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2章
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しおりを挟むルカは男だ。正臣が好きだったのは女のルカだ。今のルカの立場なんて、せいぜい懐いてきている近所の子供だろう。
立場が逆転したような状況だと思いながら、ルカは残り僅かな時間を惜しんで、彼に恋うた。それは伝わらなかったけれど。どう伝えればいいのかわからなかった。伝わるのが怖くもあった。
以前二度会った、花街の女性のことを、ルカは最近よく思い出す。彼女の言葉は、本当に毒のようだったと思うのだ。
込み上げるのは焼き付くような嫉妬だ。
あの時、体を重ねてもと、彼女は言っていた。彼女は、正臣に抱かれたことがあるのだ。
そんな何気なく込められていた棘は、当時のルカを傷つけることはなかった。けれど今のルカは、そんな些細な言葉に、いとも簡単に傷つけられてしまう。
『誰か一人を選ぶところなんて、もう二度と見ることはないと思っていましたの』
正臣の過去を、そう語った彼女。以前は正臣の隣に特別な誰かがいたのだ。ずっと特別な人を作らなかったと語った彼女だったが、過去にはいたのだ。そして特別な一人にはなれなくても、彼女は正臣に抱かれていたのだ。
それらは全て過去のことだ。だが、過去のことなどどうでもいいとは思えなかった。今はもうルカは愛されていないのだ。自分も正臣の過去になったのだと思うと、正臣に愛された女がいたという過去が、妬ましくてたまらなかった。
あの頃の毒が、今頃になって効き始める。
彼女が妬ましい。彼に求められたことが、心底妬ましい。ルカが女と思われたままであったのなら、抱かれないことこそ彼の愛情だと思えた。けれど、ルカは男だと知られている。孕むことはない。彼の心配は不要だ。
なのに彼は体の関係を望むどころか、普段の様子さえ変わった。
ならば、やはり彼からのルカへの恋情は失われてしまったということなのだろう。
あの時の、ルカのことを特別だと言った彼女の言葉が、今は優越感よりも、不安を煽っていた。
彼は、どんな風に彼女を抱いたのだろう。
脳裏に、彼女を抱く正臣の姿がよぎった。
許せない。
とっさに怒りが込み上げた。そんなこと、許せるはずがない。
彼が、自分以外を求める姿など、絶対に許せない。
私のことが好きな癖に。私を好きだといった癖に。
なにも求めてくれなくなった正臣を、ルカは心の中でなじる。自身が彼の過去になったということを認めたくなかった。
だって今も優しいじゃないか。だって今も私を隣に置いてくれているじゃないか。
脳裏に浮かぶ正臣と彼女をルカは無理矢理引き離す。女を組み敷くその腕をルカこそが床に縫い付けてやりたいと思った。そのまま彼を組み敷いて、呆然と自分を見上げる正臣に口付けてやりたい。
瞼の奥の正臣をルカは詰る。
渡すものか。女なんかに、彼を渡してなんかやるものか。
正臣さんは、私のものだ。
わき上がる独占欲に震えた。
彼に触れたい。彼を自分の物にしたい。
感情は募るばかりだ。
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