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2章
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しおりを挟む少し落ち着いた頃、ルカの心に先日から気になっていた疑問が頭をもたげてきた。
男同士の性交を聞きかじったぐらいで、ここまで容易くできるものだろうか。
もしやと思いつつ、聞くのはあまりにも不躾だということも理解していた。だから最初は聞く気がなかったことだった。
けれど今日の正臣を見て、今頃になって押し寄せてきた嫉妬が抑えきれなくなっていた。
正臣は、抱かれた経験があるのではないか。
彼が身体を明け渡すほど愛した人が、他にいたのではないか。
モヤモヤとした疑問が頭をもたげてくる。それを聞いたところで、嫌な思いをするだけだと頭では理解出来るのに、いいようのないやるせなさが込み上げる。
抱き合ったあと、ゆったりした時間を過ごしていたのに、感情は膨れ上がるばかりだ。
「聞きたい」「聞いたら駄目だ」と、感情と理性がせめぎ合う。
そわそわしてしまったのが、あからさまだったのだろう。苦笑した正臣が「どうした」とたずねてきた。
なんでもないと躱そうとしたルカだったが、これからもずっとこの感情を抱えるのかと思うと、やっぱり今聞いておいた方が……と、躊躇ってしまった。
感情の収拾が付かず、縋るように正臣を見た。
「ほら、ちゃんと言え」
何を聞かれるか知らない正臣は、笑っている。
本当は聞いてしまいたいのだ。正臣が「言え」と言ったからと責任転嫁をして、ついにルカは、おずおずと正臣をうかがい見た。
「あの、こんな事、聞いたら、ダメかもしれないけど……慣れて、いますか……?」
言った瞬間後悔した。あの正臣が、一瞬強ばったのがわかったのだ。すぐに小さく笑みをこぼしたが、それはどこか苦いものに見えた。
「掘られることにか?」
「あの、言いたくなければ、答えなくても……」
「……そうだな、突っ込まれた経験ならあるな」
正臣は笑みを浮かべている。けれど、いつもの柔らかさが欠けた感情の見えない笑みは、酷く冷めて見えた。正臣はなんでもないように答えていたが、ルカは聞いてはいけないことに踏み込んだような不安を覚える。
「……そう、なんですね」
「気になるか?」
苦笑した正臣が、ルカの頭を撫でる。そこに先ほどまでの冷たさはなく、拒絶する様子はない。きっと、聞けば教えてくれるつもりなのだろう。あまりいい話ではない予感を覚えながら、ルカは躊躇いながらも、頷いてしまった。
「……う、あの、……はい」
戸惑う様子のルカに正臣が苦笑する。
「色めいた話じゃないから安心しろ。……軍ってのは、野郎どもの集まりだ。時には男同士缶詰で何ヶ月も任務に就くこともある。そういうときはな、下っ端の年若い野郎が、上官の下の処理だ。ガキの頃に何回か使われたことがある、それだけだ」
「……!! で、でも、あなたは士官でしょう? そんな下っ端なんて……」
「……士官学校では、状況次第で短期の派遣だが実習として実戦に出る事がある。なんの後ろ盾もなく正義感を振りかざした士官候補のガキなんて、恰好の不満のぶつけ先だったということだ」
淡々と話す正臣の声に、感情は見えない。怒りも苦しさも、何も。表情に至っては、笑みすら浮かんでいる穏やかな物だ。それが心を殺しているように、ルカには見えた。
「……そんな!!」
「運も悪かったが、現実は知ったな。……やられたところで、訴えられるわけもない」
「どうして!!」
「……なら、お前、言えるか? 以降ずっと侮られるぞ。……士官候補生にまでそんなことする阿呆は金を積んで佐官を得た能なしだ。奴らには後ろ盾がない候補生の訴えなど、簡単に握りつぶせる。仮に上に届いても、受ける処分なんてささやかなものだ」
「……そんなっ」
なんでもない様子で小さく肩をすくめた正臣の様子に、悔しさが込み上げて、ルカは歯を食いしばった。
正臣がそんな目に遭ったことが許せなかった。
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