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番外編

罪科の足音2

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 翌朝の目覚めは最悪だった。頭がガンガンする。

「おはよぉ。昨日は、めちゃくちゃかわいかったね」

 にこにこと機嫌良さそうな美青年がちゅっとテッドの目元にキスをした。

「目元、泣きすぎて赤くなっちゃったね。がんばったもんねぇ」

 笑顔でのぞき込まれ、目元を擽るように優しく指先が触れる。

「……っ、この……っ」

 殴ろうと手を上げたが、笑いながらひょいと避けられてしまった。

「避けんじゃねぇ!!」
「初めてだったから、ちょっと身体痛いかもだけど、慣れたら大丈夫だからね。またしようねぇ?」
「二度とやるか! このクソ野郎!」

 真っ赤になりながらテッドが叫ぶと、美青年がけらけらと楽しそうに笑う。

「照れちゃって、かーわい」
「違う!」
「真っ赤。かわいー」

 反射的に殴ろうとして上げた手は軽々と受け止められた。そして手首を握られたままのぞき込まれて、きれいな顔が楽しげに笑うのが見える。どきりとして一瞬怯んだすきに、ちゅっとキスをされた。

「な……っ」
「あははは! 耳まで赤くなっちゃったね!」

 翻弄されているのに、腹立たしいような気もするのに、悪い気がしない。

「うるせぇ!!」

 理性をふりしぼって振り払いつつ立ち上がれば、ガクンと膝の力が抜ける。
 笑いながら抱き起こした美青年は、「私、君のこと、気に入っちゃったなぁ」と、弧を描いた目元をきらめかせた。


 その出会いからもう半年ほどが経っていた。
 二度とそのツラ見せんなと怒鳴りつつ、美青年の連絡先を受け取った。
 ラウールと名乗ったその青年は、テッドの行く先々に現れ、会う度にテッドを「かわいい」と甘やかした。
 それが屈辱ながらも、悪い気はせず、邪険にしきれない。
 その割りになかなか貢いでこないのは気に食わないが、かわいい、かわいいとひたすら気持ちよくされかわいがられ、愛される気持ちよさに、誘われれば、なんだかんだと自分に言い訳をしてラウールの元へと行ってしまう。そして抱かれてしまう。
 それまで知らなかった快感に、テッドははまっていた。
 認めようとはしなかったが、ラウールを思うだけで、尻の穴がきゅんきゅんと疼くほど、求めるようになっていた。

 このままじゃ、ヤバい。

 そう思ったのは、女に欲情しなくなってることに、ようやく気付いた時だ。
 女を抱きたいと、思わなくなっていた。

 それよりもラウールに優しく抱きしめられたい。耳元でかわいいと囁かれたい、ぞくぞく快感に震えながら、中を突き上げられたい。

 ……嘘だろ。そんなわけ、ない……。

 ひどい焦燥感に駆られ、テッドは手当たり次第女に声をかけた。
 勃たなかった。
 いつか言われた「下手」という言葉が、脳裏をチラチラとよぎる。そんなことはどうでもいい。相手を気持ちよくさせたいなどと思っていないと、何度も心の中で呟いた。

 次に男に声をかけた。その男は好みではなかったが、なんとか勃った。
 男を突き上げながら、テッドはラウールのことを思い出していた。
 ラウールなら、こんなふうに腰を突き上げてくる。ラウールなら……。
 抱いている男は、自分の代わりだった。自分を悦ばせている、そんな感覚だ。
 ラウールに抱かれている自分を思い浮かべれば、興奮できた。けれど、疼く尻は求める物を得られず、結局達することができないまま終わった。
 最中に思ったことは、尻への刺激が欲しいと、ラウールに突き上げられたいと、そればかりだった。

 それでも諦めきれず、数回相手を変え何度か抱こうとしたが、全て達することなく終わり、それ以降は誰かを犯したいという感情さえなくなった。

 抱かれたかった。ラウールに甘やかされながらあの快感に浸りたかった。
 抱かれなければ、満足できない身体になっていたのだと、ようやく気付いた。
 その事に怖気づいたが、ラウールとの関係をやめられない。入れてほしいと尻が疼くのだ。

 ラウールに抱かれながら、これじゃダメだと理性ばかりが抱かれる事への拒絶反応を示すが、身体は完全に陥落していた。

 なら、飽きるまでこの男に奉仕させてやればいい。
 ラウールは自分のことが好きでたまらないのだ。好きなだけ抱かせてやればいい。


 テッドが開き直った頃、「一緒に暮らそうか?」と言われて、しょうがないなと渋々を装ってラウールの部屋に転がり込んだ。

 なんだかんだとガードが堅かったラウールだが、家に転がり込めたのなら、後はどうとでもなる。
 と思ったが、結局、体の関係があるのみで、貴重品は探しても見つからないし、家賃も普通に取られてしまう。日中は日雇いの仕事でもしろと、斡旋までされた。
 金もないため、渋々働いている始末だ。
 そして、思ったようにいかないまま、毎日がすぎる。

 完全にラウールとの共同生活に慣れた頃、「たまには違うプレイをしようか?」と、ラウールが笑った。
 そのとき何の疑問も持たず、期待すらして「ああ、良いぜ」とテッドは頷いた。



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