敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか

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2章

73 3 幸せな逃避1

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「いつもありがとうございます」

 偽姉はそう言って正臣から果物を受け取った。
 正臣はこうやって度々手土産を持って迎えに来る。果物だったり、お菓子だったり、時には日持ちする食べ物を持ってきてくれることもある。金銭的な物に不自由などしてないルカ達だが、それでも商会で暮らしていた頃とは違う。お金があっても手に入れる伝手もなければ、女三人の暮らしぶりでお金がある事を知られるような生活をするのも得策ではない。つまり、身近な店で手に入る物以外は、口に出来ないのである。
 正臣からの手土産は、とてもありがたいものだった。

「最近、色々もらいすぎてるわね……」

 ルカが帰ってくると、偽姉と乳母が正臣からもらった果物を出しながら首をひねっていた。

「……そうかな……」

「あなた、大佐がかわいがってくれるからって、浮かれすぎよ。どれだけお世話になってると思っているの」

 偽姉の言うとおりである。実はもらい物ばかりではない。ルカは時間のあるときに連れ出してもらっては、町のことを詳しく教えてもらっているのだ。抜け道や、異国民に好意的な店、危険な通りなど、その時々、多岐にわたる。正臣に守られている身としては、危ないことに出会うことなどほぼなかったが、それでもいざというときの情報というのは、偽姉や乳母とも共有することで、安心感にも繋がっている。
 おかげで、正臣に対する偽姉や乳母達の信頼感も比例して上がってゆく。

 中には、ここが空き家で隠れることが出来るだとか、正臣の隠れ家だとかもある。さすがにそれは偽姉達には言えないのだが。
 正臣が持っている土地や家がいくつもあり、ほとんどは貸している状態だが、空き家も少なくない。正臣はその中のひとつに時折隠れて休むのだと笑っていた。正臣の空き時間に会っているとき、そこで誘われて事に及ぶ事もあるため、偽姉たちには言えない貴重な情報である。

 ともあれ、言われてみれば確かに、あまりにも正臣から与えられる物が多すぎる気がしてきた。いつもさりげなくて気付かなかった。というより、ルカの家が商売している関係上、日常的に誰かから物をもらうことが色々多かったのだ。もちろん、その分返してはいたようだが、両親の付き合いで、そこからおこぼれをもらっていた身である。何より甘えのある相手から何かをしてもらうことに抵抗が全くない。それじゃ駄目なんじゃないかと、ようやく気付いた。自分が返さなければ、誰も代わりに返してくれないのだ。
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