいね」

 耳たぶをカプリと加えられ、びくんと身体が跳ねた。

「気持ちいい? いきたい?」

 問いかけてくる彼に、私はこらえきれなくなって小さく肯く。でも、こんな時の彼は、最近だと明日に持ち越してしまうことがあって……。

「でももう、ここで、君に触れるのは今日が最後にする」

 明日に持ち越し、という意味ではない突然の囁きに、今まで快感におぼれていた私の頭が急激に覚醒する。

「……ぇ?」

 今日が、最後……?
 次の日に持ち越すんじゃ無くって、最後、なの……?

 理解できずに立ちすくんでいると、更に耳元で囁かれる。

「……おしおきだよ」

 おし、おき……?
 これで最後になることが……?
 最後……? 会えなくなる……? それとも、痴漢をやめるというだけ?

 私は、半ばパニックになっていたのかもしれない。
 突然の彼の言動が理解できなかった。そして、自分の中で込み上げてくる感情がどういうものなのかも分からない。分かったのは、どうしようもなく胸が苦しくて、ものすごくショックを受けているという事だけ。終わることが嬉しいのか、悲しいのか寂しいのか、ほっとしているのか、それさえも分からない。

 快感途中で突然放置されたことよりも、言葉の内容に衝撃を受けて私は立ち尽くしていた。
 彼の指がスカートの下からすり抜けてそのまま私のお腹の辺りに巻き付けられる。彼の両方の手が私を包み込んでいた。
 うつむいた私は、私の蜜で濡れた彼の指が、パイル生地のハンカチでぬぐわれているのをじっと見つめる。情事が終わったことを示していた。

「だから、今は、いかせてあげない」

 熱を含んだ声が耳に響いて。

「今は」? じゃあ、明日は……? でも、最後って。

 訳が分からずに振り返ろうとしたが、後ろからきつく抱きしめられている恰好では彼の顔を仰ぎ見ることは出来なかった。
 私はこの前からずっと考えていた。この関係を終わらせないといけない、と。
 まるで、そんな私の考えていたことをなぞったような彼の言葉。
 それが現実になるかもしれないと気付いた瞬間、その言葉に従うのが最善だと思うのに、心は馬鹿みたいに正直だった。
 私がとっさにした行動は、「いや」と小さく声を上げて首を横に振ることだった。

「君には選択肢が二つある。どちらを選んでもいい」

 私は唇を噛み締めて、とりあえず彼がどういうつもりか聞こうと思って肯いた。

「一つ目は、今夜、君が俺に抱かれる。二つ目は完全に関係をやめる」

 その内容に息を飲んだ。

「どちらを選んでも良いよ。夜まで考える猶予をあげる。待ち合わせは、君がいつも降りる駅。改札を出て西口近くのベンチで十九時に」

 思わず彼の袖口をきゅっと握りしめる。

「全部、してあげるよ。ここも、舐めてあげるし」

 彼の手が胸を丸くマッサージするように撫でて。優しく撫でるような動きに悲しいぐらい反応する身体が切ない。

「ここも舐めてあげるし、指じゃなくて、君が欲しがっていたこれで奥まで突き上げてあげるよ?」

 彼の膝が、後ろから股をぐりぐりと圧迫して。腰の辺りに猛った彼自身を押しつけられて。
 刺激に身体が再び反応して欲しくてゾクゾクしてしまうのに、私は悲しいような、寂しいような、怖いような、絶望に似た気分に落ちて行く。

 それでも。

「欲しいだろ?」

 淫らに濡れた囁きを耳元で感じれば、先ほどまで体を渦巻いていた熱が再び熱さを取り戻す。
 後ろから抱きしめてくる、この腕を離したくない。

 でも。

「今夜七時だ。必ず、おいで。待ってる」

 課長によく似た、彼の声。

 肯けるはずがない。
 痴漢だったから、「課長じゃない誰か」に触れられても許せた。例え見苦しい言い訳でも、私が望んではじめられた行為ではなかった事が立て前としてあった。受ける身であるのと、自らそれを望むのとでは大きな差がある。
 肯けずにいると、彼は更に囁いた。

「もし来ないのならこれで終わりだ。もう君を見かけても、二度と触れることはない」

 それは歓喜すべき事なのに、脅されているように感じる時点で、私達の関係はおかしいのだと思う。私は痴漢をするようなこの彼のことが好きで、彼に触れられたくて。でも、私は課長をあきらめることは出来なくて。
 やっぱり私は肯くことが出来なかった。
 だって私はまだ彼を選ぶ覚悟が出来ていない。顔も知らない彼を。

 振り返ることを彼は許してくれなかった。後ろからがっちりホールドされて、顔を動かせないようにされていた。
 せめて顔を見て、彼の真意を問いかけて、それから考える事が出来たらと思ったのに。彼は私に今の時点で顔を見せる気はないようだった。

「最後までお仕置きをして欲しかったら、おいで。夜七時だ、良いね」

 最後まで、私は肯くことが出来なかった。


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