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1章
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しおりを挟む「……まったく……。ルカ殿、古い知人が、すまなかった」
ルカとしては、男の取り合いをするのは馬鹿らしくてやってられない。なぜ男の自分が男の気を引いてるような真似をしなければならないのだ。
状況的に納得がいかず、ルカは笑顔で嫌味を返す。
「……彼女、以前の恋人とかではないんですか? よかったのですか?」
すまなかったと言うが、正臣の様子には信頼している相手への気安さがあった。女がいるのなら、ルカを相手にする必要などないだろう。
お前みたいな軍人、相手にしなくてすむのならせいせいする。さっさとさっきの彼女のところでも行って、私の平穏を返せ。私は軍人になんて、関わりたくないんだよ。
ルカはなんとも言えない苛立ちに任せて、心の中で正臣に罵倒を続ける。
「……昔、色々とあったとは言っておこう。今はたまに会えば立ち話を二三する程度だ。古い知人だよ」
「……彼女、お弁当のことを知っていました。正臣さまに会いに来たのですね」
「からかいに来たんだろうな」
正臣が苦笑するのを見つめる。彼もわかっているのだろう。彼女は、噂を知って心配してわざわざ顔を見に来たのだ。異国の女に熱を上げている正臣の様子を、確認したかったのだ。
「私とお出かけするのは、控えた方がよろしいのかもしれませんね」
笑顔で更に追い打ちをかければ、正臣が弱り切った顔で項垂れた。
見たことのないその様子に、ルカはようやく溜飲を下げる。
「……すまなかった。俺が君を追い回しているせいで、嫌な思いをさせた」
「追い回されているおかげで、直接の害はないので、許して差し上げます」
困った顔で苦笑する正臣に、ルカは笑った。
「かたじけない」
苦笑しつつも、生真面目に頭を下げられれば、許すしかなくなってしまう。
ルカが正臣に不信感を抱いているように、正臣の周りの人間もまた、正体のしれないルカへの不審を感じているのだろう。
本来なら確実に関わらない方がいい関係だ。あらためて実感するが、正臣の必死に引き留める様子に安心する自分を、ルカは自覚する。
先ほどの女性を、美しい女性だったと思い返す。きっと彼女のような女性が、正臣の隣にあれば似合うのだろう。座敷に呼ばれる女性も、地位を上げれば力のある男性の元に嫁ぐこともある。
妬いているわけではない、二人の関係に言葉以上の物を疑っているわけでもない。ルカには関係のないことである。けれど、なんとも言えない苦みが胸に燻っていた。
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