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2章

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 偽姉の言葉に、ルカ自身も納得する部分があった。
 彼から見て、確かに自分は子供なのだろう。嘘をつかれても怒るに足らない、庇護すべき子供なのだ。
 彼の好意は、やはりルカとは違うところにあるという証拠にも思えた。女と思われている間ですら男女の気持ちが薄かったというのなら、男とわかってしまった今は、尚更恋愛の対象になり得ないではないか。

 その考えが腑に落ちて、苦しくなる。乳母親子がそれで納得したように、それが本当なら、むしろ惚れた腫れたよりもずっと安心できる理由なのに。
 でも、それで満足できないのだ。庇護される子供でいたくない。

 だから今度、覆すのだ。せめて以前のように求めてもらうのだ。恋愛の相手になり得ると思われたい。そうでないなら、決別を……。

 思いにふけっていると、偽姉がルカの頬をそっと撫でた。

「最近、あなたが憂鬱そうだった理由がわかって良かったわ。いつも一条大佐に会った後だったから、そろそろ町を出た方が良いのかと思っていたの」

 気付かれていたことに驚いた。そんなに態度に出しているつもりはなかったのに。

「心配かけて、ごめん……。さっきも言ったけど、今のところ町は出なくても大丈夫」

「じゃあ、そんなに悔やまなくても良いのよ。バレてしまったことは仕方ないし、結果問題ないのだから」

 偽姉に慰められながら、苦く笑う。

 違うんだ、アンナ。悔やんでいたのはバレたことじゃない。アンナ達のことよりも、自分のことばかり心配していたんだ。

 恋に浮かれて正臣は守ってくれると思い込んでいた。そして今だって、理性とは裏腹に、やはり全面的に信じている。偽姉たちの安全など心配もせず、正臣の気持ちがどこにあるかわからず悩んでいただけだ。
 けれど、そんな懺悔は口にすることは出来ない。苦笑いして「ごめんね」と謝るに留めた。偽姉が言ったように、バレたことを気にしている事にしておくべきなのだ。
 男に恋煩いだなんて、言えるわけがない。偽姉達はそんなこと考えつきもしないのだから。
 ルカはゆっくりと息を吐くと、あらためて二人を見た。

 今は考えまい。

 気持ちを切り替え、問題ないと判断してくれた事に乗るようにして、話題を本題に戻す。

「じゃあ今度のお茶会の日、大佐を呼んでも大丈夫だよね」

「あんまり、良くはないけどね」

 苦笑する偽姉と乳母に、ルカは口をとがらせて、かねてから考えていた言い訳を口にする。

「だって、男同士で話すのって楽しいんだ。家の中なら女のフリしなくて良いし……」

 かなり本心も混じってる言い訳は、最も乳母達を納得させたようだった。

「そうね、そういう息抜きが出来るのなら、大佐に知られたのは、悪くなかったわね」

 仕方ないわねといった様子の二人に、笑いながらルカの胸がキリキリと痛んだ。
 男同士なら性の対象になるわけがないのだ。間違いが起こるなど誰も考えない。男だとバレているから正臣がルカを襲わない証拠になるし、ましてやルカが正臣に対して不埒なことをしたいなど、きっと正臣ですら、思いつかない。
 男同士の恋愛なんて、普通に生活していれば誰も考えない。
 その常識が酷く便利で、どうしようもなく苦しかった。
 女のように扱われた挙げ句、彼に心を寄せた自分は、きっとおかしいのだろう。
 けれど一度育ってしまった気持ちは、何も思ってなかった頃のようには、戻らないのだ。

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