上 下
48 / 48
番外編

【蛇足2】罪科の足音(裏面)

しおりを挟む
ラウールから見たテッドの話。
少し残酷な話と感じるかもしれません。
虫をいたぶって遊ぶ猫の話に、虫かわいそう…と胸が痛むタイプの方は特に、自衛が必要かもしれません。






***



 異母妹が死んだという情報が入ってきたのは、ただの偶然だ。
 ヒモに食いつぶされて体を売るようになった挙げ句、客からの暴力によって死んだとか。
 そんなことはよくある話で、それに特段興味もなく「へぇ」と聞き流して終わった。
 せっかくそこそこまともな母親のもとで育ったのに、結局そんな死に方なのかと、ちらりと思った程度だ。
 が、後になって思えば、そんなことを考える程度には興味が残っていたのかもしれない。

 ある時ふと、異母妹を食い潰したヒモを思い出したのは、そろそろペットを飼いたいと思っていた時のことだ。
 何かを探すとき、どれでもいい中でひとつを選ぶのは、目につくかどうかだ。
 そこで件のヒモに興味が湧いたのは、ただ異母妹という目印がついていた、それだけだ。
 だが、それは確かに決め手となった。
 その男は、清々しいほどの小物のクズだった。ちょうどいい。探していたペットにぴったりだった。

 ソレを探すのもいい暇つぶしになっていた。
 そこでアレに恨みを持つ者たちと接触し、ついでに依頼を受ける。下地を作るまでの餌代にちょうどよかった。
 その時アレを探す騎士の話を聞いて、面白半分に接触した。
 深入りすればこちらの身が危うくなるが、それもまた一興。ペットが手に入るまでの楽しみにちょうどいい。

 多少警戒はされたが、俺に関しては放置することにしたようだ。つまらない。せっかく俺の裏の素性も臭わせたのに。そっちに食いついて目的忘れるバカの方が遊び甲斐があったのになぁ、とつまらなさも感じつつ、これはこれで、お堅い騎士が後ろ暗いことに手を貸すのを嗤う楽しみもできる。悪くない。

 同情を引く為にあえて異母妹の話をした。お堅い騎士が自分の行動を正当化するにはちょうどいいネタだろう。異母妹に関してはほぼ本心を語ったが、人は淡々と告げればればかえって感情移入し、自分の感情に置き換えて判断する。わざわざ「情も何もない」と事実を伝えようと、嘘で加えた「腹いせ」の方に勝手に真実を見出す。

 人間ってのは、面白いねぇ。
 笑う裏にありもしない復讐心を読み取る。多くの者を陥れてきたクズに鉄槌を下すかのような構図は、俺の身元の危うさすら覆い隠す。
 なにせ相手は、放置すれば、これからも一般人を不幸に陥れるクズだ。
 笑いながら「ちょうだい」と囁けば、予想通り、騎士はそれで心を決めたようだ。
 それが、俺に言いくるめられたのか、言いくるめられたふりをした方が騎士にとって都合が良かったのか。……どちらだとしても問題はない。
 騎士は俺の言葉に乗った。

 思ったより軽く成った共同線は、面白みには欠けたが、思いがけない収穫でもあった。なんだかんだ言っても、アレも一応一般階級。騎士隊に保護を求めて駆け込まれると手に入れるのに手間がかかる。
 騎士に伝手ができたのは、いざというときの保険にちょうどいい。

 異母妹や騎士の恋人、他にも幾人かの男女を食い物にしたという話は、どれも手口は単調だが、それが成立する当たり、人を誑かすなかなかいい腕を持っているようだ。
 なかなか遊びがいがありそうだ。

 ああいうタイプは自分がなによりも正しいと思っている。すべてが自分の思い通りになるべきだと。だから改心など絶対にしない。自分に都合の悪いことが起こると、ただ自分を憐れみ、人を恨む。自分を責めないから、壊れにくい。何でも自分の都合よく解釈し、流される。
 そして、支離滅裂なことを言っても、人の罪悪感や自信のなさを逆手に取った言動で人を言いくるめ、自分の思い通りに動かすのが上手い。何より、誑かしているとも思っていないのが、言葉に説得力を持たせるのだろう。自分が正しく、自分の思い通りにならない人間が間違っている。そういう人間にとってはそれが真実なのだ。


 騎士から連絡が入ったのは、最初の接触から半年ほどが経った頃だ。
 俺より先に騎士に見つけられたのはしくじったと思ったが、思いがけず騎士はアレを完全に手放した。
 いや、想定の範囲内ではあった。良くも悪くも高潔な騎士様だ。せいぜい法の範囲内でアレを裁くだろうことは予想がついていた。

 それにつけても、まさか恋人の可愛らしい反撃一つで収めるとは。
 話を聞いたときは、あまりにもの予想外な出来事に、声を上げて笑った。
 天使ちゃんねぇ。
 何度話を聞いても、反吐が出るほど嫌いなタイプだ。目の端に入るのも不愉快だ。嫌いな物ほど目に付くもので、存在しているだけで殺したくなる。絶望に叩き落としてドブの水で洗えばかわいげがでるだろうか。
 ……が、聞いた内容があまりにもバカバカしくて面白かったから、騎士の天使ちゃんのことは忘れることにする。
 何より、騎士があの男を俺に譲ったことが面白かったからそれでチャラだ。

