恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか

文字の大きさ
上 下
42 / 48
番外編

罪科の足音4

しおりを挟む

 ようやく終わった後、ラウールが離れてゆくのをぼんやりと感じる。
 尻の穴から、何かがごぽりとこぼれ落ちるのが分かった。便を垂れ流しているような気持ち悪さが込み上げたが、それをどうこうする気力も体力も残っていなかった。
 叫びすぎて、喉がカラカラだ。身体を起こす気にもなれなかった。

 ラウールの手が頭の方に伸びてきて、とっさに身体がびくりと震える。
 けれどその様子を見てラウールは「ふふっ」と楽しげに笑うだけで、そっと頭を撫でてきた。以前と変わらない、優しい手つきだった。
 不覚にもテッドは涙が込み上げるのを感じた。

「……すごくかわいかった。泣き顔、いいね。必死におねだりして、いいこ。次も、楽しみにしてるよ」
「ふ、ふざける、なっ」

 怒っているはずなのに、弱々しい声が涙で震えた。
 怖かったのだ。痛かったのだ。なのに、いつものラウールに戻ってほっとしている。テッドが怒ってみせれば、笑いながら受け止めてくれるいつものラウールだった。

「お、まえ、なん、でっ、……なんで……」

 問いかけはそれ以上言葉にならず、涙がぼろぼろとこぼれた。撫でてくれるラウールの手が心地よかった。
 けれど悔しくて、疲れ果てた身体で震えながら抵抗するが、癇癪を起こした子供を宥めるように簡単に、男に抱きしめられる。
「痛かったね。がんばったね。いいこ。上手に俺を咥えていたよ。きゅうきゅう締め付けてきて、気持ちよかった。がんばったね」
 抱きしめられて、目元にキスされて、許せないと思っていたはずなのに、安堵する自分がいた。テッドは、「ふざけるな…」と呟きながら抱きしめられたまま泣いた。
 その間もずっとラウールからささやかれる「かわいい」「いいこ」「がんばったね」という言葉が続いていて、それがひどく心地よかった。

 それから度々、乱暴にされることがあった。
 そして時々、以前と変わらず優しかった。
 テッドは、いつまた乱暴にされるのかと怯えながら、優しく抱かれる快感を捨てられず、抱かれ続けていた。


 ラウールが豹変するのは突然だ。
 気まぐれに優しくされ、気まぐれに乱暴にされる。「うるさい、だまれ。淫乱はケツにチンポ咥えて喜んでりゃあいい」嘲笑いながら殴られて、泣きながら震えた。やめてくれと懇願しても笑いながら「穴のくせに生意気だな」と、口にさっきまで履いていた下着を突っ込まれた事もあった。それをさも楽しげに笑っていたラウールの顔は、恐怖と共に瞼の奥に焼き付いている。
 日常に戻って我に返ると、ふざけるなと怒りに震えるが、そんなときのラウールは、出会った頃の美しくて自分をいい気分にさせてくれるラウールにもどるのだ。笑顔でごめんねと謝られ、「かわいいから」「今度は優しくするね」「怒っててもかわいい」と宥められる。誤魔化されているとわかっているのに、期待と共に許してしまう。

 けれど、このままではダメだという、どうしようもない恐怖を感じて、テッドは別の男を捜した。今度は、タチの男だ。ラウールの代わりに自分を抱いてくれる男を見繕えばいい。
 しかし、めぼしい男が見つからない。
 それもそうだ。テッドは基本的に女の方が好きなバイセクシャルだ。男より女が好きだ。しかし女だとうっかり孕ませることもあるのが面倒で、女の代わりにできる男を選んで遊んでいたのだ。
 つまり、男らしい男に抱かれるのは気持ちが悪い。かわいい男が良いが、なかなかめぼしい男が見つからない。
 更に、知り合いに見つかるのだけは絶対に嫌だった。散々見下し嘲笑ってきた相手に、今更ネコに目覚めたなどと知られようものなら、面白半分に犯されるに決まっている。冗談じゃない。
 自分がいた界隈とは違う場所で探さなければならない。

