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電車で苦くて甘いヒミツの関係

2.5

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 大丈夫、いつも通りに出来る。ちゃんと「彼」が上書きしてくれたから。

「おはようございます」

 いつもと変わらない笑顔と声を出せたと思う。

「おはよう」

 課長が顔を上げて私を見た。私が笑顔で答えたのに、今日の課長はいつものように笑顔を返してくれなかった。
 代わりに、じっと見つめたまま「三井さん」と躊躇いがちに私を呼んだ。
 なんか変だっただろうかと、緊張しながら歩み寄ると、心配そうに声をかけられた。

「風邪でも引いているんじゃないかな? 顔色が悪いみたいだけれど、熱を測ってきたらどうだろう」
「風邪なんて、ぜんぜんっ 熱もありませんよっ」

 少しでも気取られたくなくて、慌てて笑いながら両手を振って否定すると、課長は困ったように溜息をついた。

「体調管理も、仕事の内だからね。調子が悪くなったら、早めに言うように」

 いつもより厳しい声は、叱っていると言うより、私を心配してくれているのだろう。それが部下の一人に対する心使いと分かっていても嬉しくなる。
 朝から嫌なことがあったけど、課長に心配してもらえたのは幸せな気持ちを運んでくれて。

「はい。大丈夫ですけど、気をつけます」

 神妙に肯こうとするのだけれど、思わず頬がゆるんでしまう。それを見て、課長も表情を少し和らげた。

「約束だよ」
「はい!」

 今朝の怖さを忘れられるわけではないけれど、それでも気持ちが上を向く。「彼」と課長の優しさと、両方が私を癒してくれているようだった。


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