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2章
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しおりを挟む「今度、正臣さんがうちに来るから」
正臣に約束を取り付けたのは、数日前。ルカの家族さえかまわなければという前提で、家に招いた。以前の正臣なら女性と家に二人きりなど、決して受け入れなかっただろう。
容易に頷いてくれたことで、あらためて、正臣にとってルカが恋愛の対象でなくなったことを突きつけられた気がした。
そしてこんな事後承諾のようなことを言い放ったことで、偽姉と乳母が酷く驚いた様子でルカを見た。
当然の反応だ。ルカの立場で軍人を家に招くなど自滅したがっているような物だ。
そうは言っても、引くべき一線は心得ているつもりだが。裏切られる可能性はいつだってある。このご時世に絶対はない。どんなに信用したとしても、それを心に留めておかなければいけない。
闇雲に信じるつもりはないから、偽姉と義母が身を守るためにも、内緒で正臣を家に招き入れるようなことなど、するつもりはない。
信じる、疑う、両方を考えた末の宣言だった。
けれど、何度も考えていた言うべき事より、無意識に言い訳が先に口を突いて出てしまう。
「その、軍人として、探りに来るとか、そういうんじゃなくって、ただ、遊びに……」
「……何を考えてるの?」
「……ごめん。その、今度のお茶会の日約束した」
「二人きりでこの家で会うという事?」
ルカが頷けば、乳母は難しい顔をし、偽姉は頭を押さえながら呻いた。
「あなた、立場がわかっているの?」
「……マリカとアンナを危険にさらしてる」
「違うのよ……。危険なのはルカなの……!! 家族もいない家に招くだなんて、好きにしろといってるような物なのよ! どんなに立派な人でも、女性がその気だと感じたら手を出してくる人はいるの」
ルカが以前より正臣との距離を自ら近づけていることに、偽姉と乳母は気付いていたのだろう。これほど強く言われるということは、きっと偽姉はルカのことをずっと心配していたのだ。それだけルカが正臣に傾倒しているように見えるということだ。自身の行動の危うさを突きつけられたような気がした。
偽姉が更に言い募ろうとしたのを乳母が制し、静かに言い含めるように言葉を続けた。
「……アンナの言う通りよ。男のあなたに危機感がなくて当然なのはわかってるわ。でも、それは駄目よ。襲われて男と知られれば、いくら一条大佐といえども逆上しないとも限らないわ。最悪の場合、軍人を謀ったと殺されることだってあり得るのよ」
ルカは唇を噛んで下を向いた。
偽姉と乳母が、真っ先に心配したはルカの安全だった。その後の我が身よりも、ただ、ルカを案じていた言葉だった。
正臣を信じている。だが、偽姉と乳母の安全を考えるのなら、離れた方が良いのだと胸に突き刺さる。
でも、信じたいんだ。あの人が、好きなんだ。ごめん。身勝手で、ごめん。
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