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3章
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しおりを挟む一途に想い続けていた十三年を思う。制約がなかったからこそ出来たのだろうと、今なら思えた。彼が待たないと言ったから、会いに行けない自分を許すことが出来た。待たないと言った彼を見返す気持ちにとらわれて、彼の心に不安を抱く余裕すら持たずにすんだ。
あれは、彼から与えられた、免罪符だった。
彼を忘れたいと思っていたこれまでの日々だって同じだ。
ルカはいつでも正臣に向かう道を下りることが許されていた。やめるという選択肢が、常に与えられていた。選択肢のないまま進むのと、与えられた選択肢の中で選んで進むのでは、同じ道を歩んでも、心の負担は天と地ほどに差がある。自分で選んだ道だったからこそ、正臣を一途に求められた。正臣を忘れようと足掻く事で、正臣に会えない苦しい日々の中、自分自身を責めずにすんだ。正臣が悪いと、責任を転嫁できたからこそ、自身を憎まずにすんだ。
残酷な約束を課そうとしたルカを、正臣は守ろうとしてくれていた。
ルカを突き放すための言葉は、お前は悪くないと、悪いのは俺だと、恨むなら俺を恨めといわんばかりではないか。今思えば、子供だましと言えるほどほどあからさまではないか。
これまで不安に思った何もかもが、全て腑に落ちた。
突き放したのは実は疎んでいたから、というのはあり得ない。面倒だったからというのもあり得ない。もしそうなら、適当に約束をした方がずっと容易く、気持ちよく別れられる。そして、気にせず約束など忘れれば良いだけのことだ。
子供と交わした口先の約束を破ったところで、責められるものではない。責められても、「子供のいうことだったから本気にしていなかった」と一笑に付してしまえばそれで終わる。それが許されるのが時間の経過の恐ろしさだ。仮に帰国に十年を想定していたとして、十年前の口約束を破ったところで、どれだけの者がそれを責められるというのだ。ましてや男同士の恋色沙汰など、悪かったの一言で終わらせればいい。そして、その程度のしたたかさは持ち合わせている男だった。
なのに、気持ちよく別れられる約束をしなかった。
だとするならば、正臣は誠実に約束という物に向き合ってくれていたのだ。ルカの若い一途さを真剣に受け取ってくれたのだ。だからあれは、ルカの幸せのためだけに放たれた言葉だ。
拒絶されたからこそ、見える物がある。彼の誠実さこそが、愛情の証だ。
軍人とはいつ死ぬやもしれぬ職業だ。もしかしたら、彼は自分が死んでしまうことも考えていたのかもしれない。生きて待てるかもわからぬ約束などできなかった、というのもありうる。
正臣の想いに気付いてから、何度も何度も繰り返し、別れの日を思い返す。その度に確信する。
正臣さんのあの優しい拒絶は、私を守るための物だった。
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