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「えぅ……」
こんなふうに本気で頼られたのも初めてだ。
頼みごとといえば、ろくな記憶がない。
「あっち行ってくれる?」とか「お前は黙ってろ」とか「どうせ暇だろうしシフト替わってよ」とか「金貸して」とか「苛々するから殴らせろ」だとか。
断ると舌打ちや拳が戻ってくる。ってか、頼みごととも言えないか。
だけど、シルヴァンの頼みは、そういうのとはまったく異なっていて、だから、つい。
つい、こくり、とうなずいてしまった。
「……ありがとう、シエル」
「い、いえ、ちゃんとできるか、わか、分からない、けど……」
「私も精一杯サポートする。きみにだけ大変な思いをさせるわけには、いかない。約束する。どうか最後まで、よろしく頼む」
シルヴァンは深々と頭を下げた。
「こ、こちらこそ、あの、よ、ろしく、お願いしま、す……」
10冊の魔法百科全書の翻訳。
一体どれくらいの時間がかかるんだろう。それが終わったら、そのとき俺はどうなるんだろう。
元の世界に戻る魔法。見つかったら、やっぱり帰らないといけないんだろうか。
いろいろ考えると、頭が痛くなってくる。
「そうだ、シエル。何かしてほしいことはないかい?しばらくの間、ここで暮らしてもらうことになるだろうから、できる限り快適に過ごしてほしいんだ。欲しいものや、足りないものがあれば、なんでも言ってくれるかな。遠慮なんか、してはいけないよ」
「えっと……」
「そうは言っても、急には思いつかないよね。気がついたら、その都度……」
「あ、あのっ」
「うん?」
してほしいこと。
ほしいもの。
俺が一番求めているもの。それは。
「あ、の、俺、シルヴァンと、い、いっぱい、は、話とかしてみたい、……です。あ、あなたの、こと知りたい、し、俺の話も聞いてほしい、し、あと、あと、は、頑張る、ので、ちゃ、ちゃんとできたら、ほ、褒めて、ほしいっ……」
うわあ、言ってしまった。
俺、すごい気持ち悪い。褒めてほしいとか、言っちゃった。
バカじゃね?世界の危機って言われたのに、そんなガキみたいな要求。
きっとシルヴァンも呆れてる。言うんじゃなかった……。
「もちろんだよ」
「え?え、え?」
「何をびっくりしているの?当たり前じゃないか。時間が許す限り会話を持とう。それから、ふふ、もちろんたくさん褒めさせてもらうよ。だけど、そんなことでいいのかい?きみは欲がない子だね」
そんなことないと思う。
俺、今までで一番欲張りになってる。
「シエル」
ぽん。頭に手が乗せられる。
「大変な頼みをきいてくれて、ありがとう。きみは優しいね。本当にいい子だ……」
「え、あ♡」
深い緑の瞳を細め、シルヴァンが俺に微笑みかけた。
優しく梳くように髪を撫でられる。
自分でも鬱陶しいくらい伸びてしまった前髪を払われ、ひたいがあらわになる。
「……キスをしてもいいかい?きみに感謝と親愛の気持ちを伝えたいんだ」
こんなふうに本気で頼られたのも初めてだ。
頼みごとといえば、ろくな記憶がない。
「あっち行ってくれる?」とか「お前は黙ってろ」とか「どうせ暇だろうしシフト替わってよ」とか「金貸して」とか「苛々するから殴らせろ」だとか。
断ると舌打ちや拳が戻ってくる。ってか、頼みごととも言えないか。
だけど、シルヴァンの頼みは、そういうのとはまったく異なっていて、だから、つい。
つい、こくり、とうなずいてしまった。
「……ありがとう、シエル」
「い、いえ、ちゃんとできるか、わか、分からない、けど……」
「私も精一杯サポートする。きみにだけ大変な思いをさせるわけには、いかない。約束する。どうか最後まで、よろしく頼む」
シルヴァンは深々と頭を下げた。
「こ、こちらこそ、あの、よ、ろしく、お願いしま、す……」
10冊の魔法百科全書の翻訳。
一体どれくらいの時間がかかるんだろう。それが終わったら、そのとき俺はどうなるんだろう。
元の世界に戻る魔法。見つかったら、やっぱり帰らないといけないんだろうか。
いろいろ考えると、頭が痛くなってくる。
「そうだ、シエル。何かしてほしいことはないかい?しばらくの間、ここで暮らしてもらうことになるだろうから、できる限り快適に過ごしてほしいんだ。欲しいものや、足りないものがあれば、なんでも言ってくれるかな。遠慮なんか、してはいけないよ」
「えっと……」
「そうは言っても、急には思いつかないよね。気がついたら、その都度……」
「あ、あのっ」
「うん?」
してほしいこと。
ほしいもの。
俺が一番求めているもの。それは。
「あ、の、俺、シルヴァンと、い、いっぱい、は、話とかしてみたい、……です。あ、あなたの、こと知りたい、し、俺の話も聞いてほしい、し、あと、あと、は、頑張る、ので、ちゃ、ちゃんとできたら、ほ、褒めて、ほしいっ……」
うわあ、言ってしまった。
俺、すごい気持ち悪い。褒めてほしいとか、言っちゃった。
バカじゃね?世界の危機って言われたのに、そんなガキみたいな要求。
きっとシルヴァンも呆れてる。言うんじゃなかった……。
「もちろんだよ」
「え?え、え?」
「何をびっくりしているの?当たり前じゃないか。時間が許す限り会話を持とう。それから、ふふ、もちろんたくさん褒めさせてもらうよ。だけど、そんなことでいいのかい?きみは欲がない子だね」
そんなことないと思う。
俺、今までで一番欲張りになってる。
「シエル」
ぽん。頭に手が乗せられる。
「大変な頼みをきいてくれて、ありがとう。きみは優しいね。本当にいい子だ……」
「え、あ♡」
深い緑の瞳を細め、シルヴァンが俺に微笑みかけた。
優しく梳くように髪を撫でられる。
自分でも鬱陶しいくらい伸びてしまった前髪を払われ、ひたいがあらわになる。
「……キスをしてもいいかい?きみに感謝と親愛の気持ちを伝えたいんだ」
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