 しかし、場所が変わればルールも変わる。何人かを相手にして、テッドの身勝手な要求に、何人もの男が「誰がてめぇなんかに勃つか!」と、ホテルまで行ったあと、逃げられた。
 金を払えば抱いてやると嗤う男もいたが、冗談じゃないと怒鳴りつけた。

 けれどようやく見つけた。彼は女の子と見紛うようなかわいい少年じみた男だった。
 身体つきからして満足できる大きさとは思えなかったが、ないよりはいい。
 けれど、蓋を開けてみれば、嗜虐趣味の男だった。
 自分より小さければ抵抗できると思っていたが、体術ができるらしく、腕一本で身動きできないように押さえつけられた。殴られ、踏みつけられ、顔にも体中にも痣ができた。骨こそ折れなかったが、顔もどこも腫れ上がった。無理やり突っ込まれた尻には裂傷ができたようだった。


しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

メランコリック・ハートビート

おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】 ------------------------------------------------------ 『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』 あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。 ------------------------------------------------------- 第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。 幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。

使用人の俺を坊ちゃんが構う理由

真魚
BL
【貴族令息×力を失った魔術師】  かつて類い稀な魔術の才能を持っていたセシルは、魔物との戦いに負け、魔力と片足の自由を失ってしまった。伯爵家の下働きとして置いてもらいながら雑用すらまともにできず、日々飢え、昔の面影も無いほど惨めな姿となっていたセシルの唯一の癒しは、むかし弟のように可愛がっていた伯爵家次男のジェフリーの成長していく姿を時折目にすることだった。  こんなみすぼらしい自分のことなど、完全に忘れてしまっているだろうと思っていたのに、ある夜、ジェフリーからその世話係に仕事を変えさせられ…… ※ムーンライトノベルズにも掲載しています

悪役令息に転生したので婚約破棄を受け入れます

藍沢真啓/庚あき
BL
BLゲームの世界に転生してしまったキルシェ・セントリア公爵子息は、物語のクライマックスといえる断罪劇で逆転を狙うことにした。 それは長い時間をかけて、隠し攻略対象者や、婚約者だった第二王子ダグラスの兄であるアレクサンドリアを仲間にひきれることにした。 それでバッドエンドは逃れたはずだった。だが、キルシェに訪れたのは物語になかった展開で…… 4/2の春庭にて頒布する「悪役令息溺愛アンソロジー」の告知のために書き下ろした悪役令息ものです。

支配者に囚われる

藍沢真啓/庚あき
BL
大学で講師を勤める総は、長年飲んでいた強い抑制剤をやめ、初めて訪れたヒートを解消する為に、ヒートオメガ専用のデリヘルを利用する。 そこのキャストである龍蘭に次第に惹かれた総は、一年後のヒートの時、今回限りで契約を終了しようと彼に告げたが── ※オメガバースシリーズですが、こちらだけでも楽しめると思い

【完結】暁の騎士と宵闇の賢者

エウラ
BL
転生者であるセラータは宮廷魔導師団長を義父に持ち、自身もその副師団長を務めるほどの腕のいい魔導師。 幼馴染みの宮廷騎士団副団長に片想いをしている。 その幼馴染みに自分の見た目や噂のせいでどうやら嫌われているらしいと思っていたが・・・・・・。 ※竜人の番い設定は今回は緩いです。独占欲や嫉妬はありますが、番いが亡くなった場合でも狂ったりはしない設定です。 普通に女性もいる世界。様々な種族がいる。 魔法で子供が出来るので普通に同性婚可能。 名前は日本名と同じくファミリーネーム(苗字)・ファーストネーム(名前)の表記です。 ハッピーエンド確定です。 R18は*印付きます。そこまで行くのは後半だと思います。 ※番外編も終わり、完結しました。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

処理中です...