 俺がろくでもないことにアレを使うのは想像できているだろうに。
 それでも俺に明け渡す時点で、天使ちゃんの反撃では足りなかったということだろう。放置すれば、次の被害者が出るというのも大きいだろう。楽に、そして手を汚さずに、アレを始末できる。
 手を引くと言った騎士を見て、なにを尤もらしいことをと嗤う。それで善人ぶっているつもりなのか、と。結局は俺に譲り渡すくせに、と。
 その保身を嗤ってやれば、騎士はその嘲りに乗ることなく流した。

 その様子があまりにもつまらなく、鼻で笑う。
 これだから、この手合は面白くない。もう少し感情的に掴みかかってくれば、もう少し遊べるのに。
 この騎士でも遊んでみたかったが、生真面目でお綺麗な騎士様は、俺が遊べるほどのほころびを見せなかった。時間をかければ変わっただろうか。が、軽く遊ぶには手間が掛かりすぎる。残念だ。
 騎士は、二度と俺と接触することはなかった。




 ともあれ、アレを手に入れた。どうやって遊ぶのかは決めている。
 まずはアレに都合よく囲い込んでやろう。
 少しずつ少しずつ、壊して楽しもう。壊れかけたら直して、また遊ぶ。
 手軽に遊ぶにはちょうどいいペットだ。多少の手間が掛かる方が面白い。けれど手間が掛かりすぎたら邪魔になる。
 コレは、片手間に遊ぶには、ちょうどいいペットだった。良い拾い物をした。死んだ異母妹を心の中で褒めてやる。素晴らしい兄孝行だ。

 アレが気分よく調子に乗ったところを落とした瞬間の、あの顔。良い表情をする。信じていたものに裏切られ絶望する顔は最高にそそる。
 良い子だね、かわいいね……心のままに褒めてやる。片手間とはいえ、そこそこ手をかけたのだ。達成感も相まって愛おしさも込み上げるという物だ。

 本当なら、あの騎士のような高潔を装っている人間を絶望に叩き落として、惨めに懇願させるほうが好みなのだが、そこまでは難しい。ああいうのを躾けるのは、片手間にはできない。
 趣味で飼うなら、中身はないが管理も簡単なコレ程度がちょうどいい。自尊心が高くて反応も面白く、根性もない上に頭も悪いから逃げる前に体を落とせる。
 褒めてやれば、痛みに耐えることも喜びとなる。
 躾にかけた手間がそのまま結果に繋がる単純さは、簡単すぎで面白みに欠けた感はあったが、手間をさほどかけずに躾けるには、悪くない。

 とはいえ、躾も怯えさせる一辺倒では身につかない。
 快感と褒美に依存させ、俺から嫌われることに怯えさせる。
 お外は怖いってことを、教えてやらなきゃね。
 逃げる頃合いに、嗜虐趣味の男を雇ってあてがってやれば、簡単にその心は折れた。

 が、そのまま戻ってくるとは、あまりにも単純すぎて腹立たしさすら覚えたが。
 つまらない。もう少しがんばればもっと楽しめたのに。次に逃げたときの手も打ってあったというのに、無駄になった。
 予想通りの行動をする単純さは、自分の策が功を成した面白さもあったが、上手くいきすぎるとつまらない。もう少し手応えが欲しいところだ。
 けれど、自分が陥れられたと気付かぬまま泣きついてくる様子は、かわいいからよしとした。
 バカな子ほどかわいいという言葉の意味が、最近はなんとなくわかる気がする。

 コレが思ったより弱いのは残念だが、怯えながら、こちらを探る様子は十分にかわいい。策を練るには単純すぎて面白くはないが、恐怖に震えながら必死にしっぽを振る様子は、憐れでかわいい。
 ああ、次はどんな手で絶望に突き落とそうか。
 また怯えながら必死にしっぽを振るのだろう。
 どこまで保つかなぁ。
 コレが異母妹たちにしてきた事を、全部味わわせてやろう。俺の趣味でやると簡単に壊れすぎるから、コレの手口ぐらいがちょうどいいだろ。

 尤も、せっかくそれを口実に罵ってやったのに、そこの反応が今ひとつだったのは、残念だが。
 頭が悪いから、自分のやったことと自分がやられていることを結びつけて考えられないのだろう。後悔も反省もそこにはない。相手の気持ちを考えることができないために自業自得という感覚がないらしく、その手の絶望とは無縁らしい。せいぜい自分の未来に結びつけて先を予測して絶望する程度か。
 自責の念で無駄に苦しむ姿を突っつくのも楽しいんだけどなぁ。残念。
 罵り方は、もう少し自尊心を削るような物が良さそうだ。
 そんなことを考えるのも楽しい。

 良いペットを見つけたなぁ。
 さて、仕事も終わったし、帰ろうか。
 逃げ方すらも知らない、愚かでかわいいペットが俺の帰りを待っている。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(44件)

鈴
2023.10.06

気付いたら最後まで一気読みしてました!クリス天使過ぎます(〃ノωノ)💕とっっっっっても可愛かったです!

