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後日談

番外編1 男の独白1

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 俺はあのとき、お前より一回り半も年上で、惚れたはれたはある程度経験していた。周りの同年代の奴らはとっくに結婚して、その子供は成人する年齢だ。それを見た上で、自分には向いていないと、生涯独り身と諦めていた。

 ……だからお前に会った時、未だ心が浮き立つ思いをしたことに、ひどく驚いた。
 美しい異国の女が密かに見せた、意思の強い目が、忘れられなかった。まさかの男だったが、それさえどうでもいいというほど、俺は溺れきっていた。
 旅券を偽装し、性別を変えねばならぬような立場で、相当する者から、身元を洗い出すのはそう難しいことではなかった。
 自分の元で囲う事を許されない人間だと知って、良かったと思うほど、溺れていた。
 囲われて満足するような人間ではない。手放さねばならぬのなら、俺はお前を潰さずにすむ。

 必死に生き抜く姿は可愛らしくも美しく、目が離せなかった。
 最後の恋だ。失うものとわかっていて、それに殉じることを覚悟した。だがおまえは若かった。お前までこんな俺に殉じることはない。広く世界を見るといい。俺になどこだわるな。真面目なお前は、約束をしてしまえば守ろうと心を殺すだろう。忘れてくれ。お前の幸せこそが俺の望みだ。そして恋など一つではないと知るといい。

 だが、願ってもいいだろうか。もし、もしも、でいい。お前が俺とのひとときを心の片隅に良い思い出として残してくれるというのなら、いつか、一目、会えることを。お前が懐かしんで、訪れることを……。

 殉じる俺の心は秘めておく。お前が若さを懐かしんで、世話になったと、一言、伝えにきてくれる、その日を願って、生きていこう。
 勝手に餞別にと奪った口付けは、お前を怒らせてしまったが。そのくらいは許してくれと、苦笑した。
 そうして、必ず戻ってくると言った、約束の桜の木に、いつかの願いを託し、それを拠り所に飽きもせず通う。
 来ないだろういつかを夢見るのは、悪くなかった。


 なのに、三十年を過ぎて、ルカは現れた。
 残りの時間を俺と共に生きるために帰ってきた。
 俺が果たされることはないと思っていた約束を、ルカは守ったのだ。
 たった十九だった青年が、あの青い想いを守り続けたのか。それはどれほどルカを苦しめただろう。そんな思いをさせたくなかったからこそ突き放したというのに、あえて俺と同じ道を選び続けたルカの思いの深さに震えた。
 それは、奇跡と言って相違なかった。

 出会った頃から、ルカの存在は、俺にとって奇跡そのものだった。
 美しく凛とした、奇跡だった。
 だというのに、異国の紳士然とした大人になったルカは、苦しげに懺悔をした。

「もっと、早く来ればよかった」

 ルカはそう言って、苦しげに喉をつまらせた。


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