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2章
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しおりを挟む今、東国は緊張状態にある。束の間の平和はまもなく終わることもわかっている。水面下で変革の時が来ているのだ。だから、のんきに恋に溺れている場合でないことは、頭ではわかっていた。機会が見つかり次第、早々にこの国を出なければならないことも。
それでも、ルカはこのまま正臣の側にいられる可能性を、考えるようになっていた。
それはあり得ないことだと、頭ではわかっている。
逃してくれた母のことを考えても、共に国を出るために助け合ってきた偽姉や乳母のことを考えても、絶対に選べない選択肢だ。
おそらく、ルカがここに残ると言えば、乳母と偽姉もまた、帰国をやめるだろう。そしてここで潜伏して商会に戻ることを待つことになる……それは簡単に予想が付くことだ。
それは、あまりにも危険だ。これから戦乱に巻き込まれるかもしれない状態で、異国の女性が、確かな後ろ盾もなく暮らすのは命がけだ。
偽姉と乳母を、そんな状況に晒すわけにはいかない。
二人とも本当なら商会に残りたかったのだ。そんな彼女たちを無事逃すために、ルカは国を出て、彼女たちもまた、ルカを逃すために国を出る。
ルカも彼女たちも、無理に国を出ようとは思っていないのが実情だ。だが、互いが互いを安全のために国から出したいと思っている。互いが、国を出るために最善を尽くすための軛であった。それをわかっていて、母は私に彼女たちを預けたのだ。
ルカには、正臣の側にいるためにこの国に残る、という選択肢は、最初からない。どれだけ残りたくても、ルカには守るべき物がある。そして今もまだ商会に残る者達のために、革命後の商会を支えるパイプとして働く義務もある。
それらはルカ達自らが望んだことではない。けれど、それを望まれた。それに応えたいと思った。そのために命に代えて守られてきたのだ。
ルカはその思いを踏みにじる選択肢など、持っていなかった。ルカ一個人の情で捨てられる物ではなかった。
それでもと思うのだ。
それでも、考えずにはいられない。もし、正臣の元に残れるならと。
騙してしまう形で、二人だけを船に乗せることができるのではないか。共に乗船する者の中に、西国へ行く者もいるだろう。それなりに身分の高い者も多い。その間雇い入れてもらえれば、後ろ盾はなんとかなるはずだ。
そうすれば、ルカは一人ここへ残ることだってできるだろう。革命が成功すれば、商会の貿易地点として、こちらの地域にだって手を伸ばしたいはずだ。そうすれば、ここでの生活を確保できる。
正臣の元に残るための手段を、考え続けている自分を、止めることができなかった。
駄目だとわかっているのに、その可能性を捨てられない。捨てたくない。
正臣の側にいたい。
理性とは裏腹に、ここに残るための手立てを、ルカは着実に考えはじめていた。
馬鹿げていると頭ではわかるのに、正臣に向かう想いを止められない。
ルカが西国に戻ったあと、東国との貿易のルートを存続させるのにすべきことがあるのはわかっていた。
商会の母体となる西国の貿易商……父の生家に、東国との交易を続けるよう交渉しなければならない。
ルカは今後の商会の未来も背負っているのだ。ルカの帰国は必要なことだ。軍人に思いを寄せてやめたなど、あってはならない。
正臣が今後もルカを捕まえないという保証など、どこにもない。情勢が瞬く間に変わってゆく今の時代、いつ裏切られたとしてもおかしくはない。
絶対に捕まるわけにはいかない。だから、残るなど、あってはいけない。
自分に何度もそう言い聞かせ続ける。
理性では、そうわかっているのだ。それでもルカは、持ってはいけない希望を探りはじめていた。
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