電車で苦くて甘いヒミツの関係

水瀬かずか

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電車で苦くて甘いヒミツの関係

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「……っ」

 声にならない吐息が漏れる。
 こんな私は、きっとおかしいんだと思う。
 だって満員電車の中、今日もアソコを触られながら気持ちよさに身をまかせているのだから。
 こらえる私の耳元に「彼」の吐息がかかる。

「気持ちいい?」

 いつもの私にだけ聞こえるような囁き声が、ぞくりとした刺激となって快感を更に引き立てる。
 ぐちょぐちょになっているあそこを触られながら、小さく首を横に振る。

「嘘つき」

 私の耳にかかるのは、くすりと笑う吐息と、からかうような囁き。
 彼は私の濡れた割れ目を指でなぞり、ぐちょぐちょに濡れている事を思い知らせるようにぬるぬると動かした。
 そこは自分でも分かるほどにぐっしょりと濡れていて、時折こぽっと蜜を溢れさせている。音はしてないはずなのに、彼が指を動かす度にねちゃりとした感触が伝わってきて、今にもくちょくちょと音が聞こえてきそうな気がした。

 課長。

 痴漢をしてくる「彼」の声を聞きながら、心の中でずっと想い続けている人の姿を描く。

「気持ちイイくせに」

 意地悪な囁きが、まるで課長から言われているかのような錯覚を覚え、耳元に響く快感が背筋を駆け抜ける震えるような快感になる。
 けれどそれを知られたくなくて、ばれているのは分かっていても、もう一度首を横に振る。
「彼」から吐息のような笑い声が漏れたかと思うと、いじる指が意地悪く敏感な先端をなぞった。

 あ。私の、一番イイとこ。

 びくんと震えながら、心の中で叫ぶ。

 課長、そこ、気持ちいいです。もっと、もっと触って下さい。

 言えるはずのない言葉を飲み込み、代わりに詰まった息を咳で誤魔化すようにして、かほっと吐く。
 顔も知らない痴漢の声が課長に似ていることに気付いて以来、私は「彼」に課長を重ねていた。毎朝、私は「彼」に触られながら、課長に触られている夢想をして、その気持ちよさに身をゆだねている。
 わずかに身じろぐフリをしながら、こらえきれず腰を落とし、指に秘所をなすり付ける。
 するとそれに答えるように指がぬるりとした感触で中へと進入してきた。

 あ。気持ちいい。

 うっとりと目を閉じそうになるのをこらえながら、周りに気付かれないよう、こっそりと深い息を吐く。
 入り口の所にわずかに入った指先の感触。中でかき混ぜるように動いたり、浅い出し入れを繰り返したり。
 気持ちよさともどかしさに腰が揺れそうになる。

 もっと奥。奥まで入れてかき混ぜて。

 欲しくて欲しくてたまらないのに、電車の中で腰を振ることもその懇願をすることもできないジレンマが、余計に私の興奮をかき立てる。もっともっと触ってと欲望ばかりがどんどん募っていく。

 課長、お願いです。もっといっぱいぐちゃぐちゃにして。

 こんな満員電車で課長に弄ばれているかと妄想するだけで、快感への欲求は更に高まっていく。
 変な息づかいにならないようにこらえながら、震えるぐらいゆっくりと浅い呼吸を繰り返し、何でもないフリをしながら快感に浸る。
 浅いところでの挿入へのもどかしさと、気付かれないようにする緊張感と、課長を思わせる彼の声と、そして彼の興奮が分かる熱い吐息に、私の興奮はかき立てられて行く。
 その時電車の中でアナウンスが響いた。

「…もう、終わりだね……残念だ」

 私が降りる駅が近づく。
 それに合わせて私は期待してはやる気持ちを抑えた。あの波をこらえないと行けない。
 彼に、イかされる時間がすぐそこに来ているのだ。
「彼」は私の体を知り尽くしている。毎日の痴漢行為で、どうすれば私がイけるか。
 ゴクリとつばを飲んだときだった。
 彼は私の中をかき混ぜながらクリトリスをぐりっと押しつぶした。

「……っ」

 待ち焦がれていた感覚に、私の体がこわばる。気持ちよくて突き抜けそうな刺激の後、立て続けにこすり上げて行く事で、更に私の体は快感の波に飲まれる。立っているのが必死になっているところで、私の中に入っていた指が、わずかに奥に埋められ、一番気持ちの良いその一点に近い場所をぐりぐりといじる。届きそうで届かないもどかしさと、時折届く快感と。そしてクリトリスを痛くなる直前までいじられて最後の刺激を与えてくる。今にもはじけそうな快感に上り詰めているところで、課長によく似た「彼」の声が耳を熱く濡らす。

「イけ」

 その声に促されるまま私は上り詰める。
 ビクビクと震える体を押さえながら、痴漢にいじられて私は立ったままあっけなく絶頂を迎えた。

 課長。

 真っ白になるまぶたの奥で、大好きなあの人を思い浮かべた。

「こんなところで痴漢にイかされるなんて、いやらしい子だね」

 絶頂の快感が抜けきらない私の耳に「彼」の囁きが届き、私を現実に引き戻す。
 崩れそうになる私の体を支えていた彼が笑いを含んだ楽しげな声で囁いた。

「じゃあ、また、明日」

 イった直後でぼんやりしていた私はその言葉に躊躇いながらも、今日もまた小さく肯いて彼の誘いをうける意志を示す返事をする。
 おぼつかない足で何とか自分を支えながら、間もなく到着する駅で降りるために体制を整えながら、うつむき、何ともいえない惨めさを噛み締める。

 いつも快感に負けて、こんな犯罪行為を受け入れてしまっている。
 でも私はその手をふりほどけない。「彼」が与えてくれる快感を手放せない。

 だから振り向かない。「彼」を知りたくないから。どんな人かなんて知りたくない、知ったらいけない。
 いやらしい子だなんて言われても、本当の事で、違うと言うこともできない。だって私は彼のもたらす快感が欲しい。課長に触られている想像をさせてくれる、彼の指と声が欲しくてたまらない。

 こんなの、許して良いはずがないのに。
 私、きっと変態なんだ。

 言葉にしてそう思った時、おかしくて笑えて、その後で泣きたくなった。
 自分を責めても欲求を変えられない。かといってこんな自分を受け入れるのは理性が反発する。
 自分を支えるように抱きしめる彼の腕を見つめながら、快感直後の冷めた頭で自分の意志の弱さを呪った。

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