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35 君がしあわせになれるよう、祈ってるよ1
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その日は非番のライオネルがデートがてらにクリスの買い物に付き合っていた。
下手にどこかへ連れて行って特別な日を過ごそうとすると、クリスは恐縮してしまいがちだ。しかし日常の生活にライオネルが共にいると、クリスの笑顔が格段に増えることに気付いたため、非番の過ごし方は、もっぱらクリスの付添人である。
クリスの日常に顔を突っ込むライオネルは、行く先々で「優しくて素敵な恋人ね」と言われたり、「金魚の糞か」「執着心が強すぎて怖い」と言われたり色々であるが、おおむね目論見通り虫除けの効果は発揮しているようで、ライオネルとしては満足している。
なんとでも言うが良い。クリスは私の恋人だ。
ライオネルの顔は広い。クリスの行動範囲内でライオネルとの関係が知られていることが、クリスを守ることになる。ここは安全な場所のはずだった。
だから、それはちょっとした隙だった。
迷子を見つけてしまい、ライオネルが子供を連れて親を探しに行ったのだ。クリスは待っているようにと言われたベンチで、荷物と共に留守番をしている。
ライオネルを怖がっていた子供は、肩車の高さに大喜びして、声を張り上げて母親を探し中だ。顔が見えなければ怖くないらしい。喜べばいいのか悲しめばいいのか、悩ましいところである。
クリスがそれを遠目に見ていると、目の前に誰かが立ち止まった。
「よお」
最初、クリスは自分に声をかけられたとは気付かず、ライオネルを目で追いかけていたが、「おい!」と目の前で怒鳴られ、ようやくそちらへ目を向けた。
一瞬誰かわからなかったが、「相変わらずどんくさいヤツだな」と小馬鹿にした声に、ようやくそれが前の恋人だったことに気付いた。
何か言おうとしたクリスだったが、その前に元恋人がにんまりとした笑みを浮かべて言った。
「なんだ、良い服着てんじゃねぇか。前より良い仕事を見つけたのか? また、抱いてやろうか? またかわいがってやっても良いぜ」
思いがけない言葉にクリスは固まる。
再会したことにも驚いたというのに、思いもよらない言葉までかけられたのだ。
何も言えなくなったクリスに、元恋人は、これで今日の寝る場所ができたと、内心笑う。クリスは適当に持ち上げてやれば、簡単に言いなりになる便利な存在だった。ほんの少し笑って、かわいいなと言ってやればいい。バカにしても気付かないような頭の弱さは煩わしいが、相手の気分を持ち上げるために気を遣わなくていいぶん楽でもある。
前の女と手を切ってから、そろそろ金も尽きてきた。本当に俺は運が良い、と元恋人は笑った。
しかし、なんでも言うことを聞いていたはずのクリスは苦笑して首をかしげた。
「あ、あのね、僕はもう、君がいなくても大丈夫だよ。だから無理に付き合ってくれなくても、大丈夫だよ」
以前ほどおどおどした様子がなく、むしろ宥めるような様子に、カッと血の気が昇る。
「はぁ?! てめ……なに言ってんだよ! 俺が抱いてやると言ってるんだぞ?! その身体に男を教えてやったのは、俺だろうが!」
怒鳴りつける声が、広場に響いた。
周りにいた人たちが、ポツポツと足を止めてクリス達の方に目をやる。
クリスは元恋人の言葉にハッとして立ち上がった。
「なんだよ、事実だろ? 男を咥えないといけないようにしてやったのは俺だろうが! てめぇは俺の言うとおりにしてれば良いんだよ!」
威圧してくる元恋人の言葉に、クリスは苦しげにきゅっと眉を顰めた。
下手にどこかへ連れて行って特別な日を過ごそうとすると、クリスは恐縮してしまいがちだ。しかし日常の生活にライオネルが共にいると、クリスの笑顔が格段に増えることに気付いたため、非番の過ごし方は、もっぱらクリスの付添人である。
クリスの日常に顔を突っ込むライオネルは、行く先々で「優しくて素敵な恋人ね」と言われたり、「金魚の糞か」「執着心が強すぎて怖い」と言われたり色々であるが、おおむね目論見通り虫除けの効果は発揮しているようで、ライオネルとしては満足している。
なんとでも言うが良い。クリスは私の恋人だ。
ライオネルの顔は広い。クリスの行動範囲内でライオネルとの関係が知られていることが、クリスを守ることになる。ここは安全な場所のはずだった。
だから、それはちょっとした隙だった。
迷子を見つけてしまい、ライオネルが子供を連れて親を探しに行ったのだ。クリスは待っているようにと言われたベンチで、荷物と共に留守番をしている。
ライオネルを怖がっていた子供は、肩車の高さに大喜びして、声を張り上げて母親を探し中だ。顔が見えなければ怖くないらしい。喜べばいいのか悲しめばいいのか、悩ましいところである。
クリスがそれを遠目に見ていると、目の前に誰かが立ち止まった。
「よお」
最初、クリスは自分に声をかけられたとは気付かず、ライオネルを目で追いかけていたが、「おい!」と目の前で怒鳴られ、ようやくそちらへ目を向けた。
一瞬誰かわからなかったが、「相変わらずどんくさいヤツだな」と小馬鹿にした声に、ようやくそれが前の恋人だったことに気付いた。
何か言おうとしたクリスだったが、その前に元恋人がにんまりとした笑みを浮かべて言った。
「なんだ、良い服着てんじゃねぇか。前より良い仕事を見つけたのか? また、抱いてやろうか? またかわいがってやっても良いぜ」
思いがけない言葉にクリスは固まる。
再会したことにも驚いたというのに、思いもよらない言葉までかけられたのだ。
何も言えなくなったクリスに、元恋人は、これで今日の寝る場所ができたと、内心笑う。クリスは適当に持ち上げてやれば、簡単に言いなりになる便利な存在だった。ほんの少し笑って、かわいいなと言ってやればいい。バカにしても気付かないような頭の弱さは煩わしいが、相手の気分を持ち上げるために気を遣わなくていいぶん楽でもある。
前の女と手を切ってから、そろそろ金も尽きてきた。本当に俺は運が良い、と元恋人は笑った。
しかし、なんでも言うことを聞いていたはずのクリスは苦笑して首をかしげた。
「あ、あのね、僕はもう、君がいなくても大丈夫だよ。だから無理に付き合ってくれなくても、大丈夫だよ」
以前ほどおどおどした様子がなく、むしろ宥めるような様子に、カッと血の気が昇る。
「はぁ?! てめ……なに言ってんだよ! 俺が抱いてやると言ってるんだぞ?! その身体に男を教えてやったのは、俺だろうが!」
怒鳴りつける声が、広場に響いた。
周りにいた人たちが、ポツポツと足を止めてクリス達の方に目をやる。
クリスは元恋人の言葉にハッとして立ち上がった。
「なんだよ、事実だろ? 男を咥えないといけないようにしてやったのは俺だろうが! てめぇは俺の言うとおりにしてれば良いんだよ!」
威圧してくる元恋人の言葉に、クリスは苦しげにきゅっと眉を顰めた。
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