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番外編

罪科の足音5

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 痣だらけで帰ってきたテッドを見て、ラウールがにっこりと笑った。

「俺以外の誰かに抱かれようとしたの?」

 口を噤んだテッドは、その笑顔に震えた。
 まさか、バレたのか。そんなはずはない。だが喧嘩だと言えば、今日は優しくしてくれるだろうと思っていたのに、この冷ややかさは……。
 テッドは誤魔化すように目を逸らした。

「か、身体中が痛いから、今日は、寝させてくれ……」

 あの笑顔の時は、乱暴に犯される時だ。痣にこそならないが、殴られ蹴られることもある。ラウールの暴力は傷ができるよりも痛い。思わず体が強張った。

「へぇ? 期待してたの?」
「ち、ちがう……っ」
「いかにも他の男に抱かれましたって恰好で帰ってきてさぁ? 煽りたかったんでしょ? 君は、誘い方が上手いねぇ?」

 ガタガタと震える身体を、ラウールが押さえつける。テッドはそれに抵抗する術がなかった。
 痣だらけで熱を持ったテッドの身体を乱暴に抱いた。

「すっかり淫乱のすきもの、、、、だな」

 嗤いながら突きたてられる。散々乱暴にされた後の尻の穴は、ラウールを簡単に飲み込めたが、傷ついた穴をえぐられる痛みに泣き叫び続けた。
 泣きながら「ごめんなさい」「ゆるして」と謝り続けた。
 嗜虐趣味の男ほどの暴力はなかったが、そのとき以上につらく苦しかった。
 それに、他の男と関係を持ったことを知られた以上、このまま嫌われ捨てられる恐怖に頭の中が染まり、こわくてたまらなかった。逃げ出したかったことすら、今は意識の外だった。

「バカだね。君みたいな自分勝手な子、俺以外の誰がかわいがってくれると思うの?」

 事後、ラウールが困ったように笑って頭を撫でてきた。

「私以外で満足しようという考えが気に食わないね。……お仕置きに、しばらく我慢しようか?」
「……がま、ん……?」

 ラウールが楽しげに、ふふっと笑った。

「ほら、これから君の雌穴を慰めてくれる道具だよ? 大切にしてね?」

 渡されたディルドに呆然とする。

「こ、こんなもの……」
「別に使わなくてもいいよ」

 誰がこんな物を使うか。
 そんな怒りは、数日後にはしぼんでしまった。
 快感を求める場所が変わったとはいえ、性欲は衰えない。

 もう一度男を探すか。
 一瞬そんなことを考えたが、これ以上探すのは無理だと思った。
 まだ体中に残る痣を見る。それだけで暴行を受けた恐怖と痛みを思い出し、ブルリと体が震えた。
 暴力こそあるものの、ラウールで発散するほうがまだマシだった。それにラウールは暴力は振るうが、こんな風な痣は残さない。尻が裂けたこともない。
 もはや再び男を探しに行こうという気力はなくなっていた。
 それよりも、また暴力を受けたら、他の男を咥えたのがばれて、また乱暴にされたら……。
 そっちのほうが怖い。
 今のテッドにはラウールしかいない。

 他の男を探すより、ラウールの方が、まだマシだ。
 そうして考えるほど、なんとも言えない不安が押し寄せてきたが、テッドは「ラウールがいるから大丈夫」と、小さく呟いてそれをごまかした。

 しかしそうなると、現状の発散はできない。性欲で疼くくせに、使うと痛いのは間違いない。

 捨てることもできずに持っていたディルドを取りだし、テッドはゴクリと息を呑んだ。
 
 ラウールは本当にテッドを抱く気はないようで、あれから全く触れてこようとしない。
 やりたい。中をあの熱い肉棒でえぐって、ずぼずぼと蹂躙されたい。奥を突かれた時の、あの苦しいほどの快感が欲しい。尻の穴が切ない。さみしいさみしいと疼く。

 ディルドを強く握る。震えながら尻に塗る傷薬を手に取った。

 中に、薬を塗るだけだ。

 自分に言い訳をし、薬を塗りたくったディルドを自ら尻の穴に挿入した。
 ぶちゅりと咥え込む異物は、傷口にはなんとも痛く、押し広げられる違和感はすさまじい。けれど、欲しかった圧迫感に、わずかながら満たされる。
 ラウールから与えられるような快感は全くない。けれどテッドは手を動かした。それでは足りなくて、手で固定して腰を振りたくった。
 いつものような快感はない。けれど欲しかった圧迫感がわずかながらに満たされる。
 足りない、足りない、足りない。ラウール、ラウール……。
 自分を犯すラウールを思い浮かべながら腰を振る。
 テッドは、その惨めさに泣きながら、異物の快感を求めた。


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