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3章

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 心を決めたのなら、これ以上彼女と友人関係を続けるのは好ましいことではなかった。
 今のルカと彼女の距離は恋人とまではいかないまでも、友人以上の距離感となっていた。
 互いに、ずっと忘れられない人がいることは知った上での付き合いだ。それでもと思っていたが、やはり忘れられないことを告げ、彼女の時間を奪ってしまったことを謝罪した。

「期待はしておりましたが、そう言われる覚悟も、同時にしておりました」

 悲しげに彼女は笑って、ルカの謝罪を受け入れた。素晴らしい女性だった。だからこそ長く縛り付ける前に別れができてよかったのだと、己に言い訳をした。彼女は友人の距離からも離れていって、更に一年を過ぎた頃、噂に結婚をしたと聞いた。幸せになることを、心から祈った。

 それからは、再び精力的に仕事に打ち込んだ。前ほどの悲壮感はない。ただ、できることを確実にやっていくことにした。
 それからもルカが東国に入国するのは、限りなく難しい状況だった。旧軍部の制圧は終わった物の、国境の情勢が悪く、戦争は回避された物の、国交の回復がうまくいっていなかった。そのため他国の干渉を未だ警戒しており、西国のフォンタナ商会の中枢にいるルカもまた、その対象のままだ。

 東国のフォンタナ商会は、相変わらず東国において大きな勢力を誇っている。東国の貿易が縮小されているため、積極的にその流通を支える商会を、東国は制御しきれないのだ。それゆえ、せめて人間の往来は抑えておきたいのだろう。
 フォンタナ商会の存在は、国からの干渉に匹敵すると判断されているのだ。いち早く蒸気船を導入し、物資運搬の物量と早さは他にない。そのため代替だいたい業者を参入させられない以上、東国でのフォンタナ商会の力は削ぐことはできない。

 実際これだけ拒絶されていても、国内安定のために、貿易は拒絶できていないのだ。おそらく圧力をかければ、無理にでも国を動かし入国することはできるだろうが、そもそも正臣と会いたいルカからすると、目を付けられるようなやり方は正臣の迷惑になりかねず、ただの悪手だ。

 その頃には父母との手紙も、もう百通を優に超えていた。
 年老いて直接商会に関わることの減った二人は西国への帰国は可能になっていた。しかし、もう戻る気がないらしい。
 ルカが東国を出た頃と違い、最新の蒸気船が運航している今ならば、ひと月もあれば帰国できる。それでも、老いた身体には充分厳しい。何より、二人とも東国の地に骨を埋める覚悟ができているのだ。一目会いたいと思う気持ちはあるが、もしかしたら、会えないままとなるかもしれない。

 それでも東国内は安定しているという報告は入っている。隣国とは色々残っているとはいえ、貿易自体も、安定して行われている。あと数年もすれば今ほど拒絶されるほどではなくなるだろう。
 当分は入国するだけで大変な手続きが必要となるのは間違いないだろうが。

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