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後日談
番外編5 ある老人の話1
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その二人連れはなんとも物珍しい組み合わせであった。
立ち話をしていた彼女はふと目を引かれて、隣の友人に話しかけた。
「……ねえ、あの異国の人、この前、桜の道をたずねてきた人じゃない?」
視線の先にいるのは、談笑しながら歩く二人の老人だ。
人目を引いているのは、片方が西国人というのもあるし、老人だというのに二人とも随分と大柄なせいもあるだろう。それだけでも珍しいのに、それぞれになんとも言えぬ風格があり、一角の人物であろうといった風情があるのだ。自然と目が引き寄せられた。
老人というには若々しさのある西国の洒落た装いの紳士と、東国の者にしては随分と大柄な白髪の老人……そんな目を引く二人が親しげに談笑する様は、舞台の一場面でも見ているかのようだ。
以前、西国の紳士から老人のいる桜の木をたずねられたとき、ちょうど一緒にいた友人達が今日も集まっていた。
「……隣、桜のおじいちゃんよね?」
「そうそう、あの後思い出したの、一条のおじいちゃん」
「そうだ、一条さん」
彼らが近くまで来たところで目が合い、彼女は「こんにちは」と挨拶をする。
すると一条は、にこりと目元を緩め「ああ、こんにちは」と返してくる。時折顔を見かけては挨拶をするため、向こうも見知った様子で、いつも通りの笑顔だ。どちらかというと厳しい顔立ちの老人だが、声をかければいつでも目元を柔らかくして返事をしてくれる、意外に気さくな老人なのだ。時折ひとことふたこと世間話をすることもあり、その厳しい顔立ちに気後れすることはない。
もう七十も超えているというのに、いまだその顔立ちからも体躯からも威厳を感じる。が、やはり子供の頃から見慣れた彼女たちからしてみれば、必ず笑顔で挨拶をしてくれる優しいおじいさんという印象しかない。
なんとたずねようかと、彼女たちがチラチラと二人を交互に見ていれば、隣の西国紳士がにこりと笑った。
「もしかして君たちは、いつだったか道を教えてくれたお嬢さん達じゃないかな?」
あの時はありがとうと、にっこりと笑う西国の紳士に、彼女たちは、「いえ」「あの」と、恥じらいながら挨拶をする。
そわそわと気になった様子で、彼女たちの一人が二人の老人をうかがいながらたずねた。
「あの、あの時は一条のおじいちゃんに、会いに行かれてたんですか?」
「ああ、そうだよ」
にこりと笑う西国紳士に、彼女たちはきょとりとした。
「……もしかして、一条のおじいちゃんが待ってたのって、あなただったり……?」
でも、恋人を待っているのではなかったのか。いやしかし、一条はこの町の名士だったというし、知人がたずねてくることはよくあるだろう。しかし、桜と一条というと、やはり……。
という戸惑いの元、まさかと思いつつたずねた一人に、返されたのは楽しげな笑みだ。
これは肯定だろうか。
顔を見合わせた彼女たちに、紳士と老人もまた顔を見合わせて楽しげに笑っていた。
「……ええ?! 恋人じゃなかったんですか?!」
一人が声を上げた。
「おや? 俺はそんなことを言ったかな?」
老人が楽しげに揶揄うように彼女たちを見る。
「え? どうだった?」
互いに顔を見合わせながら、彼女たちは記憶を探った。言っていたような気もするし、大切な人だとか、約束した人だとか、そんな言葉を、勝手に解釈したような気もする。
顔を見合わせる彼女たちの様子に、西国の紳士が楽しげに声を上げて笑った。
「残念だ! お嬢さん達、どうやら私は、彼の恋人ではなかったらしい!」
西国の紳士は大げさな身振りで嘆いてみせたあと、クスクスと笑う様子は実に楽しげで、隣の老人を揶揄うように見る。老人はというと、その厳めしい顔にカラリとした楽しげな笑みを浮かべて「さぁて、どうだろうな」と、彼女たちをからかうように見た。
