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15 どっちが良い

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「君が厚意で家事をしてくれるというのなら、それも良いかとは思った。私も君から家賃を取りたいとは思わないから一緒だな。だが、君はそれが一緒だとわかっていないようだから、給料は必ず渡す。代わりに家賃も受け取ろう。……君は、搾取されることに慣れすぎているようだ。自分のやったことの価値がどれだけの物か知った方が良い」

 言っていることの半分ぐらいしかよくわからなかったクリスだが、とりあえず、騎士なりの理由があることだけはわかった。

「……でも」

 あまりにも都合がよすぎて、不安で、クリスは心許なさを覚える。怖くて泣きそうだ。

「もし君が、どうしても給料を受け取らないと言い張るのであれば……私は家賃は受け取らないし、家事のお礼に、小遣いを渡す」
「……お小遣い」
「給料と、どっちが良い」

 言われている意味が全くわからず、けれどどちらかを選べと言われると、なんとなく響きで「お、お給料で……」と答えてしまった。
 満足そうに笑った騎士が何故か得意そうな顔をしていて、クリスも思わずつられて笑ってしまった。
 騎士がそんなクリスの頭を撫でる。

「君には、おかしいことを、おかしいと判断できるようになってもらわないと、心配で一人にできないな……」

 そう言って苦笑した騎士の言葉に、クリスはハッとする。

 そうだ、いつまでも、ここで暮らしていくわけにはいかないんだ……。

 なだったら、あんまり迷惑をかけないよう、騎士の言っていることがはやくわかるようになるべきだ。
 クリスの中にあった不安がゆっくりと収まってくる。
 正直なところ、クリスには、騎士の言ってる理屈が理解出来ない。こんなに自分に都合がよすぎる状況に、お金を払わなくて良いだなんて、おかしすぎると思うのだ。
 けれど、それをおかしいと、騎士が言う。

 きっとクリスには「普通」がよくわかっていない。常識が足りていないのは、自分でも自覚している。それが、いけないのだ。
 きっと、きちんと理解しないといけない。
 もし自分が変わらなければ、騎士は心配してこの家にいさせてくれるのだろう。
 それはとても魅惑的に思えたが、騎士に迷惑をかけることだと自分を戒める。
 クリスは騎士が心配せずにすむぐらい、騎士の考える「普通」を覚えなければいけない。そうして一人で暮らせるようになるべきなのだ。

 ひとまず、騎士の言葉通りにしておこうと、クリスは覚悟を決めた。もらいすぎた分は、ひとまずこの家を出る時の資金にさせてもらって、後から返していこうと思った。

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