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3章
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しおりを挟む正臣の話だとすると、辻褄が合ったのだ。
彼が革命政府の中枢にいたというのなら、軍人でありながら革命軍に汲みした諜報的な活動をしていたのではないのだろうか。だから外国を刺激しないよう、西国人にも気を配っていたのだ。おおっぴらには助けられぬ西国の関係者達を、ひそかに保護していたのだろう。ルカがそうして手を貸してもらっていたように。
だとしたら、あんなに堂々とルカを口説いていたら駄目だっただろうに。そう思うとおかしくてルカの頬が緩む。
共にいられるのはひとときのことと彼はわかっていた。わかっていた限られた時間の中で、できる限りの情を注いでいてくれたのだ。こんな些細なところで、彼の想いを実感する。
いつだったか、彼は「レアンドロ」と、ルカのファーストネームを呼んだ事がある。きっとあれも気のせいではなかったのだろう。だとしたらやはりルカの正体を知っていたと考えるべきだ。
それは、引き留めてくれないはずだ。ルカは絶対にこの国から逃しておきたい人物に名を連ねていただろうから。
彼女たちの話を聞きながら、過去に思いをはせる。
正臣の話だとしたら、ルカがこの地を去ってからも、彼らしい実直さでもって貢献してきたのだとわかる。
彼がどう生きたのかに思いをはせて、一瞬急く気持ちを忘れていた。それがまだ、正臣の事かどうかの確信には至っていなかったせいかもしれない。
微笑ましく聞いていたが、その後の言葉に、ルカは表情を強ばらせることになる。
「あのおじいちゃんがどうして桜の木に通っているかが素敵なんです」
ルカに聞かせながらも、少し雑談じみた会話が続いていた。
「素敵、ですか?」
「そうなんですよ。昔、その桜の下で再会を誓った恋人がいらっしゃるとか」
「この年になっても待ってるとか、ロマンティックよね」
楽しげに話す彼女たちの言葉に、ルカは息をのんだ。
忘れていた焦燥感が、再び込み上げた。
もしやとは思っていたが、決定的な言葉を前に、言葉を失った。
誓ってはいない。だが、他の情報とあわせて考えるのならば、可能性は高い。
その老人は、やはり正臣さんかもしれない。正臣さんだったら……。
ルカは歯を食いしばった。
心臓がつかまれたような息苦しい衝撃に立ち直れないでいると、彼女たちの会話が、追い打ちをかける。
「そうでしょう!? あのちょっと無骨なおじさまが、ずっと一人を想い続けるって、すっごくロマンティックって……!!」
きゃあきゃあと頬を染めて楽しそうに話す彼女たちの言葉に、ルカはぞっと肝が冷えていくのを感じた。
彼女たちからすれば、純粋な恋の話なのだろう。それを責めるのはお門違いだ。
けれど、ルカは感情が冷え込んでいくのを感じていた。
「ちょうど今頃の時間、いらっしゃることが多いですよ」
ルカは叫びたくなるほどの怒りを堪えながら、彼女たちに礼を言って別れた。
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