立ち話をしていた彼女はふと目を引かれて、隣の友人に話しかけた。
「……ねえ、あの異国の人、この前、桜の道をたずねてきた人じゃない?」
視線の先にいるのは、談笑しながら歩く二人の老人だ。
人目を引いているのは、片方が西国人というのもあるし、老人だというのに二人とも随分と大柄なせいもあるだろう。それだけでも珍しいのに、それぞれになんとも言えぬ風格があり、一角の人物であろうといった風情があるのだ。自然と目が引き寄せられた。
老人というには若々しさのある西国の洒落た装いの紳士と、東国の者にしては随分と大柄な白髪の老人……そんな目を引く二人が親しげに談笑する様は、舞台の一場面でも見ているかのようだ。
以前、西国の紳士から老人のいる桜の木をたずねられたとき、ちょうど一緒にいた友人達が今日も集まっていた。
「……隣、桜のおじいちゃんよね?」
「そうそう、あの後思い出したの、一条のおじいちゃん」
「そうだ、一条さん」
彼らが近くまで来たところで目が合い、彼女は「こんにちは」と挨拶をする。
すると一条は、にこりと目元を緩め「ああ、こんにちは」と返してくる。時折顔を見かけては挨拶をするため、向こうも見知った様子で、いつも通りの笑顔だ。どちらかというと厳しい顔立ちの老人だが、声をかければいつでも目元を柔らかくして返事をしてくれる、意外に気さくな老人なのだ。時折ひとことふたこと世間話をすることもあり、その厳しい顔立ちに気後れすることはない。
もう七十も超えているというのに、いまだその顔立ちからも体躯からも威厳を感じる。が、やはり子供の頃から見慣れた彼女たちからしてみれば、必ず笑顔で挨拶をしてくれる優しいおじいさんという印象しかない。
なんとたずねようかと、彼女たちがチラチラと二人を交互に見ていれば、隣の西国紳士がにこりと笑った。
「もしかして君たちは、いつだったか道を教えてくれたお嬢さん達じゃないかな?」
あの時はありがとうと、にっこりと笑う西国の紳士に、彼女たちは、「いえ」「あの」と、恥じらいながら挨拶をする。
そわそわと気になった様子で、彼女たちの一人が二人の老人をうかがいながらたずねた。
「あの、あの時は一条のおじいちゃんに、会いに行かれてたんですか?」
「ああ、そうだよ」
にこりと笑う西国紳士に、彼女たちはきょとりとした。
「……もしかして、一条のおじいちゃんが待ってたのって、あなただったり……?」
でも、恋人を待っているのではなかったのか。いやしかし、一条はこの町の名士だったというし、知人がたずねてくることはよくあるだろう。しかし、桜と一条というと、やはり……。
という戸惑いの元、まさかと思いつつたずねた一人に、返されたのは楽しげな笑みだ。
これは肯定だろうか。
顔を見合わせた彼女たちに、紳士と老人もまた顔を見合わせて楽しげに笑っていた。
「……ええ?! 恋人じゃなかったんですか?!」
一人が声を上げた。
「おや? 俺はそんなことを言ったかな?」
老人が楽しげに揶揄うように彼女たちを見る。
「え? どうだった?」
互いに顔を見合わせながら、彼女たちは記憶を探った。言っていたような気もするし、大切な人だとか、約束した人だとか、そんな言葉を、勝手に解釈したような気もする。
顔を見合わせる彼女たちの様子に、西国の紳士が楽しげに声を上げて笑った。
「残念だ! お嬢さん達、どうやら私は、彼の恋人ではなかったらしい!」
西国の紳士は大げさな身振りで嘆いてみせたあと、クスクスと笑う様子は実に楽しげで、隣の老人を揶揄うように見る。老人はというと、その厳めしい顔にカラリとした楽しげな笑みを浮かべて「さぁて、どうだろうな」と、彼女たちをからかうように見た。
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