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しおりを挟むようやく絞り出した言葉は、団長の溜息と共に一蹴された。
「……お前は、馬鹿か?」
「……は?」
眉間にしわ寄せた団長の顔がそこにある。なんでそんなに不機嫌そうなんだ。え。俺、団長の気持ち受け止めるって感じのこと言ったつもりなんだけど。俺だって団長と一緒にいたいって……なんで馬鹿とかいわれてんの。
「一生、私で良いって?」
もう一度溜息交じりに向けられた確認に、至極真面目に頷く。
「なんの問題もなく。その代わり団長も俺以外とするのはやめてください。俺独占欲強いんで」
「……こんな筋肉抱いて、おもしろいか? 柔らかくもないだろうが」
「……そうですね、柔らかくはないですが、あの団長が気持ちよくなって喘いでいると思うと、最高に興奮してぞくぞくするんで、良いんじゃないでしょうか」
正直に応えると、団長がわずかに悩むようにうつむいた。そしてうつむいたまま視線だけ俺に向け、難しい顔でほざいた。
「本気か? なら、せめて……あぁん、らめぇ……とか言った方が、良いか?」
「気色悪いんでやめてください。後、真顔で言われると、別の意味でゾワゾワします」
上目がちで何言ってんだこの人。思わず腕をさする。そんな演技、見たくないわ。
見たいのは素のあんたの顔だ。気持ちよくてだらしなく緩んだ顔が、ふと目が合った瞬間、にやりといつもの顔を見せるのがいい。ニヤニヤ笑いながら腰ふって、良いとこ当たった瞬間気持ちよさに歪む顔がいい。ぐっと低い声でこらえるうめき声が、必死で耐えてるのを教えてくるのがいい。俺が興奮するのは、全部、あんたらしい姿だ。それで時折、前後不覚になるぐらい快感にふける姿が見えたら、もっといい。
らしくなくよがってる姿なんて、興味ない。
思わずわざとらしく喘ぐ姿を想像して、おや、と気付く。
……いや、そうでもないかな。おもしろがってわざとあんあんいってる団長と笑いながらするのも、それはそれでおもしろいかもしれない。わざと喘いでいる途中で、本気のあえぎが入るとか、最高じゃねぇか? いや、うん、イイ! アリだ、アリ。
一瞬で広がった妄想を素知らぬ顔でごまかし、真面目な顔して言い直す。
「……でも、あんたが演技したいっていうのなら、したら良いんじゃないでしょうか。俺は別に、どっちでも良いです。あんたが俺とするのを楽しんでくれるんなら、それで。気に入らなかったらツッコミ入れるだけなんで」
「ほう。一番奥をついて演技を黙らせるのか。なかなか男らしいな」
「そんなことは一言もいってません」
なんでバレた。
「……なあ、ラーシュ。お前こそ、ほんとに逃げなくて良いのか。捨てるななんて言うがな、私はお前が受け入れた以上、気が狂ったようにお前に執着するだろう。それでもお前は、私のそばにいるというのか……?」
「執着ったって……俺も相当だと思うんで、良いんじゃないですか」
想像してみたが、どう考えたって俺の方が重い気がする。
「思い余って夜這いするような男だぞ?」
「思い余ってって……なんか、ほんとに俺が好きって感じですねぇ」
なんだそれ。めちゃくちゃうれしいんだけど。どういう形だろうが関係ない。団長が俺を一番に欲しがってくるのならうれしいに決まっている。
「……はじめからそう言っている」
「は?!」
不機嫌そうにつぶやいた団長に思わず顔をしかめた。
待てやこら。なに捏造してんですか。
誰が? 何を? はじめから言ったって?
