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13 体はつらくないか?

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 騎士は帰ってくるなり、ただいまの言葉もそこそこに、良い匂いをかいで、笑顔になった。

「クリス、もしかして、食事を作ってくれたのか? いい匂いだ。これはありがたいな。外へ出なくてもすむ」

 うまくできているか不安を抱いていたクリスは、騎士から驚かれ、あまつさえ感謝されたことに驚いた。

「掃除もしてくれたのか? こんなに綺麗になっていると、うれしい物だな。身体も治ってないのに、大変だっただろう」

 食事が楽しみだといそいそと着替えている間にも、騎士はそこかしこが掃除や整頓されていることに気付いて、クリスを褒めた。

「こんなところまで。ずいぶん頑張ってくれたな、ありがとう。……体はつらくないか?」
「大丈夫です!」

 クリスは慌てて首をふる。
 騎士はクリスの頑張った跡に気付く度にうれしそうにして、その都度感謝してくれる。そしてクリスをすごいと褒めてくれる。信じられないほど幸せだった。
 ちょっとできてないところがあっても騎士なら許してくれるだろうとは思っていた。

 でも、まさか、褒められるだなんて。

 うれしくて嬉しくて、ふわふわと夢見心地のクリスに、騎士が提案した。

「君さえかまわなければ、このままうちの家事を住み込みでやってくれないか?」
「いいん、ですか」
「私が頼んでいるんだ。まだ君は身体が万全ではないし、それまでは、君がしんどくない程度にして欲しいが」

 クリスはその言葉に飛びついた。それなら子供の頃、親戚の家にいた頃と一緒だから大丈夫だ。
 けれど、ふと不安になる。あの頃に「ただ飯ぐらいが」と怒られていたことを思いだしたせいだ。
 住まわせてくれる分のお金を渡さないと、と気付き「じゃあ、まずは仕事探しですね!」と、騎士に笑顔で言った。自分は騎士にとって迷惑にならないのだという精一杯のアピールだ。
 うれしくて、浮かれていた。ここにいたいとうまく伝えることのできないクリスの、ささやかな自己主張だった。
 クリスは、この優しい人と一緒にいたかったのだ。

 ところが、驚いたのは騎士だ。
 家事を頼んだのは、クリスに「この家にいる理由」を与えるためだった。頼まれたのなら、遠慮して家から出て行くようなことにならないだろうとふんだのだ。
 それが何故、仕事探しになるのだ。
 クリスの自己評価の低さは、騎士の考える更に斜め下方向に修正する必要があるようだ。
 騎士はクリスになにかを求めるつもりはなかった。ほんとうは家事も今まで通り外注すれば良いことで、クリスにはゆっくりと体と心を休めて欲しかった。けれど、ただ家でゆっくりしろと言うのは気に病むだろうと、家賃の代わりに家事をお願いしたつもりだったのだ。

 騎士は困惑していた。だが、それを見たクリスもまた、泣きそうになっていた。

「このおうちでしたら、家賃はどのくらいでしょう……」

 なぜ、家賃――……。

 二人の溝は深かった。


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