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番外編

おまけ小話集

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近況ボードに文字数制限で載せられなかった物です。

作中に投稿しづらかった、いろんな小話。
ムーンライトノベルズさんでの投稿にて、あとがきに載せてた物です。
アルファさんはあとがき機能がないので、こちらでまとめて。
作品の内容に関係があったりなかったり。
どこの部分のあとがきなのか、対照の参考にタイトルを入れておきます。




【2 どうしたんだ、こんなところで2】

「マグロ」だと、彼は僕に言った。
……………………。
マグロって、なんだろう……?
痛む胸を押さえながら考える。あんまり良い意味には聞こえなかった。
きっと僕が悪いんだろうけど……魚の事じゃ、ない、よね……? 魚だったら、マグロはおっきくておいしい魚だし、悪い意味ではなくなってしまうし……。
悲しい気持ちと辛い気持ちが交差する中、なんとなく、ずっと僕の頭の片隅で「マグロってなんだろう……?」が離れなかった。





【4 嫌だったら、突き飛ばしてくれ2】

「マグロって、なんだと思いますか?」
「……? 魚のマグロか?」
「……わかりません。魚のほかに、マグロって、ありますか?」
「いや、わからないな……」
騎士様でも、わからない事があるんだ。僕は、ちょっぴり、ほっとした。





【6 私の家に、来るか?2】

確かに、ハンカチは布で作ってある。シャツも布で作ってある。
でもシャツはシャツであって、ハンカチではなくて涙は拭わない。
けれど目元に触れるのはシャツだが、確かに涙を吸い取っている。そういえば、袖ではぬぐうこともあるかも。
……やっぱりハンカチでいいの……?
でもそこで布の同類項で一括りにするのはいかがなものか。

ところで、シャツの向こうにある弾力のある胸元が、やたらと気になる。
ぽふりと触れて、むにゅりと指先に触れた胸板。
「……ハンカチ?」
いや、ハンカチじゃない。これは、胸板だ。筋肉なのに、固くない。弾力が程よい柔らかさで僕の目元を包み込む。
絶妙にむにゅんとしてきもちいい。
……騎士様、なんか、えっちです……。
涙が止まった。
僕は、ハンカチどころか布ですらないもので、涙をぬぐった気がしてならない。
「ハンカチだ」と断言した騎士様の声に、僕は胸板の感触を感じながら心の中で、「これはハンカチ…」と、繰り返した。

僕はこれから先ずっと、涙をハンカチで拭うたびに、この時のことを思い出しては、あの弾力のある胸元の柔らかさを思い出すのだった。





【8 卑怯だと罵ってくれて構わない2】

「この荷物の中、何が入ってるんだ?」
「ほぼ服です。あとは塩と……」
「塩」
「ほとんどが備え付けの借り物を使っていたので、でも、調味料は僕の買ったものだから…」
「…なるほど?」
「髭剃り用のナイフと…」
「……君に、髭はあるのか……」
「ありますよ!剃るのは数日に一回で大丈夫ですけど、男なので(๑•̀ㅂ•́)و✧」
「……そうだな……」
「あとは歯磨き用の……」
次々と出てくるすぐに買えるささやかな小物。それを全財産だと彼は言う。
「……大切に、する……!」
「……? え、あ、はい……?」
君の大事に持ち出したそれらと一緒に、もっともっと君の荷物を増やそう。持ち出せないぐらいたくさん。持ち出したいと思えるものをたくさん。
君が私の家から簡単に出ていけないほど、たくさん。




【11 ゆっくり休むといい】

断じて言う。
決して、そんなつもりはなかったのだ、と。
「身体をぬぐうお湯を準備してきた」
中に声をかけると「どうぞっ」という焦りつつも柔らかな声。そのとき少々浮かれていたのは認めよう。
開けると、そこに、半裸のクリスがいた。
「……!!」
目が合った。
わざとではない!!断じて、わざとではなかったのだ!!
「す、すまない……!!」
見てはいけない、ととっさに思って、目をそらさねばならないと、頭では思っていたのだ。
が、身体が動かなかった。
故に、理性の力でひとまず目だけが動いた。ちょっと目をそらしただけである。下の方に。
そこにはクリスの白い肌があった。
……決して見るつもりはなかった!!そんなつもりは、なかったのだ!!
あのタイミングは意図的ではなかったと、それだけは、強く訴えたい所存である。