「言ってないですよ。全っ然言ってないです。言わなかったから、俺の怒りを買ったって、わかってます?」
実際頭きたのは、俺のことを避けまくったからだけど。でも、最初からそう言ってたら、俺は絶対に団長のことを受け入れていた。
そうだよ。なんで思い余って夜這いなんだよ。
じとりと目を向ければ団長が不機嫌そうな顔をぎくりと強ばらせ、後ろめたそうにそっと目をそらした。
「そもそもですよ。一足飛びに強姦もどきをする前に、俺に言うことがあったんじゃないですか?」
追求すれば、ばつが悪そうにうろうろと視線を漂わせ、少し考え込むように首をかしげた。
「そう、だな……」
そして照れくさそうにはにかみながら、人差し指と中指の間から親指をのぞかせる握り拳を作り、おもむろに。
「一発やろうぜ」
違う、そっちじゃない。
ゴツッ
「即物的すぎです」
思わず衝動的に手が出てしまった。
頬染めて恥ずかしそうに言えばいいってもんじゃないだろう。
「痛いじゃないか」
「そうですか、よかったです。どっかおかしいんじゃないかと思ってたんですが、痛覚の方は無事なようで安心しました。でも肝心の頭がダメだったようで、非常に残念です」
「ひどいな」
団長はなぜだか楽しそうに笑った。
「だいたい何であんな突拍子もないことしたんです。ちょっと考えりゃ、同じ離れるにしろ嫌われるにしろ普通に好きって言う方がましでしょうに」
呆れて溜息をつけば、団長がにやりと笑う。
「馬鹿だな。理性だけで動けなくなるのが、恋ってヤツだろうが。だいたいそんなこと思いつきもしなかったさ。おまえがどう思うかなんて考える余裕なんか、私には欠片ほども残ってなかったってことだ」
ニヤニヤとからかうようにそう嘯いているが、なんでか案外本音じゃないかと思えた。
「あんたに恋とか言われるとなんかむずがゆいんですが……まあ、それはそうかもしれません。恋かどうかは置いとくとして、俺も、あんたが俺を捨てるのかと思ったら、目先のことしか見えなくなったんで」
きっと似たようなもんだろう。さっきまでの俺の頭の中なんて、めちゃくちゃだった。
あんたの思い通りにならないと思ったり、最後だからとあんたの思い通りになってやると思ったり。考えてたことなんて矛盾だらけで支離滅裂だ。でも、どれもこれも本心だったのだからタチが悪い。俺の感情はあんたにかき乱されてばっかりだ。
「俺も団長のことばっか考えすぎて、余裕なさ過ぎて自分の気持ちを押しつけることしかできませんでした」
一緒ですねと苦笑いすれば、団長がうめきながら目元をおおって天を仰いだ。
「……ラーシュ、お前はひどい男だな」
「なんですか、突然。変な言いがかりはやめてください」
「天然か。どれだけ俺を振り回せば気が済むんだ。これ以上惚れさせるんじゃない。犯すぞ」
「あんたの凶器ぶち込まれたら裂けるんで、マジやめてください。でも団長が乗っかるっていうんならやぶさかではありません」
お? と団長が反応した。ニヤニヤと笑いながら再度人差し指と中指の間に親指を突っこんだ。
「なんだ、まだやるか?」
「やりませんよ、こんなトコで。俺があんたを変態って罵るためにここを選んだだけで、こういうのはあんまり好きじゃありません」
てか、ちょっとマテよ。さっきの視姦プレイは団長は望みじゃなくて、制服プレイも望まれたわけでもなかったから、団長は変態じゃないって思い直していた。だがよく考えると、本気で住人に見られてると思ってたくせに、チンポガチガチで受け入れてたんだぞ、この人。しかも自分で乳首いじりながら……。
「……あんた、なんで、さっきの受け入れてたんですか。本気で嫌なら逃げれたはずでしょう」
これは是が非でも解明する必要性がある。
一瞬言葉にひるんだ団長が、溜息交じりに、渋々と白状した。
「……お前が、好きだと思ったんだよ、ああいうの。私は言葉責めの鬼畜野郎の性癖に合わせてやったんだろうが。……お前がそうしたいのなら、それでも良いかと、思っちまったんだよなぁ」
「……馬鹿ですか」
「ハハッ、……馬鹿だよなぁ」
苦笑いする団長に、胸が詰まる。
なんだよ、それ。そこまで覚悟を決めた団長に、俺は……。
「……っ、バカですよ。……人生、棒に振ってまで……」
「まあ、惚れた男に抱かれて終わるってのも、乙なもんじゃないか?」
「全然乙じゃないですよ………………あれ? ………………って、いやいやいや、待って、ちょっと待って。今流されそうになりましたけど、さりげなく俺のせいにしようとしてますけど、でもめちゃくちゃ興奮してましたよね?! ……やっぱり単純にあんたの性癖……」
危うく視姦プレイでチンポガチガチの真相をうっかり逃すところだった。
詰め寄ると、団長がにやりと笑う。
「……ま、嫌いじゃないな」
「……! 結局変態かよ!」
俺の反省を返せ……!!
