敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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3章

109 2 現実と絶望1

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 正臣に会いに行く、ただそれだけが進む意義だった。
 がむしゃらに働き、考える時間もないほど疲れて眠る生活というものは、ある意味楽だったのかもしれない。
 ルカは十九という年齢で、たった一年関わっただけの人間を、脇目も振らず十三年も想い続けていた。それだけ強固な想いだったからこそ、折れてしまった心は、拠り所をなくしてしまったのかもしれない。

 考える時間があるほどに、ルカの心は蝕まれていった。
 夢を見るのだ。苦しい苦しい夢だ。

『誰が待つか』

 夢の中で、正臣が嘲笑いながらルカを見ていた。

「どうして!! 正臣さん……!!」

 叫んで目が覚めれば、そこは見慣れたのベッドの上だ。気が狂いそうな現実の延長線だ。

 正臣はルカを手ひどく退けた。彼に心を残さないように。それはきっと、彼の心遣いだった。

 けれど、この心が削られるような日々の中、ルカは思う。
 何が優しさなものか、と。彼は、私を信じてくれなかったのだ。私が戻ってくることも、私が本気である事も信じなかったのだ。私の心を軽んじて、彼は私を捨てたのだ。
 彼に突き放されたという事実がルカの心を削っていた。

 あんなものが、優しさなんかである物か。

 涙がボロボロとこぼれる。

 たった一言さえ、言ってくれなかったくせに。「待つ」と、ただひとこと言ってくれてさえいれば、私は……私は……。

 ぼんやりと過ぎていく毎日の中で、ルカは気付いた。待たないと言った彼が、待っている保証などないことに。
 それは、最初からわかっていたことだった。それでも会いたいから必死にがんばっていたはずだった。自分がした約束を、それでも果たすつもりだった。そこに不安などなかった。
 保証などないと理性では思いながらも、ルカは確信していたのだ。正臣は必ず待っていると。
 だから戻ったとき、あなたの突き放した気遣いなど不要だったと、正臣に怒ってやるつもりだった。悪かったと、がんばったなと、正臣が褒めてくれるはずだった。それは、今までのルカにとってあたりまえの未来だった。

 そんな未来など約束されてなかったというのに。その未来はあたりまえではないのだと、当然のことに気付いたのだ。

 理性ではわかっていたはずの、正臣が待ってない可能性が、突然、現実味を帯びた。
 なぜ、今までそれをあたりまえのように信じられていたのかがわからなくなっていた。
 前ばかり見て、後ろを振り返る暇がなかったせいかもしれない。不安になる暇さえなく、動き続けていたためか。
 今、ルカは保証のない何もかもが、ただただ恐ろしかった。
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