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後日談
番外編3 セラピーお姉さんはカプ推し4
しおりを挟むそれからもレンのことは、ずっと気にかけていた。
会うことは二度とない人だ。会うつもりもなければ、会いたいとも思わない。
けれど、彼の存在はずっと私の心の片隅にいて、フォンタナ商会関連の話には、つい耳を傾ける。
だから、その小さな新聞記事に気付いたのも、当然だった。
そこには、引退したレンの東国行きが書かれてあった。
ああ……、レン。
それを見つけた瞬間、涙が溢れた。
レン、あなたはマーシャを忘れてなかったのね。
彼は、十年以上も前に願っていたそれを、叶えたのだ。それがわかった。
……やっと、やっと、東国に行けるのね。
あれから十数年が経つ。出会った頃には、レンは既に十数年マーシャを想っていた。
数えれば、優に三十年が経っているということだ。
なのに、彼はマーシャを忘れていなかったのだ。
私はその記事を読んで確信した。
東国で隠居して暮らすのだと語ったという彼の記事には、彼が東国で、今度は何を成すのかと締めくくられていた。
何を成すかですって? そんなの決まってる。私には分かる。だって私は、誰よりもレンの心を知っている。彼の想いを知っている。忘れたくても忘れられずに苦しんだ彼を知っている。私に人を愛するということを教えてくれた、レアンドロの心を知っている。
あれはそんなに簡単に消える想いじゃなかった。これだけの年月が過ぎても、忘れるはずがないと信じてしまうほどに強い物だった。
彼は「東国に帰った」のだ。戻りたい場所へと帰ったのだ。ただ愛する人の側にいたくて、だから東国に帰るのだ。
やっとマーシャに会いに行けるのね。やっとレンは願いを叶えたのね。
新聞を握りしめて、ぼろぼろと泣き出した私に、十五年以上支え合ってきた夫が心配そうに声をかけてきた。
「どうしたんだ?」
愛する夫の心配そうな顔を見つめて、私は笑う。溢れる涙をぬぐって「嬉しいの」と呟いた。
「とても、嬉しいの。私にとって、最高の知らせがあったのよ。……そうだわ、お祝いをするわよ! ケーキを買うわ! ごちそうも作るわ! あんたも一緒に祝ってくれるわよね?」
よくわからない様子の夫が、「君がそう言うのなら、喜んで?」と、首をかしげるのを見て笑う。
そうよ、あんたも祝うのよ。あんたは私と今こうしていられて、幸せでしょう? 全部、レンのおかげなんだから。
きょとんとしたままの夫に笑いながらハグをする。
レン、おめでとう、レン。ずっと憧れだった人。私に人の愛し方を教えてくれた人。
ねえ、レン、私、あれからしあわせになったのよ。あなたのおかげよ。
ねえ、だから、レン。私はずっとずっと、あなたの幸せを祈っているわ。
ねえ、レン。私、信じてるの。マーシャもきっとレンを待ってるわ。だって、レンがあんなにも愛した人だもの。待ってないわけないじゃない。
待ってなかったら、許さないんだから。
……だから、どうか二人が再会できますように。
赤い目のまま、夫と手を繋いでお祝いのケーキを買いに街に出る。晴れ渡った青空に、レンの行く末が暗示されているように思えた。
きっと大丈夫。レンはマーシャに会えるに決まっている。
だからレンの出航に夫と乾杯をするの。おめでとうって。
レアンドロ、私に幸せな人生の道を示してくれた人。私の人生を救ってくれた人。
どうか、しあわせになってね。
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