「くははっ」
団長はニヤニヤとふてぶてしく笑って、煙草の煙を吐いた。その仕草が異様に似合う。
ほんと、無駄にかっこいいな、この人は……!!
「しっかし、ラーシュよ。こんなところで準備もなく盛って、クソまみれの惨劇になったらどうするつもりだったんだ……」
「恥ずかしがるあんたを堪能しますよ」
「馬鹿を言うな。後始末の問題だ」
「浄火(高温で跡形もなく証拠隠滅)するから問題ありません。俺を誰だと思ってるんですか」
「火事になるだろう」
「ですから、俺を誰だと思っているんですか。伊達で団長の相棒を名乗ってるわけじゃないんですよ。接近魔法で俺の右に出る者はいません。馬鹿みたいにでかい結界しか張れないヤツと一緒にしないでください。最小限の結界張って洗浄から浄火まで完璧に誰にも見つからずに仕上げますよ。こんなふうにね」
そう言って、足下に転がる数本の煙草の吸い殻を跡形もなく灰にする。
元々火を付けることを目的にした煙草は、あっけなく燃え尽きた。が、汚物を一瞬でとなると、もう少し高温となる。
「……ああ、でも、その場合は石畳に、焼け跡が少し残ってしまうかもしれませんね……。ここを通る度に、あんたが漏らしたことを思い出す……というのも、乙な話です」
お互いの身なりを整えながら、そろそろ帰る頃合いかと辺りを見渡した。気がつけば夜だ。結界を解こうとした瞬間。
「お前にそんな趣味が……そうか、そんなお前を想像するだけで、完立ちしそうだ。……よし、今からやるか?」
「ですから全力で遠慮申し上げます」
主張し始めた股間を指さす団長の手は、はたき落としておいた。
ひとしきり笑った団長もまた、きちんと身なりを整え、いつもの団長の姿になる。お互いのいろんな汁で汚れた部分は、夜だから気付かれないだろう……と信じておく。
結界を解こうとした瞬間、肩を抱いてきた団長が、俺の耳元で低く囁いた。
「ラーシュ、お前が私だけで良いというのなら、身体からでもじっくり落として惚れさせてやる。覚悟しておけよ」
何を言ってんだ、この人は。
「もう惚れてますよ、十分すぎるぐらいね」
その言葉に呆れたように溜息をついた団長に、俺は笑いかけてからそのままキスをする。
「俺は、あんたのもんですよ、カルディオ」
惚れてますよ。想いが一緒ではない寂しさを隠そうとするあんたに、寂しがらないで欲しいと口づけたくなるぐらいには。あんたの名前を呼んで、それが許される自分は特別だと思い込みたいぐらいには。
俺は、正直、恋とか愛とかなんて感情はよくわからない。でも。
ねえ団長、もう、これ、恋って事で、よくないですか?
「……ほんとに、お前はタチが悪い」
「失礼な、ガチガチですよ」
すっとぼけた俺に、胡乱な顔をした団長は「そういうことなら」と俺の肩をがっしりと掴む。逃がさないとでも言うように。
「じゃあ、やるか」
俺はすぐ脇にある端正な笑顔に鼻で笑う。
「……帰ったら、もう一戦? ほんとにいけるんですか?」
「望むところだ」
団長と二人で路地から出ると、夜の町に踏み出す。
騎士服着たがたいのでかい男二人、肩組んで談笑しながら帰路につく。まさか、ヤリに帰ってる途中だなんて誰も思うまい。
「あ、しまった」
団長が突然立ち止まる。
「なんです?」
神妙な顔した団長が俺の耳元で囁いた。
「今ケツからお前の精液が漏れた」
「……っほんっと、あんたは……!」
がつっと膝で団長のケツを蹴り上げる。
「しっかり絞めといてください」
団長が声をあげて笑いながら歩く。きれいな顔して、この人はほんっと……。
「腹壊したくないから、帰ったらちゃんと責任持ってかき出してくれよ?」
「追加でぶち込むのが先です」
「それは楽しみだ」
声をあげて笑い、楽しそうに隣を歩く団長の顔をちらりと見る。
視線を受けて、にやりと笑う顔は、相変わらずきれいで男臭い。
こんな団長が淫乱だったなんて聞いてないんだけど、でもまあそれが俺にだけって言うんなら、悪くない。
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