地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる

冷凍湖

文字の大きさ
上 下
43 / 44

43

しおりを挟む
シルヴァンが差し出した手を取ると、転移魔法が発動された。
一瞬で、そこは青空の下だ。
久しぶりの地面の感触。柔らかな風と、温かい日差し。
俺は深呼吸をした。草木の匂い。どうやらここは丘の上のようだった。下の方に、街が見える。シルヴァンが教えてくれた。

「あれがエメラの街だよ。のんびり散歩しながら向かおうか」
「は、はい……」

シルヴァンと肩を並べて歩く。肩の高さには、だいぶ差がある。シルヴァン、大きいな……。手も足もすらりと長い。銀髪が陽に透けて輝いている。
太陽の下で見るシルヴァンは、まばゆいくらいにきれいで、かっこよくて……うっかり見惚れて無言になってしまう。

「シエル?」
「……」
「どうしたの?」
「っ、あ、ひ、久しぶりの、そ、そと、だから、」
「ああ、そうだよね。すごくいい天気でよかったけれど、まぶしくないかな」
「だだ、大丈夫、です、っあ、」
「おっと」

小石に躓いた俺を、シルヴァンがさっと支えてくれた。

「あ、ありがと、ございます……」
「なんだか危なっかしいね。手をつなごうか」
「えぁ」
「いや?」
「……ううん、や、やじゃない」

俺がそう言うと、シルヴァンは微笑んで手を差し出してくれた。そっと指を絡めて、丘を下っていく。

「ねぇ、シエル」
「はい……?」
「ごめんね」
「えっ」

突然謝罪されたことに、俺は驚いて隣にいるシルヴァンを見つめた。シルヴァンはまっすぐ前を向いたまま。横顔もすごく、きれいだ。

「な、にが、ですか」
「大変なことに巻き込んでしまって。……早く元の場所に帰りたい、よね?」

正直に言うと、帰りたくなんてぜんぜんない。今よりずっと惨めな生活を送ってきたからだ。
誰にも相手にされず、疎まれて、ゴミみたいな人生だった。
今となっては、道路に飛び出したあの子どもに感謝しているくらいだ。あの子のおかげであのクソな生活からおさらばできた上に、シルヴァンと出会うことができた。
……けど。
それを、口にすることはできなかった。
帰りたくないなんて、俺が駄々をこねたらシルヴァンは困るだろう。それに、理由も訊かれるはずだ。そうしたら、俺のしょうもない半生を語らなくてはいけなくなる。
……シルヴァンには、知られたくない。俺の惨めな一生を。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...