水瀬かずか
2023.10.06 水瀬かずか

ありがとうございます。
可愛いと言っていただけて嬉しいです!
たくさん読んでいただいて、とても嬉しいです。今日は朝からずっと幸せをいただいています✨

解除
ノア吉
2023.06.28 ノア吉

怖っ!!
元彼よりよっぽどぶっ壊れてるー(((゚Д゚)))ガタガタ
自業自得とはいえゾワゾワしました。

水瀬かずか
2023.06.28 水瀬かずか

ありがとうございます!
一見普通の人に見えるけど、本質的に一般人とは混ざりあえない異常者な雰囲気が出ていればうれしいです(๑•̀ㅂ•́)و✧

解除
いぬぞ~
2023.06.27 いぬぞ~

ラウールさん、何気にテッドがお気に入り。


マグロの着ぐるみ着て、直立不動で立っているクリスが脳内を占拠してます(笑)。

水瀬かずか
2023.06.27 水瀬かずか

ありがとうございます!
テッドは気に入られてます。それが幸せかどうかは別として…。

マグロのきぐるみと直立不動セットはいいですね!ライオネルの幸せ度がうなぎのぼりです(笑)

解除

あなたにおすすめの小説

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話

トウ子
BL
惚れ薬を持たされて、故国のために皇帝の後宮に嫁いだ。後宮で皇帝ではない人に、初めての恋をしてしまった。初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら、きちんと皇帝を愛することができた。心からの愛を捧げたら皇帝にも愛されて、僕は寵妃になった。それだけの幸せなお話。 2022年の惚れ薬自飲BL企画参加作品。ムーンライトノベルズでも投稿しています。

絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

あさ田ぱん
BL
 ヴァレリー侯爵家の八男、アルノー・ヴァレリーはもうすぐ二十一歳になる善良かつ真面目な男だ。しかし八男のため王立学校卒業後は教会に行儀見習いにだされてしまう。一年半が経過したころ、父親が訪ねて来て、突然イリエス・ファイエット国王陛下との縁談が決まったと告げられる。イリエス・ファイエット国王陛下の妃たちは不治の病のため相次いで亡くなっており、その後宮は「呪われた後宮」と呼ばれている。なんでも、嫉妬深い王妃が後宮の妃たちを「世継ぎを産ませてなるものか」と呪って死んだのだとか...。アルノーは男で、かわいらしくもないので「呪われないだろう」という理由で花嫁に選ばれたのだ。自尊心を傷つけられ似合わない花嫁衣装に落ち込んでいると、イリエス・ファイエット国王陛下からは「お前を愛するつもりはない。」と宣言されてしまい...?! ※R-18 は終盤になります ※ゆるっとファンタジー世界ですが魔法はありません。

すてきな後宮暮らし

トウ子
BL
後宮は素敵だ。 安全で、一日三食で、毎日入浴できる。しかも大好きな王様が頭を撫でてくれる。最高! 「ははは。ならば、どこにも行くな」 でもここは奥さんのお部屋でしょ?奥さんが来たら、僕はどこかに行かなきゃ。 「お前の成長を待っているだけさ」 意味がわからないよ、王様。 Twitter企画『 #2020男子後宮BL 』参加作品でした。 ※ムーンライトノベルズにも掲載

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

王子と俺は国民公認のカップルらしい。

べす
BL
レダ大好きでちょっと?執着の強めの王子ロギルダと、それに抗う騎士レダが結ばれるまでのお話。

兄の代わりを務めたら嫌われものでした

レタ
BL
西園寺家は由緒正しい古くからある家柄だけが取り柄の家で、碧(主人公)は西園寺家の双子の弟だ。兄の敦とは顔はまるでそっくりで色白の美人であったが目の色だけが違っていた。敦は真っ黒だが碧はとても色素の薄い茶色をしていた。西園寺家では昔から双子の兄弟は縁起が悪いとされており、そのせいでまるで敦しか子供はいないかのように扱われ、碧は離れでひとり暮らしていた。 敦は星華学園というお金持ちのお坊ちゃん御用達の中高一貫の男子校に通っており、碧は公立中学校に通っていた。星華学園は中等部は自宅から通い、高等部から寮である。敦はそのまま高等部に進学、碧は義務教育が終わり、このまま家を出ることになっていた。 中学3年生の2月、敦が学校の階段から落ち意識不明となってしまった。後継ぎの問題が急に浮上し、顔も似ていることから碧は意識不明の敦の代わりにふりをするように両親から命令された。記憶喪失という設定で敦として星華学園の高等部に通うことになった碧だか、行ってみるとみんなから嫌われていたのだった。敦は学園で相当なわがままでやりたい放題していたのだ。 ---------------------- 基本的に自己満の作品なので、どんなのでもありな人だけお願いします。 無理やりの胸糞展開もありますが、話の前に注意書きなど入れてないため申し訳ありませんが合わなそうな方はバックお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。