恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか

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29 なんで、僕が、気持ちいいの……?

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 まって、まって。

 そのとき、クリスは動揺していた。
 どういうことだろう。エッチが、気持ちいい。
 意味がわからなかった。セックスとは、女役が耐えて相手を気持ちよくしてあげるための行為ではなかったのか。

 どうして、僕が気持ちいいの?

 クリスは前の恋人とセックスをするのがずっと苦痛だった。痛くて辛くて、早く終わって欲しいと願いながら耐える物だった。
 だからクリスは今、自分に何が起きているのかわからなかった。
 ライオネルから触られるだけでぞくぞくする。くすぐったいけど、気持ちいい。ずっと触っていてほしい。そんな気持ちになっている自分に、クリスは混乱していた。

 クリスの知っているセックスではこんなことをしなかった。前の恋人のために後ろを自分でほぐして、潤滑油を入れておくこと。それに彼が突っ込むのだ。前の恋人はクリスにに触れたりなんてしなかった。

「な、なんで、僕が、気持ちいいの……?」

 泣きそうになる。

 だって、これじゃ、ライオネル様が気持ちよくなれない。

 クリスは必死に首を横に振りながら、こんなのダメだと訴える。

「おねがっ、いれてっ、ライオネルさま、僕にいれて、きもちよくなって……っ」

 ライオネルから、グッという喉を詰まらせる吐息が漏れた。
 恋人になったのだから抱いてくださいとねだったのはクリスだ。恋人は抱かれる物だと教わったから。そうすればきもちいいと喜んでくれるはずだから。
 少し躊躇うライオネルに、何度もお願いをした。きっとクリスの身体を気遣ってくれているのだと思ったから、気にしなくていいから、と。
 ライオネルが気持ちよくなるために、この身体を使って欲しかった。ライオネルを、喜ばせたかったのだ。

 なのに、ずっとライオネルがクリスに触れているのだ。しかもそれが、とても幸せで、とても気持ちよくて、何も考えられなくなってしまう。
 これでは喜ばせてあげられない。クリスはどうして良いか分からず、必死に「入れて」と懇願した。
 ライオネルから触れられるどこもかしこもきもちよくて、もっともっととねだりたくなる。身体が勝手に跳ねる。だけど、それがきもちいい。ぞわぞわするのに、逃げたくない。しがみついて甘えたくなる。

「おねが、いっ、入れて……っ」

 抱え上げられた太腿の内側にキスをするライオネルに、クリスは縋るように両手を伸ばした。
 潤んだ目元と上気した頬は扇情的で、なのに幼気いたいけな様子は、ライオネルの中の愛おしさをかき立てる。
 目元に唇を寄せれば、クリスの閉じた瞼から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。

「ダメだ、クリスがもっともっと気持ちよくなってからだ」
「なん、でぇ……、だって、僕ばっかり、きもちいいの、いやだよぉ……」
「すまない、……大切に、したいんだ」

 慰めるように触れるだけのキスが落とされる。ちゅ、ちゅ、と繰り返されるキスに、クリスはだだをこねるように首を振って、それからライオネルの首にしがみついた。
 コツンと額が触れ合う。

「私は、クリスが気持ちよくなっているのを、見たい……」
「でも、でもぉ……っ、ひぁっ、あっ、あぁっ、それっ、だめな、のにぃ……っ」

 脇腹をなぞられて、身体が跳ねた。くすぐったいのに、くすぐったいだけじゃない。ぞわぞわして、ぞくぞくして、もっともっと撫でられたい。気持ちいい。
 その間も、頬に、耳に、首筋に、触れるだけのキスが繰り返されて、クリスは吐息のような悲鳴を上げ続ける。
 たくさん触れられて、気持ちよくて、身体をよじらすクリスに、ライオネルが耳元で囁く。

「かわいい。クリス、もっと声を聞かせてくれ」
「やっ、あっ、あっ、でもっ……やぁ……、らいおねるさまっ、ひぁんっ」

 その声が、耳を擽る吐息が、ぞくぞくと身体を震わせて、そして触れる指先の刺激に、ビクビクと跳ねらせた。


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