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番外編
罪科の足音4
しおりを挟むようやく終わった後、ラウールが離れてゆくのをぼんやりと感じる。
尻の穴から、何かがごぽりとこぼれ落ちるのが分かった。便を垂れ流しているような気持ち悪さが込み上げたが、それをどうこうする気力も体力も残っていなかった。
叫びすぎて、喉がカラカラだ。身体を起こす気にもなれなかった。
ラウールの手が頭の方に伸びてきて、とっさに身体がびくりと震える。
けれどその様子を見てラウールは「ふふっ」と楽しげに笑うだけで、そっと頭を撫でてきた。以前と変わらない、優しい手つきだった。
不覚にもテッドは涙が込み上げるのを感じた。
「……すごくかわいかった。泣き顔、いいね。必死におねだりして、いいこ。次も、楽しみにしてるよ」
「ふ、ふざける、なっ」
怒っているはずなのに、弱々しい声が涙で震えた。
怖かったのだ。痛かったのだ。なのに、いつものラウールに戻ってほっとしている。テッドが怒ってみせれば、笑いながら受け止めてくれるいつものラウールだった。
「お、まえ、なん、でっ、……なんで……」
問いかけはそれ以上言葉にならず、涙がぼろぼろとこぼれた。撫でてくれるラウールの手が心地よかった。
けれど悔しくて、疲れ果てた身体で震えながら抵抗するが、癇癪を起こした子供を宥めるように簡単に、男に抱きしめられる。
「痛かったね。がんばったね。いいこ。上手に俺を咥えていたよ。きゅうきゅう締め付けてきて、気持ちよかった。がんばったね」
抱きしめられて、目元にキスされて、許せないと思っていたはずなのに、安堵する自分がいた。テッドは、「ふざけるな…」と呟きながら抱きしめられたまま泣いた。
その間もずっとラウールからささやかれる「かわいい」「いいこ」「がんばったね」という言葉が続いていて、それがひどく心地よかった。
それから度々、乱暴にされることがあった。
そして時々、以前と変わらず優しかった。
テッドは、いつまた乱暴にされるのかと怯えながら、優しく抱かれる快感を捨てられず、抱かれ続けていた。
ラウールが豹変するのは突然だ。
気まぐれに優しくされ、気まぐれに乱暴にされる。「うるさい、だまれ。淫乱はケツにチンポ咥えて喜んでりゃあいい」嘲笑いながら殴られて、泣きながら震えた。やめてくれと懇願しても笑いながら「穴のくせに生意気だな」と、口にさっきまで履いていた下着を突っ込まれた事もあった。それをさも楽しげに笑っていたラウールの顔は、恐怖と共に瞼の奥に焼き付いている。
日常に戻って我に返ると、ふざけるなと怒りに震えるが、そんなときのラウールは、出会った頃の美しくて自分をいい気分にさせてくれるラウールにもどるのだ。笑顔でごめんねと謝られ、「かわいいから」「今度は優しくするね」「怒っててもかわいい」と宥められる。誤魔化されているとわかっているのに、期待と共に許してしまう。
けれど、このままではダメだという、どうしようもない恐怖を感じて、テッドは別の男を捜した。今度は、タチの男だ。ラウールの代わりに自分を抱いてくれる男を見繕えばいい。
しかし、めぼしい男が見つからない。
それもそうだ。テッドは基本的に女の方が好きなバイセクシャルだ。男より女が好きだ。しかし女だとうっかり孕ませることもあるのが面倒で、女の代わりにできる男を選んで遊んでいたのだ。
つまり、男らしい男に抱かれるのは気持ちが悪い。かわいい男が良いが、なかなかめぼしい男が見つからない。
更に、知り合いに見つかるのだけは絶対に嫌だった。散々見下し嘲笑ってきた相手に、今更ネコに目覚めたなどと知られようものなら、面白半分に犯されるに決まっている。冗談じゃない。
自分がいた界隈とは違う場所で探さなければならない。
しかし、場所が変わればルールも変わる。何人かを相手にして、テッドの身勝手な要求に、何人もの男が「誰がてめぇなんかに勃つか!」と、ホテルまで行ったあと、逃げられた。
金を払えば抱いてやると嗤う男もいたが、冗談じゃないと怒鳴りつけた。
けれどようやく見つけた。彼は女の子と見紛うようなかわいい少年じみた男だった。
身体つきからして満足できる大きさとは思えなかったが、ないよりはいい。
けれど、蓋を開けてみれば、嗜虐趣味の男だった。
自分より小さければ抵抗できると思っていたが、体術ができるらしく、腕一本で身動きできないように押さえつけられた。殴られ、踏みつけられ、顔にも体中にも痣ができた。骨こそ折れなかったが、顔もどこも腫れ上がった。無理やり突っ込まれた尻には裂傷ができたようだった。
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