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1章
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しおりを挟む「そうだな。今は取り締まりも厳しい。君にもあらぬ疑いがかけられることもあるだろう。それでなくても君の容姿は目立つ。なにか問題があれば、俺の名を出して呼んで良い。理不尽な拘束であれば、多少は力になれるだろう」
「……ありがとうございます」
やばい。目を付けられた。これ、どう考えても「俺がお前を監視するぞ」ってことじゃないか。
「で、君の名前を聞いても良いだろうか」
……やっぱり、このまま名乗らずにごまかせないよなぁ……。
「ルカ、と、申します。立木、ルカ、と……」
名前はこの国では明かしていないミドルネームを使い、姓は乳母から借りた物を名乗る。それは家から逃げるときに渡された偽の旅券にそったものだ。本名はレアンドロ・ルカ・フォンタナ。東国の姓はない。
大丈夫。そうそう簡単にばれたりはしない。
「たちきるか殿……。わかった。覚えておく」
覚えなくて良いよ!!
と、心の中で悲鳴を上げながら、ルカは力ない笑みを浮かべた。笑っておけばきっと都合の良いように解釈してもらえるだろう。美女特権である。
「よろしくお願いします」
「気をつけなさい。わかっているだろうが、今は異国の者は目を付けられやすい。先程も言ったが、できるだけ一人で出歩かないように」
親切ごかしなその言葉に、カチンとくる。それができればここに一人でいない。おまえら軍人のせいでこんな目に遭ってるんじゃないか。
思わず睨みつけるように顔を上げれば、真剣な表情の正臣と目が合った。どくんと心臓が跳ねた。なぜか一瞬息が止まって、いたたまれず目を背ける。
「……それは、難しいです。私は一人、西国人の父に似たもので、私と共にいると家族が悪く言われるのです。二人ともこちらの東国の血が濃く出ているため、私よりも小さくか弱いのです。私が、守らねばならないのです」
使用人母娘はブルネットの髪にブラウンの瞳で、色合いが東国と呼ばれるこの国の者に近い。乳母の方は東国と西国のハーフで、顔立ちも色合いも東国の者に近い。偽姉の方は父親が完全な西国人のため、色合いこそ東国の者に近いが、顔立ちは西国よりだ。
ルカも祖母が東国人だったため偽姉と同じクオーターだが、色合いも見た目も完全に西国人の物で、ダークブロンドの髪に、アンバーの瞳だ。西国人としては東国寄りの色彩だが、東国人の中にまぎれると、途端に目立つ。
使用人親子たちが「西国かぶれ」と都で石を投げられたのは一度や二度ではない。いかにも異国民である事より、異国民と一緒にいる自国民の方に嫌悪が向かう事もあるのだ。
その言葉に思うことがあったらしい正臣は、少し眉を顰めて「そうか」と小さく頷いた。
衝動にまかせて、これからも一人で出歩く言い訳をしてから、しまったと気付く。家のことを喋りすぎたかもしれない。
「申し訳ありません。正臣さまには詮無いことを申しました」
「いや、女性だけでは大変なことも多かろう」
まあ、女装して潜伏してる身だし、そりゃ大変なことばっかりだよ……。家族のことも心配だし……。でも、私は自力で使用人親子を連れて国を出ないといけない。私が二人を守らなきゃいけない。
だから軍人なんかに邪魔されるわけにはいかないのだ。
ルカは、家族同然に育った使用人親子のことを思う。自分が捕まるのは仕方ない。だがルカは二人を、この国から逃がさなければならないのだ。そのために家を出てここにいる。
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