25 / 44
25
しおりを挟む
お祝いの食事会は最上階のダイニングルームで行われた。
きっと夜景がすごいんだろうな、と想像ができるガラス張りの部屋だ。高いところが苦手な俺のために、あらかじめ薄いレースで景色を遮ってくれていた。
硬い石の床が、豪華なシャンデリアの光に照らされて、濡れたように輝いている。
席には、すでにシルヴァンの両親がついていた。大きなテーブルに、ところ狭しとご馳走が並んでいる。
「シエル、いらっしゃい」
シルヴァンのお母さんが優しく微笑んでくれた。
ちょっと垂れ目な緑の瞳がシルヴァンにそっくりだ。
「こ、こんばん、は」
「一冊目の翻訳が終わったんだってね。お疲れさま。いやあ、素晴らしい、素晴らしいねえ。」
「あ、ありがと、ございます……」
お父さんは相変わらずダンディだ。恰幅がよくて鼻の下によく整えられた髭が生えている。二人のとなりは空席だった。
「エリオットは?」
俺のために椅子を椅子を引いてくれながら、シルヴァンはお母さんに尋ねた。
「下でゼインと喧嘩してるわ。いつもの痴話喧嘩よ」
「またやっているんですか。困りましたね」
「そうよねぇ。許嫁なのだから、仲良くすればいいのに」
「どうせ、エリオがまた怒らせるようなことを言ったんでしょう。まったく、しかたない弟ですね。……ごめんね、シエル。愚弟のせいで待たせることになって」
「い、いえ……」
「はっはっはっ、何も待っていることはないじゃないか。遅れてくるやつが悪いんだ。もう始めてしまおう。さあ、皆、グラスを持って」
お父さんが豪快に笑ってそう言ったので、俺たちはグラスを手にした。
……て、いうか。
今すごい重要な情報を聞いた気がする。
え、え?ゼインが、シルヴァンの弟の許嫁……?
「シエル、きみのおかげで未来に希望が見えてきたようだ。異世界から来たというきみが、この世界のために尽力してくれていることに、深く感謝申し上げる。これからもシルヴァンと二人三脚で頑張ってください」
「あ、は、はい、えっと、お、俺の方こそ、し、シルヴァンには、よくしてもらって、あ、ありがたい、です」
お父さんが褒めてくれて、お母さんもにこにこそれを見ている。シルヴァンは優しい目で俺を見つめてくれて……嬉しいんだけど、俺は上の空になってしまった。
ゼインがシルヴァンの弟の許嫁だと聞いて、驚くと同時に、俺はすごくほっとしていた。
そして、ほっとしたことに、衝撃を受けていた。
こんなことで安心するなんて、俺、どうかしてない……?
きっと夜景がすごいんだろうな、と想像ができるガラス張りの部屋だ。高いところが苦手な俺のために、あらかじめ薄いレースで景色を遮ってくれていた。
硬い石の床が、豪華なシャンデリアの光に照らされて、濡れたように輝いている。
席には、すでにシルヴァンの両親がついていた。大きなテーブルに、ところ狭しとご馳走が並んでいる。
「シエル、いらっしゃい」
シルヴァンのお母さんが優しく微笑んでくれた。
ちょっと垂れ目な緑の瞳がシルヴァンにそっくりだ。
「こ、こんばん、は」
「一冊目の翻訳が終わったんだってね。お疲れさま。いやあ、素晴らしい、素晴らしいねえ。」
「あ、ありがと、ございます……」
お父さんは相変わらずダンディだ。恰幅がよくて鼻の下によく整えられた髭が生えている。二人のとなりは空席だった。
「エリオットは?」
俺のために椅子を椅子を引いてくれながら、シルヴァンはお母さんに尋ねた。
「下でゼインと喧嘩してるわ。いつもの痴話喧嘩よ」
「またやっているんですか。困りましたね」
「そうよねぇ。許嫁なのだから、仲良くすればいいのに」
「どうせ、エリオがまた怒らせるようなことを言ったんでしょう。まったく、しかたない弟ですね。……ごめんね、シエル。愚弟のせいで待たせることになって」
「い、いえ……」
「はっはっはっ、何も待っていることはないじゃないか。遅れてくるやつが悪いんだ。もう始めてしまおう。さあ、皆、グラスを持って」
お父さんが豪快に笑ってそう言ったので、俺たちはグラスを手にした。
……て、いうか。
今すごい重要な情報を聞いた気がする。
え、え?ゼインが、シルヴァンの弟の許嫁……?
「シエル、きみのおかげで未来に希望が見えてきたようだ。異世界から来たというきみが、この世界のために尽力してくれていることに、深く感謝申し上げる。これからもシルヴァンと二人三脚で頑張ってください」
「あ、は、はい、えっと、お、俺の方こそ、し、シルヴァンには、よくしてもらって、あ、ありがたい、です」
お父さんが褒めてくれて、お母さんもにこにこそれを見ている。シルヴァンは優しい目で俺を見つめてくれて……嬉しいんだけど、俺は上の空になってしまった。
ゼインがシルヴァンの弟の許嫁だと聞いて、驚くと同時に、俺はすごくほっとしていた。
そして、ほっとしたことに、衝撃を受けていた。
こんなことで安心するなんて、俺、どうかしてない……?
19
お気に入りに追加
2,842
あなたにおすすめの小説
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について
いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。
ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎
美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる