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1章
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しおりを挟むルカはそんな素振りは見せたことがないはずだ。誰の前でも。もちろん、乳母親子の前でも。女装することが家族を守ることになるだなんて、普通なら思いつかない。
自分自身にでさえ、そう思わないようにしてきた。
でないと、辛くなるから。だから国を安全に出るために有益なのだから女装も悪くないと、自分自身に言い聞かせてきた。
なのになぜ正臣は、女装が二人のためだと思うのだ。
「怒れるわけがないだろう。君はいつも全身で彼女たちを守っていた。常に自分が目立つように振る舞っていた。君のその姿は、二人を守る君の覚悟の形だったんだな。……美しいはずだ」
ぐっと喉が痛くなった。
この人は、ちゃんと、わかってくれるんだ。
引き締めた口元が震えてしまう。まぶたが熱いのを、必死で瞬きしないように堪える。
正臣の視線が、優しさを帯びていた。
家を出た時点ならともかく、いくつも経由地を辿るうちに、軍に対する女装の必要性は、そうそうに絶対ではなくなっていた。男だからといって、それほど厳格に取り締まられるわけではないのだ。しかもまだ十代である。
もちろん、ルカの立場が知られると危ういが、地元を離れるとそれほど重要な案件となっていないことも情報で仕入れていたため、その捜索の手は緩んでいるのは間違いない。
なにより革命軍対策に力を入れる派閥の多い土地からは出ているのだ。多少の工作は必要だが、男に戻っても多少の変装をすればなんとでもなるだろうとわかっていた。女装は便利なことには違いなかったが、ルカ自身には面倒の多い手段だった。
それでも、続けた理由は、たったひとつだ。
ずっと我慢していた感情が込み上げた。
好きで、こんな格好をしていたわけじゃない。好きで、近づいてくる男達を手玉にとっていたわけじゃない。
溢れたのは苦しさと悔しさとやるせなさだ。
それでも自分は美しいからと嘯いて、軍にも世間にも有効だからと言い聞かせて、気持ちをごまかしながらでも、やるしかなかったのだ。
「……女装なんて、していたくなかった……」
俯いてぼそりと呟いたルカを、正臣が抱き寄せた。ルカはそれに抵抗ができなかった。
「……私は、目立つから……。私が、注意を惹きつけていれば、二人は、手を出されないから……っ」
「ああ」
全てを受け止めるような正臣の短いひとことに、ぐっと喉が痛くなる。
女装をはじめて、ルカは自分の容姿は目立つのだとすぐに気付いた。だから自分がそのまま防波堤となることを決めた。
「だって、男の姿だと、私だけ無事で、でもこんな見た目だから侮られて、弱い二人が標的にされてしまう……っ」
「そうだな」
「私が女である方が、二人を守れるから……っ」
「……ああ。よくやった。お前は正しい」
正臣の言葉が、じわりと心に響き渡る。涙がひとつ、ポロリとこぼれ落ちた。
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