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2章

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「じゃあ、どうして……」

 溜息をつく偽姉からルカはそっと目をそらし、ぼそぼそと呟いた。

「何? 聞こえない」

「……紅葉狩りに行ったとき、立ちションが見つかった」

 数拍間を置いて、は? と、偽姉から低い声が漏れた。

「あの男、女が用足してるところのぞいたの?」

「だからあの人はそんなことしないって!!」

 あらぬ疑いをかけられる正臣への申し訳なさと、間抜けだった自分への情けなさで、泣きたい気分で叫ぶ。

「じゃあ、どうして用を足してるところを見られるの!」

「女は立ちションしないからだよ!!」

 ルカは自棄になって叫んだ。

「……そりゃ、しないけど……」

 よくわかってない様子で首をかしげた偽姉に、ルカは両手で顔を覆って、いたたまれなさを堪えながら呟く。

「崖のとこで、その、おしっこ飛ばしてたら、正臣さんが崖に突っ立ってる私を心配してきてくれて……」

「……何してるの」

「うん……」

 ようやく状況が飲み込めた偽姉は、あきれかえった様子でルカを見た。
 返す言葉がなかった。

「バカなの?」

「うん、ちょっと、バカだった……」

 訪れた沈黙が痛い。
 顔を覆ったまま黙り込んだルカに、苦笑気味な乳母の声がかけられる。

「……それより、どうしてあなた無事なの。それって、騙されたって逆上されてもおかしくない状況じゃない。……一条大佐は、なんて?」

「……笑ってた」

「え?」

「……だから、その、大ウケして笑ってた。完全に騙されたって、大笑いだよ……」

 その言葉に、偽姉と乳母は目を丸くして顔を見合わせた。

「怒らなかったの?」

「うん」

「全く?」

「うん。……意味わかんないよね」

 あの時の正臣を思い出して苦笑するルカに、偽姉は考え込むように黙り込んだ。

「……なるほどねぇ」

 ややあって、溜息交じりに呟いた偽姉は、ひとつ納得したように頷いた。

「もしかして、アンナは正臣さんの気持ち、わかる? 私には全然分からないんだけど」

「……もちろん私にも分からないわよ。ただ、ほら、大佐は随分年上でしょう? 一条大佐って、あなたにちょっかいかける割りに、純粋に好意的だったのよね。いやらしい目じゃなかったというか。返って裏があるんじゃないかと胡散臭くも思ってたんだけど、……そんなとっさの時に笑うなんて、あくまであなたが庇護する子供だったって事かしらね……と思って。娘とか妹のような感覚しか持ってなかったとしたら、笑っちゃうかなって」

 偽姉がそう言うと、乳母もその言葉に頷いた。

「そうね。普段から、あなたのような年代の子達にも声はかけてるみたいだし。ルカは女の子にしてはあまりにも危機感がなさ過ぎるから、気にかけてた部分もあったのかもしれないわね」

 二人の言葉に「なるほど」となんでもないフリをしながら相槌を打ちつつ、胸の奥がずんと重くなった気がした。
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