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1章
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しおりを挟む例えば、もしルカが男と分かれば。……きっとこの偽りの時間は終わる。騙したルカを、きっと正臣は嫌悪するだろう。男からの好意なんて、そんな物だ。ルカだって以前はそう思っていたのだ。男から思いを寄せられても、気持ち悪い、と。
自分の言葉が、自分にそのまま突き刺さる。胸の疼くような痛みに、ルカは苦く笑った。
そうすればきっと、あっけなく関係は終わるだろう。もう関わりたくないと思ってくれるだろう。ルカだって恥ずかしくて会いたいと思う余裕はなくなるはずだ。
正臣は異国人の男だからといって問答無用に取り押さえようとする人間ではない。ルカが自ら告白したのであれば、なおのこと厳しく取り締まることはしないのではないか。
だから内密に男だと明かすのは、有効な手に思えた。
思い詰めるように、ルカは考えを深めてゆく。
偽っていた理由は、正直に本当のことを言えばいい。検問で警戒されずにすむから、女装の理由はそれで十分だろう。
旅で身の安全のため男装することは別に珍しいことでもない。女装となると少々珍しいだろうが。大した罪のない偽りであれば、知り合いなら多少の目こぼしも珍しくない。
おそらく正臣なら、どんなに怒りを覚えても腹いせに何かをすることはないだろう。弱い者を踏みにじる人ではない。
……と、そこまで考えて我に返り、ルカは馬鹿馬鹿しいと首を振った。
ほんとうに、恋に浮かれた頭はろくなことを考えない。
正臣を欠片も疑えなくなっている自分に笑うしかない。けれど何度考えても、正臣はどれだけ怒りを覚えても、ルカを傷つけてくるようには思えないのだ。
だが、それではだめなのだ。
そもそもだ。たとえ大丈夫だとしても、たとえ本名は隠すにしても、余計な情報は与えるべきではない。少しでも渡す情報は少ない方が良い。
……それに正臣が知れば、彼に不要な罪を背負わすことにもなる。正臣は余計な諍いを起こさぬためにきっと知らぬフリをしてくれるだろう。万が一、ルカの身元が知られ、庇っていたことが明らかになれば、立場上面倒になるかもしれない。
けれど、このままでは、正臣に未練を残してしまう。こんな気持ちで居続けるのは辛い。
……ならば、国を出る直前であれば、この想いを振り切るために、有効なのかもしれない。
次から次へと、詮ないことばかり考えてしまう。
ルカの心は迷走するばかりだ。
落ち着け。感情に惑わされるな。
男だと知らせるのはどうにもならなくなったときだ。まだずっと先だ。むしろ、最後まで隠しきるのが理想だ。
ルカは小さくため息をつく。
少し取り戻した冷静さで、そんなことをせずにすむことを祈る。自業自得とわかっていても、彼に嫌われたくなかった。
そのままの自分が愛されたい感情は、押し殺さなければならない。
矛盾と思考の飛躍が繰り返される。それを止められない。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。どこまでも、恋とは愚かだ。
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