地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる

冷凍湖

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「……っ、げほ、ごほっ」

夢中で飲んだせいで、むせてしまった。
シルヴァンがベッドに腰をおろして、背中を撫でてくれる。

「あぅ、ご、ごえ、なしゃ」

濡れてしまった口もとを、シルヴァンが拭いてくれる。ハンカチ、よりも、ハンカチーフ、と呼ぶのがふさわしいような、光沢のある布だ。

「平気かい?」
「ひゃい、すみませ、ん」
「残りは落ち着いて飲むといいよ」
「あぃ……」
「ふふ」

見守られながら水を飲み干し、ようやく人心地つく。
部屋を見渡す余裕もでてきた。
屋敷と言っていたから、古めかしいお城みたいな場所を想像していたのに、俺が連れてこられた部屋は、ホテルみたいな内装だった。
それも、一度だけ泊まったビジネスホテルみたいな簡素な内装じゃなく、一度も泊まったことはないけど動画で見たことがあるラブホテルみたいな、ベッドばっかりでかい部屋でもなく、最新で最高級の外資系ホテルみたいな、シンプルモダンな感じ。
そして超高層階にあるらしい。
壁一面がガラスになってる窓から見えている夕焼けの空が、見上げる感じじゃなくて、同じ高さにある気がする。
マジかよ。俺高所恐怖症なんですけど。

「もしかして、高いところ苦手だった?」
「えぁ、は、えっと、あの、は、はい」
「ごめんね。低層界はオフィスになっていて、レジデンスは70階より上の階になるんだよ」
「はあ……」
「帳を下ろそうか」

シルヴァンが窓に向かって手をかざすと、カーテンが音もなく広がって、ガラスの窓を覆った。
同時に、室内の灯りがつく。
適度な間隔で配置されたランプが、眩しすぎない柔らかな光を放った。

「どうだい?これで怖くない?」
「あ、は、はい……」

すごい。シルヴァンはほんとうに魔法つかいだったんだ。

「シエル、先ほども言ったけれど、きみは私たちの救世主なんだ。私の話を聞いてくれる?それから、きみことも聞かせてほしい」
「あ……」

胸のうちに、ぽう、と灯りがともった。この部屋に置かれたランプみたいな、暖かな灯りだ。
俺の話を、聞かせてほしいって。
そう言われたことが、すごく、すごく、ものすごく、嬉しかった。
俺の話を聞いてくれる人。そんな人、いままでいなかった。
ああだめだ、俺。浮かれるな。
シルヴァンは俺が救世主だと思ってるから、そんなふうに言ってるだけだ。じゃなかったら、俺なんかに興味を持つわけない。
……ああ、だけど、でも。
それでもいいと思ってしまう。
理由なんてなんでもいい。今だけでいい。心からじゃなくてもいい。うわべだけでも、なんでもいい。
俺のことを見てほしかった。
嘘でいいから、見守るようなまなざしを、もっと向けてほしい、と願ってしまう。
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