結果的に、クリスの状況を知れたので、塞翁が馬というヤツである。
ひとまず、クリスの痣に気付いた瞬間、お湯の入った桶を落とすことも叩き付けることもせず、床に置くことのできた自分を、騎士は冷静になってから、そっと褒めた。





【14 高すぎませんか?】

家に帰り着くと、家の中からいい匂いが漂ってくる。
実は少し、期待していた。あの子なら、ご飯を作ってくれるんじゃないかと。
家を出る前、昼食は家の中の食材を自由に使って食べるようにと伝えておいたのだ。
勝手に触るのを遠慮して、何もしない可能性も考えてある。その場合はいつも通り外に食べにゆけばいい。
どちらにしろ、かわいいクリスとの食事である。
が、クリスの手料理は、やはり感慨が違う。

「おかえりなさい」と出迎えてくれたクリスに、
もしかして、新婚
の一言がよぎる。夢想するだけならタダである。
浮かれた感情を誤魔化して、早口に喜びを伝えると、驚いた表情のあとのへニャリとした笑みは、天使だった。

そしてあちらこちらにクリスの家事のあとに気づく。
もしかしなくても、やはりこれは新婚では?!
テンションも爆上がりというものである。
そしてついにこのまま同居にこぎつけ、毎日家事もしてくれると決まる……これはもはや、夫婦では……?

しかし現実は甘くなかった。
浮かれた煩悩は叩き落される。
家賃を払いたいから、働くのだと、天使が言う。
……もしかして私は、家事をさせた上、家賃まで請求するような人間だと、思われているのか……?
愕然とした騎士の気持ちを、このときのクリスは、知る由もない。






【17 給料を上げよう】

「……何を見ているんだ?」
食材を買いに出かけた道すがら、立ち止まったクリスに、騎士はその視線の先を探す。

そこにあるのは小さな焼き菓子の店だ。
「あ、いえ、なんでもないです」
「……久しぶりに焼菓子が食べたいな。クリス、よかったら一緒に選んでくれないか?」
「え、あ……」

「これは以前食べたが、美味かったから、君にも食べさせたい。あとは、これもうまそうだな。……他には、……クリス、君の気になるものも教えてくれ。一緒に食べるなら君の好きなものも知りたい」
「あ、の、僕、よく分からなくて……」
オロオロして恥ずかしそうにうつむくクリスに、「私だってよく知らないさ」と、騎士が笑う。

「私も自分で買うのは初めてだから、クリスと一緒だな。ほら、気になる形でも、なんでもいい、一つ選んでくれ」
「じゃ、じゃあ……」
クリスが選んだのは、その店で一番安い焼き菓子だ。
「じゃあ、それも買おう」

初めて自分で選んで買ってもらった焼き菓子は、甘くて美味しかった。
「君が選んだ物も美味しいな」
騎士が笑う。クリスは、騎士の選んだものを食べて、「騎士様が選んだのも美味しいです」と笑う。
申し訳無さと嬉しさが、ふわふわと取り巻いて、クリスは、今日も泣きたいほどの幸せを感じるのだ。






【24 さびしくは、ないですか?】

その日の夕食に、マグロが出てきた。
ふと、以前クリスにマグロとは何かを聞かれたことを思い出す。
マグロ。……マグロ? 魚以外にあるか……?
マグロ、何かあるか?
……イヤ、まさかな。……まさか、なんだが……もしかして、もしかするのか?
にこにこと笑うクリスは今日も天使のように美しい。
ちなみに仲間内では美女と野獣と言われている。やかましい。クリスはかっこいいと言ってくれたんだよ!
まさか、この美しくもかわいいクリスに、マグロと……?
思わず全裸でベッドに横たわって恥じらって全く動けないクリスを想像して倒れそうになる。
もし、そうだとして、クリスにそんなことを言ったヤツがいたとして、だ。

それは、マグロじゃなくって、ただの天使だろう。そいつの頭は、かなりおかしくないか……?







【28 君以外いらない】

マグロ……マグロか……。
マグロのクリス……絶対にかわいいヤツじゃないか。
いや駄目だ、そんなことを想像しては駄目だ……!!
卑猥な妄想を必死で打ち消そうと、マグロの着ぐるみ(パジャマ)を頭の中でクリスに着せる。
マグロの着ぐるみを着た、クリス――……?
……駄目だ、何をしても、かわいい……。
マグロの着ぐるみを着て、困ったように首をかしげるクリスは、やはり天使である。
(※着ぐるみパジャマは、奇跡的にこの世界に存在する物とする)





【30 触れ合うだけでも気持ちいい】

(R18)

「あの、ライオネル様のおちんちん、なめてもいいですか…?」
「……は?!」
「だ、だめ、ですか…?」
「い、いや、なんで舐めたいと…?」
「だって僕も、ライオネル様を気持ちよくさせたいです!」

押し切られた結果。

「あの、先っちょ舐めるのと、下から舐めあげるのと、どっちが好きですか?」

一生懸命ライオネルの好みを知ろうと熱心に訊ねてくる。ライオネルは天を仰いだ。
これ、なんて拷問……?
クリスからの言葉責め(しかも無自覚)、しかも手出ししちゃだめとか……。
厳しい夜の出来事だった。






【32 抱き合うのって、きもちいいんだね】

結論から言うと、クリスはマグロではなかった。
むしろ、積極的で、途中で発射しそうになってしまった。天使で妖艶って、クリスのポテンシャルが高すぎる……!!
……マグロ、とは。
クリスのマグロ発言に、疑問が疑問を呼ぶ。
なんなんだ、マグロ……。
でも、ビクビクと跳ねる姿は、魚っぽいと言えなくも………イヤ、言えないな。







【34 これは、私怨2】

数年後のある日の一幕。

「ライオネルさん、以前僕が受け取った両親の財産って、もしかして、僕を引き取った親戚がずっと管理してたんじゃないですか?」
ついに知られるときが来たのだと、ライオネルは覚悟を決めた。
「ちゃんと保管しておいてくれたんですね……。こうして返してくれるだなんて、嬉しいですね……」
はにかむような笑顔がライオネルの罪悪感に直撃した。

天使、舐めてた――……





【38 君がしあわせになれるよう、祈ってるよ4(完結)】

「あのね、マグロって、なにかわかったよ!お魚のことだったんだけど、お魚じゃなかったんだ!」
「……んん?」
「あのね、お魚のマグロは水揚げされて、固まったまま並ぶんだって!だから、動かずにじっとしていることを言うんだって!」
「な、なるほど?」
「……でも、僕がマグロって、どういう意味だったんだろう……?」
「……ほんとにな。……少し見てみたい気もするが」
まさかの、ベッドの上のマグロの話だったらしい。どうしたらクリスがマグロなんだ……と、思ったが、誰が言ったのかを思いあたり、思わず納得する。
あの下手くそ相手なら、クリスもマグロにならざるをえなかったのだろう。
マグロのクリスを知ってるとは、許しがたい。けれど、私は一生知らなくて良いことだ。クリスがそうならないように大切にしよう。
「……なにを、しているんだ?」
ピシッと立って動かないクリスを見る。
「マグロ! ライオネル様が見てみたいと言ったから!」
カチカチに固まっている様子を表現しているらしい。
「本当に、君は、最高だ……!」
笑いながらカチコチのクリスを抱きしめる。
こんなかわいいマグロは、きっと他にない。




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