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2章
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しおりを挟む正臣が付けているところを想像する。
シンプルな銀製の物は、まず間違いのないデザインだ。絶対に似合う。
こちらのサファイアのカフスはルカの誕生石なのだが、正臣の普段の装いからすると派手な気もする。でも、ルカのひっそりとした自己主張を想像すると少し楽しい。
でも琥珀のカフスが、どうしても気になる。だってルカの瞳の色だ。……ちょっと露骨すぎるだろうか。
「お客様の瞳の色ですね」
にこりと微笑まれて、ルカはバレていることに照れ隠しに笑ってごまかした。
「……一日考えるから、とっておいてください」
どうしても決まらないまま時間がなくなり、ルカは苦渋の思いで商人に頼んだ。
まだしばらくこの町にいるという商人は、快く頷いてくれた。
「お嬢様のような方から、こんなに悩んでいただける方は、幸せ者ですね」
「……そうかな。ありがとう」
照れ笑いするルカに、商人は微笑ましそうに表情を緩めた。
お屋敷からの紹介とはいえ、たったひとつのカフスに悩む単発の客への対応は悪くない。
それが気に入って、ルカは偽姉と乳母にあたたかそうなカシミヤの手袋とショールを買った。ちょうど良かった。去年の冬はろくな準備が出来なかったために、寒かったのだ。この手触りなら使いやすいだろう。一町民が買うには少し躊躇う金額のそれを気軽に購入し、カフスを明日までは取り置くようにと言い含めた。
悩むぐらいなら三つとも買ってしまえと思わないでもなかったが、何となくではあるが、正臣に怒られそうな気がした。
実はこの町に来るまでの半年の間、乳母親子から何度も好き勝手買いすぎるなと叱られているのだ。旅をするのだから荷物になるという物から始まり、金持ちとわかると目を付けられると。
当時はそんなに買ったつもりはなかった物の、今では庶民的な金銭感覚は身につけたつもりだ。庶民的な暮らしが少しはわかってみると、確かに以前は気軽に買いすぎていた。今も実は、時折ダメ出しをされるが、それはそれだ。
だから、ルカの勘が告げる。喜んでもらうなら、絶対に一つだ。たぶん。
この町の軍を統括している正臣の資産も結構な物ではないかと思うのだが、正臣は庶民の金銭感覚を持っている。一般人を装っているルカが散財したら心配されるかもしれない。
がんばって、一つに絞ろう。
翌日も時間を見て店舗に赴いたのだが、ルカはふと気付いてしまった。
「琥珀のカフスは、他にないだろうか」
「ございますが、少し値が張りますがよろしいですか……」
だいたいにして、聞かれない限り出さない物というのがある。ましてや単発の一般人だ。高級な物は、頼まないと出てこない。
金額はかまわないからと出してもらったいくつかは、値段の桁が、やはりひとつふたつ違う物ばかりだった。
現状、慎ましい生活をしているため、ルカの動かせる資産はそれなりに残っている。二桁高いものを買ったところで問題はない。それに一般の店と違ってここなら小切手が使える。だから問題はないのだが……やっぱり、何となくだが正臣に叱られそうな気がする。
だが、前の三つより気になる物を見付けてしまった。
その中でこれはと思ったのは二つ。金額的にはその中では手頃だ。桁は、一つしか変わっていない。これなら怒られない気がする。大丈夫。たぶん。
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