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1章
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しおりを挟む一度覚えた罪悪感は、日に日に増してゆく。
正臣と言葉を交わす機会は、数日に一度程度だ。
その度に、正臣の幸せを奪っているのではという罪悪感と、男であるという後ろめたさと、そして恐れが込み上げる。なのに、会えるのは嬉しい。
正臣への好意は、否定できなくなってきている。彼と一緒にいるのが楽しいのだ。
今日は、正臣に会えるだろうか。
そう期待してしまう。彼の姿を探してしまう。
何気なく言葉を交わすのが嬉しかった。無骨ながらも、気遣ってくれる何気ない言動が、心をあたたかくしてくれた。
今はもう、彼を利用しようなどという気持ちは、なくなっていた。ただ会いたいから会っている自分に気付いていた。
その好意が、以前とは少しずつ違いはじめていることにも。
相手は男だ。
そう思うと、ぞっとするような恐ろしさが込み上げる。自分の感情が信じられなくて逃げ出したいような気持ちに何度も駆られた。これはただの好意に過ぎないと、何度も否定した。けれど、会いたい気持ちは収まらない。
言葉を交わすだけで弾む気持ちが止められない。
居心地よかったはずの正臣との関係が、次第につらくなった。なのに会いたい。ずっと一緒にいたい。
そして彼を騙している罪悪感よりも次第に強まってきたのが、恐れだ。
正臣に男と知られるのが、怖い。
バレなければ良いだけなのに、彼に嫌われるのが、怖い。
もはや性別を知られて捕まることなどより嫌われる方が怖いなど、馬鹿げているとしか思えない。
けれど怖いのだ。
気持ち悪いと唾棄されるのか。それとも騙したと怒りをぶつけられるのか……もし、怒りに任して捕らえられたら……。
不安が込み上げる。
正臣に男だと知られたくない。なぜなら正臣が好きなのは「女」のルカだからだ。
女だから大切にされている。女だからかわいいと思われている。……女だから恋われている。
しかしルカは男なのだ。本当のルカのままだったなら正臣はこんなに大切にはしてくれなかっただろう。
バレたら、どうなる……?
その考えにとりつかれる事が増えた。正臣から嫌悪の目を向けられるのが恐ろしかった。
女と思い込まれた挙げ句、ほだされて好意を抱き、自分のなすべき事より男に嫌われる方が恐ろしいなんて、あまりにも滑稽すぎる。
偽りの好意を失いたくないなんて。
バカだ。私は、バカだ。
そう思うのに、会えばそれだけで気持ちは浮かれてしまう。
「こんなオヤジに言い寄られては迷惑だろうが」
そう皮肉な笑みを浮かべて、正臣がルカを口説く。それだけで胸が小さく跳ね上がる。ルカはふいと目を背けて俯いた。
好意がこもった諸々に触れるにつけ、気持ちは正臣へと傾いていった。
ルカを呼ぶ声だったり、無骨さが滲む硬い表情がルカを見た瞬間ふっとやわらぐのを見たときだったり、差し伸べられた手だったり。そんな他の誰にも見せない柔らかさが、ルカにだけは向けられる。
その度にぐっと込み上げるのは、この人を抱きしめて閉じ込めたいような、独占欲じみた感情だ。
そんな感情、認めたくなかった。ただの好意だと思いたかった。けれど、その感情はあまりにも、ルカの知るただの好意とは違っていた。
泣きたいような気持ちで、自覚する。
私は、この人が好きだ。
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