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1章

18 2 警戒と親愛1

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 ルカたちが借りたアパートの一角は、東国の一般人が住むには割高だが町の中心地からそう遠くもなく、治安がいい場所である。治安の良さの原因を知ったのは割とすぐだ。異国民が設立した会社がほど近くにあり、そこで働く者が多いこと、そして軍人の宿舎とほど近いためだ。
 近隣の異国民達によると、この町の軍人は、比較的異国民への当たりが悪くないらしい。もっとも、末端にゆくほどおかしな者達も増えるのだが、この近くの宿舎の軍人達は、あまり異国民だといって隔てることなく接してくれるのだという。

 元々、ルカ達は都近くの港からの出国予定だった。しかし検問が厳しく、年単位で監視が緩むことはないだろうとみられた。ひと月ほど、知人の屋敷に滞在させてもらっていたルカ達だったが、予定を変更して、地方からの出国に切り替えた。
 そのとき検討したのは、女の足で行ける場所の中で、中央の軍とは別の派閥の勢力が強い地域であること。この町を選んだのは、都ほど革命軍への取り締まりが厳しくないだろうというのが理由だ。

 こうして暮らしてみると、それは正しかったようだ。対応の違いはあからさまだ。
 けれど、それだけではないと、隣人達は言う。

「あそこの宿舎はイチジョウがいるから、乱暴なことをしてこないのよ。あなた、イチジョウに気に入られてるって聞いたわ。よくしてもらえるように、取り入っときなさい」

 明け透けに情報をくれる隣人の女性は、そう言ってルカの背中をバンバンと叩いた。
 明け透けで気のいい様子は、いかにも西国のマンマといった様子だ。

「イチジョウって、どんな人なの?」

「いい男よ。もし東国に残るのなら、捕まえときなさいって言うわ。元々いいとこの坊ちゃんだとかいう噂を聞いたことあるけど、宿舎の上官用の一軒家で一人暮らししているからどうなのかしらね。でも、信頼できる男よ」

「……でも、軍人なんて、信用できないよ」

 正臣を手放しで信用しているのが気に入らず、ルカは口を尖らせた。隣人はそれをおかしそうに笑って耳打ちをしてくる。

「これは内緒の話だけど、拘束された西国人をこっそり逃がしてくれたこともあるわ」

「……軍人のくせに?」

 ルカが驚いて聞き返せば、彼女はにこりと笑った。

「軍人にも色々いるってことよ。あんたも他所から来たのならわかるだろうけど、私だって前は軍人なんて異国民を人間と思ってない見下げた奴らばっかりだと思っていたわ。でもイチジョウは違う。最初はみんな疑うけどね。でも暮らしてみればわかるわ。この町の軍人達は、異国民を乱暴に扱うことがかなり少ないわよ。むやみやたらと取り調べられたりも少ないし、されても比較的すぐ解放されるし。友好的な軍人が助けてくれることも多いのよ。もちろん数合わせで徴兵された奴らとか、他にも何割かはどうしても私たちを嫌う輩がいるわよ。でも半分以上は、多少嫌な顔をしてもそれなりに住人として扱ってくれるわ」

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