上 下
8 / 163
1章

8 1-8

しおりを挟む

「そうだな。今は取り締まりも厳しい。君にもあらぬ疑いがかけられることもあるだろう。それでなくても君の容姿は目立つ。なにか問題があれば、俺の名を出して呼んで良い。理不尽な拘束であれば、多少は力になれるだろう」

「……ありがとうございます」

 やばい。目を付けられた。これ、どう考えても「俺がお前を監視するぞ」ってことじゃないか。

「で、君の名前を聞いても良いだろうか」

 ……やっぱり、このまま名乗らずにごまかせないよなぁ……。

「ルカ、と、申します。立木、ルカ、と……」

 名前はこの国では明かしていないミドルネームを使い、姓は乳母から借りた物を名乗る。それは家から逃げるときに渡された偽の旅券にそったものだ。本名はレアンドロ・ルカ・フォンタナ。東国の姓はない。

 大丈夫。そうそう簡単にばれたりはしない。

「たちきるか殿……。わかった。覚えておく」

 覚えなくて良いよ!!

 と、心の中で悲鳴を上げながら、ルカは力ない笑みを浮かべた。笑っておけばきっと都合の良いように解釈してもらえるだろう。美女特権である。

「よろしくお願いします」

「気をつけなさい。わかっているだろうが、今は異国の者は目を付けられやすい。先程も言ったが、できるだけ一人で出歩かないように」

 親切ごかしなその言葉に、カチンとくる。それができればここに一人でいない。おまえら軍人のせいでこんな目に遭ってるんじゃないか。

 思わず睨みつけるように顔を上げれば、真剣な表情の正臣と目が合った。どくんと心臓が跳ねた。なぜか一瞬息が止まって、いたたまれず目を背ける。

「……それは、難しいです。私は一人、西国人の父に似たもので、私と共にいると家族が悪く言われるのです。二人ともこちらの東国の血が濃く出ているため、私よりも小さくか弱いのです。私が、守らねばならないのです」

 使用人母娘はブルネットの髪にブラウンの瞳で、色合いが東国と呼ばれるこの国の者に近い。乳母の方は東国と西国のハーフで、顔立ちも色合いも東国の者に近い。偽姉の方は父親が完全な西国人のため、色合いこそ東国の者に近いが、顔立ちは西国よりだ。
 ルカも祖母が東国人だったため偽姉と同じクオーターだが、色合いも見た目も完全に西国人の物で、ダークブロンドの髪に、アンバーの瞳だ。西国人としては東国寄りの色彩だが、東国人の中にまぎれると、途端に目立つ。

 使用人親子たちが「西国かぶれ」と都で石を投げられたのは一度や二度ではない。いかにも異国民である事より、異国民と一緒にいる自国民の方に嫌悪が向かう事もあるのだ。

 その言葉に思うことがあったらしい正臣は、少し眉を顰めて「そうか」と小さく頷いた。

 衝動にまかせて、これからも一人で出歩く言い訳をしてから、しまったと気付く。家のことを喋りすぎたかもしれない。

「申し訳ありません。正臣さまには詮無いことを申しました」

「いや、女性だけでは大変なことも多かろう」

 まあ、女装して潜伏してる身だし、そりゃ大変なことばっかりだよ……。家族のことも心配だし……。でも、私は自力で使用人親子を連れて国を出ないといけない。私が二人を守らなきゃいけない。

 だから軍人なんかに邪魔されるわけにはいかないのだ。

 ルカは、家族同然に育った使用人親子のことを思う。自分が捕まるのは仕方ない。だがルカは二人を、この国から逃がさなければならないのだ。そのために家を出てここにいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも
BL
エクソシスト(浄霊師)× ネクロマンサー(死霊使い) 王都に怪異が続発した。怪異は王族を庇って戦死したカルダンヌ公爵の霊障であるとされた。彼には気に入った女性をさらって殺してしまうという噂まであった。 浄霊師(エクソシスト)のシグモントは、カルダンヌ公の悪霊を祓い、王都に平安を齎すように命じられる。 公爵が戦死した村を訪ねたシグモントは、ガラスの柩に横たわる美しいカルダンヌ公を発見する。彼は、死霊使い(ネクロマンサー)だった。シグモントのキスで公爵は目覚め、覚醒させた責任を取れと迫って来る。 シグモントは美しい公爵に興味を持たれるが、公爵には悪い評判があるので、素直に喜べない。 そこへ弟のアンデッドの少年や吸血鬼の執事、ゾンビの使用人たちまでもが加わり、公爵をシグモントに押し付けようとする。彼らは、公爵のシグモントへの気持ちを見抜いていた。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。
BL
たった一人神器、黙示録を扱える少年は仲間を庇い、絶命した。 そして目を覚ましたら、少年がいた時代から遥か先の時代のエリオット・オズヴェルグに転生していた!? 黒いボサボサの頭に、丸眼鏡という容姿。 お世辞でも顔が整っているとはいえなかったが、術が解けると本来は紅い髪に金色の瞳で整っている顔たちだった。 そんなエリオットはいじめを受け、精神的な理由で絶賛休学中。 学園生活は平穏に過ごしたいが、真正面から返り討ちにすると後々面倒事に巻き込まれる可能性がある。 それならと陰ながら返り討ちしつつ、唯一いじめから庇ってくれていたデュオのフレディと共に学園生活を平穏(?)に過ごしていた。 だが、そんな最中自身のことをゲームのヒロインだという季節外れの転校生アリスティアによって、平穏な学園生活は崩れ去っていく。 生徒会や風紀委員を巻き込むのはいいが、俺だけは巻き込まないでくれ!! この物語は、平穏にのんびりマイペースに過ごしたいエリオットが、問題に巻き込まれながら、生徒会や風紀委員の者達と交流を深めていく微BLチックなお話 ※のんびりマイペースに気が向いた時に投稿していきます。 昔から誤字脱字変換ミスが多い人なので、何かありましたらお伝えいただけれ幸いです。 pixivにもゆっくり投稿しております。 病気療養中で、具合悪いことが多いので度々放置しています。 楽しみにしてくださっている方ごめんなさい💦 R15は流血表現などの保険ですので、性的表現はほぼないです。 あったとしても軽いキスくらいですので、性的表現が苦手な人でも見れる話かと思います。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

花の聖女として異世界に召喚されたオレ

135
BL
オレ、花屋敷コガネ、十八歳。 大学の友だち数人と旅行に行くために家の門を出たらいきなりキラキラした場所に召喚されてしまった。 なんだなんだとビックリしていたら突然、 「君との婚約を破棄させてもらう」 なんて声が聞こえた。 なんだって? ちょっとオバカな主人公が聖女として召喚され、なんだかんだ国を救う話。 ※更新は気紛れです。 ちょこちょこ手直ししながら更新します。

処理中です...