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1章
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しおりを挟む家に着いたルカは、隣の軍人をチラリとうかがう。
結局、家まで送ってもらうことになってしまった……。
がんばって躱したつもりだが、疑われたら駄目だと思うと強く出られず、この体たらく。
どんだけ怪しんでるんだよ。私はそんなに警戒されるような風体ではないと思うんだけど……。
渋々、正臣の前で家の戸を開けて帰りを告げる。
「……ただいま……」
「お帰りなさい、ルカ。大丈夫だっ……どちらさま?」
安心した様子で出てきた女性は、ルカの後ろを見て固まった。
アンナ、ごめんよ……。
ルカは困った顔で、へらりと笑う。ルカにとって幼なじみであり姉のような存在でもある偽姉は、顔を強ばらせていた。
そりゃそうだ、とルカは思う。この国の男でこれだけ厳ついというだけでもこわいのに、着ているのは軍服だ。しかもなんかきっちりした軍服で装飾の多さから位が高そうなのが一目瞭然の大佐殿だ。普通にこわい。
心配しないで。大丈夫。私は、捕まったわけじゃないからね。
笑って、だいじょうぶ、と声に出さず声をかける。けれど、偽姉からするとそうはいかなかったのだろう。彼女は不審がる様子を隠す事もせずに、軍人を見据えた。
「あの、妹が、なにか……」
「いや、我々の監視が行き届かず、軍の者がお嬢さんにちょっかいをかけてしまっていた。目をつけられかねない状況だったため、念のためこちらまで送り届けた」
落ち着いた低い声は、年を重ねた者らしい有無を言わせぬ重さがあった。
「……それは、お手数を……。ありがとうございます」
一瞬驚いた表情をした偽姉は、お礼を言いつつも正臣を見据える目つきを緩めない。
この顔はアレだ、下っ端の躾ぐらいちゃんとしろや! っていう目だ。アンナ、こわい。軍人さんに噛みつかないで。目をつけられちゃダメだよ……。
ルカはハラハラしながら見ていたが、偽姉が次を言う前に、正臣が頭を下げた。
「こちらの力不足だ。申し訳ない」
息をのんだのは、ルカだけではない。
厳つい軍人の殊勝な態度に毒気を抜かれたのか、偽姉はふっと軽く息をつくと、苦笑した。
「いえ。軍人さんが私どもに親切にして下さるだけでもありがたいです。……何もしていなくても、この見た目だけで難癖をつけられますから……」
ルカは偽姉と目を合わせて力を抜いた。この軍人を信頼するわけではない。けれど、面と向かって対立されないだけでも気が楽になる。
ルカたちは決して国に仇を為しているわけでもなければ間諜でもない。そして実際、直接的なことはなにもしていない。何かをして捕まっているのはルカの父である。
それでも、軍部からしてみれば逃したくないフォンタナ商会の関係者であることには間違いないだろうが、嘘はついてない。ちょっと革命軍に協力していた出資者の息子というだけだ。ルカは一応国内有数の商会の御曹司だが、仕事は表向きの海運業にしか携わっていないため間違いなく革命軍とは無関係だ。基本的には。その言い分が通用するかどうかは別として。
とりあえずルカが商会の関係者だと気付かれるわけにはいかない。
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