10 / 44
10
しおりを挟む
「……っ、げほ、ごほっ」
夢中で飲んだせいで、むせてしまった。
シルヴァンがベッドに腰をおろして、背中を撫でてくれる。
「あぅ、ご、ごえ、なしゃ」
濡れてしまった口もとを、シルヴァンが拭いてくれる。ハンカチ、よりも、ハンカチーフ、と呼ぶのがふさわしいような、光沢のある布だ。
「平気かい?」
「ひゃい、すみませ、ん」
「残りは落ち着いて飲むといいよ」
「あぃ……」
「ふふ」
見守られながら水を飲み干し、ようやく人心地つく。
部屋を見渡す余裕もでてきた。
屋敷と言っていたから、古めかしいお城みたいな場所を想像していたのに、俺が連れてこられた部屋は、ホテルみたいな内装だった。
それも、一度だけ泊まったビジネスホテルみたいな簡素な内装じゃなく、一度も泊まったことはないけど動画で見たことがあるラブホテルみたいな、ベッドばっかりでかい部屋でもなく、最新で最高級の外資系ホテルみたいな、シンプルモダンな感じ。
そして超高層階にあるらしい。
壁一面がガラスになってる窓から見えている夕焼けの空が、見上げる感じじゃなくて、同じ高さにある気がする。
マジかよ。俺高所恐怖症なんですけど。
「もしかして、高いところ苦手だった?」
「えぁ、は、えっと、あの、は、はい」
「ごめんね。低層界はオフィスになっていて、レジデンスは70階より上の階になるんだよ」
「はあ……」
「帳を下ろそうか」
シルヴァンが窓に向かって手をかざすと、カーテンが音もなく広がって、ガラスの窓を覆った。
同時に、室内の灯りがつく。
適度な間隔で配置されたランプが、眩しすぎない柔らかな光を放った。
「どうだい?これで怖くない?」
「あ、は、はい……」
すごい。シルヴァンはほんとうに魔法つかいだったんだ。
「シエル、先ほども言ったけれど、きみは私たちの救世主なんだ。私の話を聞いてくれる?それから、きみことも聞かせてほしい」
「あ……」
胸のうちに、ぽう、と灯りがともった。この部屋に置かれたランプみたいな、暖かな灯りだ。
俺の話を、聞かせてほしいって。
そう言われたことが、すごく、すごく、ものすごく、嬉しかった。
俺の話を聞いてくれる人。そんな人、いままでいなかった。
ああだめだ、俺。浮かれるな。
シルヴァンは俺が救世主だと思ってるから、そんなふうに言ってるだけだ。じゃなかったら、俺なんかに興味を持つわけない。
……ああ、だけど、でも。
それでもいいと思ってしまう。
理由なんてなんでもいい。今だけでいい。心からじゃなくてもいい。うわべだけでも、なんでもいい。
俺のことを見てほしかった。
嘘でいいから、見守るようなまなざしを、もっと向けてほしい、と願ってしまう。
夢中で飲んだせいで、むせてしまった。
シルヴァンがベッドに腰をおろして、背中を撫でてくれる。
「あぅ、ご、ごえ、なしゃ」
濡れてしまった口もとを、シルヴァンが拭いてくれる。ハンカチ、よりも、ハンカチーフ、と呼ぶのがふさわしいような、光沢のある布だ。
「平気かい?」
「ひゃい、すみませ、ん」
「残りは落ち着いて飲むといいよ」
「あぃ……」
「ふふ」
見守られながら水を飲み干し、ようやく人心地つく。
部屋を見渡す余裕もでてきた。
屋敷と言っていたから、古めかしいお城みたいな場所を想像していたのに、俺が連れてこられた部屋は、ホテルみたいな内装だった。
それも、一度だけ泊まったビジネスホテルみたいな簡素な内装じゃなく、一度も泊まったことはないけど動画で見たことがあるラブホテルみたいな、ベッドばっかりでかい部屋でもなく、最新で最高級の外資系ホテルみたいな、シンプルモダンな感じ。
そして超高層階にあるらしい。
壁一面がガラスになってる窓から見えている夕焼けの空が、見上げる感じじゃなくて、同じ高さにある気がする。
マジかよ。俺高所恐怖症なんですけど。
「もしかして、高いところ苦手だった?」
「えぁ、は、えっと、あの、は、はい」
「ごめんね。低層界はオフィスになっていて、レジデンスは70階より上の階になるんだよ」
「はあ……」
「帳を下ろそうか」
シルヴァンが窓に向かって手をかざすと、カーテンが音もなく広がって、ガラスの窓を覆った。
同時に、室内の灯りがつく。
適度な間隔で配置されたランプが、眩しすぎない柔らかな光を放った。
「どうだい?これで怖くない?」
「あ、は、はい……」
すごい。シルヴァンはほんとうに魔法つかいだったんだ。
「シエル、先ほども言ったけれど、きみは私たちの救世主なんだ。私の話を聞いてくれる?それから、きみことも聞かせてほしい」
「あ……」
胸のうちに、ぽう、と灯りがともった。この部屋に置かれたランプみたいな、暖かな灯りだ。
俺の話を、聞かせてほしいって。
そう言われたことが、すごく、すごく、ものすごく、嬉しかった。
俺の話を聞いてくれる人。そんな人、いままでいなかった。
ああだめだ、俺。浮かれるな。
シルヴァンは俺が救世主だと思ってるから、そんなふうに言ってるだけだ。じゃなかったら、俺なんかに興味を持つわけない。
……ああ、だけど、でも。
それでもいいと思ってしまう。
理由なんてなんでもいい。今だけでいい。心からじゃなくてもいい。うわべだけでも、なんでもいい。
俺のことを見てほしかった。
嘘でいいから、見守るようなまなざしを、もっと向けてほしい、と願ってしまう。
17
お気に入りに追加
2,842
あなたにおすすめの小説
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話
ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について
いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。
ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎
美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる