恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか

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番外編

罪科の足音6

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 結局、それから一月、ラウールがテッドを抱くことはなかった。尻の傷が治るまでお預けだと言われ、かといってやはり他の男を捜すのも恐ろしく、ディルドで自慰を続けるしかできなかった。
 もう傷は治ったから大丈夫だと、控えめに訴えた。ラウールは相手の機微を読むのが上手い。出会った頃は、何も言わなくてもテッドの望む物を与えてくれていたのだ。それだけに、テッドからの誘いとわかっていてそれを躱されているのだと、否応なしに伝わってくる。

「……抱いてくれ。……頼む」

 屈辱だった。こんな事を頼まなければいけないことに涙がにじむ。けれど、身体が疼くのだ。欲しくて欲しくてたまらないのだ。何より、ラウールが触れてこないのが、どうしようもなく怖かった。
 自分にあきたのか、もうすぐ捨てられるのか。抱いてくれたなら、まだ、希望はあるだろうか。
 ラウールが楽しげに嗤った。

 テッドの目の前に投げられたのは、ラウールからもらったディルドだ。

「だいぶお気に入りだったようだね。俺もプレゼントした甲斐があったよ」

 恥ずかしくて、屈辱で、叫びたいような感情が込み上げる。けれど、それをぐっと堪えた。ラウールの気分を損ねたくなかった。
 なにも言えないまま震えていると、優しい声がした。

「見ててあげるからやってごらん」

 胸の奥がずんと重くなるような絶望感が襲う。こんな物を咥えているところを見せろというのか。ふざけるなと叫びたかった。絶対嫌だと思った。
 ……けれど、言われたとおりにすれば、もしかしたらラウールがその気になって抱いてくれるかもしれない。
 口の中がカラカラで、呑み込む唾液もないのに、こくりと息を呑んで考え込む。
 震えながら目の前のディルドを手に取った。このひと月散々使ってきた物だ。これで少しは快感を感じられるようになっていた。

「……わかった」

 テッドは震えながら頷いた。

 ぐちゅぐちゅとディルドが音を立てながら尻の穴を出入りする。自分で手を動かしながら、テッドはラウールを見た。
 けれどラウールは興奮した様子さえなく、笑いながらショーでも見ているかのように冷静な目でテッドを眺めていた。

「ラ、ウール、ラウール」

 誘うように目の前の美しい青年を呼ぶ。頼むから、お願いだから、お前に抱かれたいんだ。
 けれど、彼はそんなテッドを見て、楽しそうに笑うばかりだ。

「ねえ、どんな気持ち? 自分がやってきたことを、同じようにされるのは?」

 ディルドをずほずぽと動かしている間に、笑顔で投げつけられた言葉。
 意味が分からなかった。
 わからないまま「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返す。
 自分でちんぽを擦るのは許されていなかったため、尻の刺激だけでイくしかない。けれどディルドでは快感が今ひとつでイけない。ラウールの冷たい様子に泣きながら、必死で手を動かす。

「……まだ、終わらないの?」

 飽きたようなその声に、血の気が引くような恐怖が襲う。

「ご、ごめ……」
「まあ、いいや。ちゃんと自分で解したから、入れてやるよ」
 ラウールが嘲笑って、グポッと乱暴にディルドを引き抜いた。
「あ゛あ゛……!!」
 ビクビクと身体が跳ねる。あれだけイけなかったのに、ラウールが与えてくれた動作ひとつで達してしまった。

「は? なにイってんの? まあいいや。突っ込もうにも萎えてたし」

 イった余韻で呆然と震えているテッドに、ラウールの面倒臭そうな声が聞こえる。
 溜息をつきながら、ラウールが萎えたちんぽを自分で面倒臭そうに擦り上げる。そして、半勃ち以下の状態の柔らかなそれをテッドの口に突っ込んだ。

「欲しいんだろ? お前が使えるようにしてくれる?」

 愕然とした。自分の痴態がラウールに何の影響もなかった惨めさと、やっと与えられるちんぽに触れられる興奮とで、心の中がぐちゃぐちゃになる。
 けれどそれを言葉にすらできないまま、泣きながら柔らかいちんぽに奉仕をした。
 舐めて、吸って、吸い付いたままずぽずぽと頭を動かした。

「……お前、本当に、下手くそだな」

 溜息交じりのしみじみとした言葉にぐっと胸が詰まった。チンポを咥えたまま涙がぼろりとこぼれる。けれどそんなテッドの様子を意に介すことすらなくラウールは溜息をついった。

「ま、このくらい勃ったら、もういいか」

 吸い付いていた口から、ちゅぽんとちんぽが抜かれる。
 そして無言のまま身体をひっくり返され、腰だけを高く上げさせられると、そのままズンッと奥まで容赦なく突っ込んだ。

「ひぎぃ……!!!!」

 その後は、ただ、乱暴に揺さぶられるだけの行為だった。ラウールが欲を放つだけの行為だ。叫ぶテッドを気遣うこともなく、ただ使われていた。

「おら、ちゃんと絞めろよ。なに力抜いてるんだ」

 尻を叩かれて、悲鳴を上げながら力を込めた。

「穴になるぐらいしかお前の価値なんてないんだ。楽してないで、腰を振れよ」

 冷酷な声に、泣きながら、必死で腰を揺らした。けれどがくがくと震える膝のせいで上手く動けない。ラウールの動きに合わせられず、がくがくと間抜けな動きを繰り返す。
 ラウールに気に入られるように、もっとちゃんと動かないと……。
 焦るテッドの尻がバシッと叩かれた。

「ひぃっ」
「気持ちよくねぇなぁ、ふざけてんのか?」

 更に尻を叩かれて、泣きながら、ごめんなさい、ごめんなさいと謝った。

「お前の抱き方で、抱いてやってるんだ。一番大好きな抱かれ方だろう?」

 嘲笑する声に、ごめんなさいと、泣き続けた。
 けれど、そんな抱き方でさえ身体は興奮して、快感に悦んでいた。


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