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2章
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しおりを挟む「ルカ、今日は花街の女性とやり合った末、抱き合っていたと聞いた。…………何があったんだ」
帰ってきた正臣は、今日もルカの顔を見るなりそう呻くと、額を押さえた。
「お花見の時のお姉さんが、正臣さんのことを心配してただけだよ、大丈夫」
「それがどうして、抱き合うことになるんだ……」
「抱き合うって、西国の挨拶だよ。ハグして、ちゅって」
ルカは正臣に抱きつくと、頬を右、左と触れ合わせた。
正臣は低く唸って、呻くような声を漏らした。
「……東国ではしない」
「もちろん、こんなに抱きついたら東国の人には失礼だから、あのお姉さんには、このくらいの感じ」
触れるか触れないかのハグのあと、頬をつんと触れ合わせる。
「向こうからすると、女同士だから大丈夫だって」
「お前は男だろうが」
眉間に皺を寄せて、少し厳しい物言いの正臣に、珍しいとルカは首をかしげた。
「……正臣さん、まさか、嫉妬してる……?」
なんちゃってと、冗談で言ってみたら、正臣が顔を顰めた。
「なぜ、しないと思った」
「するんだ! うれしい!!」
ぱっと笑顔を浮かべたルカに、正臣は呆れたように目を向けた。
「……お前に俺はどう見えてるんだ」
「全く動じない人?」
「そんなわけがあるか。お前に振り回されてばかりだろうが」
しゃあしゃあと言ってのけた正臣に、ルカは口をとがらせる。
「そんな嘘、よくないと思う」
「嘘なものか。お前に転がされて、お前のいうことならホイホイと何でも聞いているだろう?」
「そんな覚え、全くない」
「これだけオヤジをいいように転がしておいて、本人は無自覚か」
正臣は抱きついたままでいるルカを、クックと笑いながら楽しげに撫で回した。
「そんなことより、正臣さんが嫉妬してくれたのが嬉しい。あの女の人とのことなんて、どうして嫉妬するのかわかんないような相手なのに」
声を弾ませるルカに、正臣が苦笑する。
「自分の男が女性を抱きしめて口付けたなどと聞けば、穏やかでないのはあたりまえだろう」
自分の男と言われて、ルカは更に浮かれてにこにこと笑う。
「女性っていっても、あの人、十以上は年上でしょう? そんな気持ちにならないよ」
あり得なくて笑い声を上げると、正臣の顔が厳しくなった。
「俺は、あれより年上だぞ」
「正臣さんは、正臣さんだから」
「それでなぜ、抱きしめることになるんだ……」
溜息をつく正臣に、ルカはどう説明したものかと首をかしげた。
「……あの人が意地悪交じりに、がんばりなさいって、言ってくれたから? ちょっと違うけど、うん、そんな感じ。……そもそも、あの人の名前すら知らないし」
「……西国人の距離感は、理解出来ん」
「……ていうか、気付いたけど、私はあの人どころか、年の近い女の子にも興味ないかもしれない。……かといって、おじさんも嫌だし……」
ルカは考え込む。以前はかわいく思えた女の子も、今はかわいいとは思うだけで、それ以上の感情はない。若い男とか、そういう意味で興味は持てないし、どう考えても正臣の方が断然にかっこいい。正臣ぐらいの頼りになる大人の男は……性的な目で見るのは無理だ。正臣はこんなにもルカを魅惑するというのに。
ルカはじっと正臣の顔を見つめる。
「……私、正臣さんにしか、興味がないみたい……」
今日も正臣はかっこいいと思う。今寄っている眉間の皺など最高だ。
と思えば、ふっと険がとれ、困ったような笑みになる。目尻の皺も、愛嬌があっていい。
「……変わった、趣味だな」
「正臣さんはかっこいいから、私の趣味はいいよ」
ふふんと胸を張れば、正臣が苦笑した。
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