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3章
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しおりを挟む前に進むための、言い訳じみた感情なのかもしれない。思い込みに類似したそれを愛情と本当にいえるのか、ルカには判断が付かない。
それでも、あなたに会いたいという言い訳じみた危うい感情にしがみついて、必死に前に進むしかなかった。
正臣に会いに行くと再び決意してからのこの十年ほどの年月、ルカにはその執着じみた感情が必要だった。これは愛だとラベルを貼って、彼を想わなければ、生きてゆけなかった。
生きていくために、必要だった。
前に進むには、なにか支えがないと潰れてしまう。目的のない人生は、酷く虚しい。東国との貿易安定も、商会での仕事も、ルカの目的や生きがいにはなり得なかった。それらは全て、正臣に会うために必要だったからこそ望んだ物だ。それ以上の存在にならなかったのだ。
正臣に会うこと、それがルカの進む意味だ。為すべき事を成し続けなければ、正臣に繋がらない。進み続ければいつか正臣の元に戻れる。そう信じることで、ここまできた。
逃げ道なのか、愛情なのか、それすらもあやふやな感情に依存して、ルカは進み続けた。東国の地を、再びこの足でふむため。正臣の元に戻るため。
もう三十年以上が過ぎているのに。忘れられていても、仕方がないほど年月が経ったというのに。
けれど未だ正臣を思うだけで、ルカの胸は軋む。正臣を思うだけでルカは前を見据えることができる。正臣が「おかえり」と笑顔を浮かべる姿を想像しただけで、幸せになれる。
この感情がなんであろうとかまう物かと思う。正臣という存在は、ルカが潰れずに歩み続けるための、道しるべであり続けた。
年齢を重ねるごとに、感情も緩慢になる。激しい感情に揺さぶられることは減った。けれど、じんわりと確かな感情を噛みしめることができるようになった。
もはや、この感情がなんであってもかまわなかった。名前をどうつけようと、変わらない気持ちが一つあればいい。
どうか幸せであれと願う。私が会いに行くまで、どうかあなたは幸せであって欲しいと。
それだけでいい。その気持ちだけは何よりも確かなのだから。
あなたは私の幸せを願ってくれた。それはあなたの愛だった。もし、人の幸せを願うのが愛ならば、私は、あなたを想うこの気持ちに、「愛」というラベルを貼り付けたままでも、いいだろうか。
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